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信用と権威の自転車操業

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ITmediaオルタナティブブログでは内容の薄い記事であったり、事実誤認が明らかであったり、知識が足りていない知ったかぶりな記事を書くと激しく炎上することがあります。最近ではソーシャルメディアを経由して流入する人が増えたためにそういったこともすっかり少なくなりましたが、以前はオルタナブログのポータルやRSSを経由して定期的にチェックするという人が多かったのでしょう。

なぜそのようなことがあったかというと、それはおそらくITmediaの媒体としての信用というかブランドというか、そういった効果があるのだと思います。ITmediaはブログとはいえどんな文章を載せているのかというお叱りであるわけです。それが起きるのはつまり元々の媒体が好かれているからなのでしょう。数多あるWeb専業のニュースメディアの中でもITmediaだけでなく他の大手も含めて雑誌媒体からのDNAを濃く受け継いでいるところがそういった傾向が強いように思います。

それは前置きでして、こういったところでブログを書いていると、また本業でコンサルタントなどをしていると色々な方面から講演、執筆、インタビュー等の依頼をいただくことがあります。もちろんそのいくつかは引き受けて無事に役目を果たしました。他のオルタナブロガーの方を見ても本業の経歴に一層の彩りを添えるような活躍をしている方がたくさんいらっしゃいます。しかしながら断る依頼というのは少なくありません。そもそも私はサラリーマンですので副業と誤解を受けるような依頼は受けませんし、私の職務と深く関わるような内容での依頼であれば会社を通す必要があります。そうなると私個人のキャリアや会社へのメリット、または社会貢献といった観点から引き受ける理由がない場合はお断りします。(謝礼の多寡とは無関係に決まります。)

それよりも大切な判断があります。それは引き受けるのに力不足な依頼は必ず断ることです。これは非常に難しい判断です。というのも、依頼というのは無理に引き受けることで次の一手を大きくすることができるからです。「○○での講演実績」や「雑誌●●に寄稿」といった経歴はそれ自体が検索エンジンで広告塔になり、次の依頼を呼び込みます。これが一方向に強まっていくのであれば自分も合わせて成長できるのですが、広がりを持って行くと対応しきれないところでご依頼をいただくことがあります。そうなると、なんとか失敗せずに切り抜けることはできたとしても、読者や聴講者に対して実りのある結果を出せないかもしれません。

そもそもの依頼主にやる気がなく、聴講者もやる気がなく、私もとりあえず引き受けるかな?という感じであれば誰も損はしないかもしれません。それでいて私の経歴に新たな一行が付け加わるのであれば引き受けない理由はないでしょう。しかしそれを引き受けてしまってはいけない一線というのがあるように思います。しばらく前にですが、聴講者として「これはありなのか?」という思いをしたことからそれが引っかかっていました。そして私がちらほらとイベント関係の引き合いなどを戴いていると中には「これなんで自分に頼んでるんだろう?」というものが混ざっていて、それがどうやらgoogleで関係ありそうな単語を検索したら私がヒットしたから、というレベルなんだろうというようなものがあるとわかりました。

私は本業で頑張れていますのでそのあたりでのギラギラ感はかなり抑えているのですが、中には相当に積極的な人もいることでしょう。そういった人が自分の権威を高めることを主目的に活動すると、少しずつ良くない淀みが溜まっていくのではないかと心配になります。

おそらく紙媒体が主導だった時代には、整理部のような部署にいる人が「名士録」のような形で専門家リストを作って維持していたと思われます。そこから本人にコンタクトを取るのはなかなか難しかったでしょう。直接のコンタクトが取れない場合にはその周囲に連絡を取るしかありません。その時に「いや、●●先生はちょっと違うよ」とかそういったブレーキが働くこともあったでしょう。そのようにして正確な人に誘導されていくということも少なくなかったのではないでしょうか?

ところがメール等でダイレクトに連絡をしやすくなるとそういったソーシャルな最適化が働きません。引き受ける方にも、気軽に引き受けておいて結果をWebに公開しておけばもっと大きい獲物が釣れるという仕組みにどっぷり浸かってしまう人もいるでしょう。私はこれを「信用と権威の自転車操業」と命名します。確かに経歴上の「実績」は輝きを増していくのですが、それと比例して影響力が増えてより多くの人に自分が露出することになります。うまく自転車を漕げれば自分の専門性も高まってぐんぐんと階段を駆け上がることになるでしょう。しかしそれと反対に露出が増えるのと同時にボロも大きくなっていくということがありえます。そうならないよう自分を律しつつ能力を磨く取り組みが重要になるでしょう。

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