制服型のネット炎上が起きる理由
職場で不適切な行為をしたことをネット上に告白することで炎上する事件が相次いでいます。
炎上には差別や歴史認識の相違などから起きるものもありますが、ここ最近では特にこの「悪ふざけ」型の炎上が増えています。特に「制服」を着た人の炎上が多いですね。それはどのような仕組みで起きるのでしょうか?
私の考えをご紹介します。まずネットの炎上が起きる手前の段階にはアクセルとブレーキがあります。アクセルは目立ちたいだとか自分を強く見せたい、大きく見せたいといった気持ちです。人気を得たいという気持ちは誰にも少なからずあるでしょう。基本的にはそれらがアクセルとなります。端的に言うと「友達にうけることをしたい」ということですね。
ブレーキとしては自分自身の行為を恥ずかしく思う自制の気持ちが大きいでしょうが、最近の炎上事例がそれにより強いストップをかけているでしょう。「これをやったらまずいだろう」ということですね。
ほとんどの人はこのブレーキが十分に働くために、ここしばらくでは大きな炎上が起きていませんでした。もっとも、「これをやったら炎上するかも」という相場感覚がはっきりしていなかった数年前にはやはり炎上が多く発生していました。ここに来てまた炎上が増えてきたのはなぜなのでしょうか。
大きな割合をしめる原因としてスマホやLINEがこれまでのネットユーザとは異なる層へ普及し始めたことがあるでしょう。中高生の時にはオープンなSNSでなくてクローズな携帯メールや携帯電話のコミュニティで交流をしていた人たちがその時の気持ちでオープンなネット空間に現れたとすれば、これは大きな問題に繋がりやすいでしょう。
この他にもいくつかの原因が考えられます。私の感覚ですが、ここ数年でアルバイトに対しても「やる気」や「やりがい」を持ってもらえるような職場設計をするフランチャイズチェーンが増えています。大学生が引き起こした炎上なども続きましたが、それでも制服を着た悪ふざけが急に増えてきたように感じないでしょうか?
そのような事例を探している人が増えたということもあるかもしれませんが、私は「やりがいのある職場」作りが炎上を生んでいると考えています。アルバイトの人たちは仕事がおもしろくないとか、職場を困らせてやろうというネガティブな気持ちであのような不謹慎な行為をしているとは思えません。むしろその反対で、その仕事をしていることを誇りに思っているのではないでしょうか?すなわち仕事場で制服を来ていること自体を自分の身の回りに自慢したいという気持ちがあり、それがおもしろおかしいことをしたいという欲求と結びついてあのような不謹慎な行為になっているのではないかと考えられます。
「普通の人にはできないようなこと」は自分の身の回りの人にとっての大きな自慢です。SNSでも海外旅行であったり、珍しい光景というのは多くシェアされる体験です。冷蔵庫に入るとか芸能人が来たことをネットに公開するというのは、それと同じようなレアな行為です。レアだからこそシェアしたい気持ちになるのだとすれば、それはあくまでネットにシェアするためにエスカレートしてやってしまったことであって、一部に心配されるような「いつもこのような悪ふざけをしていたのか」「私がこれまで通ったときも裏でこのようなことが行われていたのか」という常習性は低いものと考えられます。私はこれらの行為は一点突破、この瞬間のためにやった特別な芸当であっただろうと考えています。
また、もし仕事がおもしろくない、その職場に誇りを持てないということならば、制服を来た自分をシェアすることなく、早く仕事の時間を過ぎ去ってくれと考えることでしょう。つまり制服型のネット炎上は、一定のまとまりを形成できた意識の高い職場においてネットリテラシーとモラルの低さが持ち込まれた時に起きているのでしょう。ネットリテラシーとモラルが低い人であっても、その職場にいることがシェアするに足りないというならばわざわざそこでふざけずに別のところでおもしろいことを探すはずです。
このような私の考えが正しいのであれば、ネット炎上に対して現場の愛社心が低いから起きるのだ、と考えてしまうと事態は改善しません。むしろ愛社心は十分であって、その職場で働いていることは周りの人に対して言いたくて仕方ない状態と捉え、ならばネット利用時にどいういったルールに従ってもらうべきかという点を考えるべきでしょう。
同様に、(ネットリテラシーでなく)日常生活のモラルが低いから起きるのだ、採用で人間を厳選しようというのも一定の効果しか得られないでしょう。というのも、必ずしも学歴とモラルの高さが比例するとは言い切れない部分もありますが、ネット炎上の過去の事例ではそこまでモラルが低くなさそうな有名大学似通う学生や企業の新入社員等も炎上しているからです。これをやったらきっとうけるだろうという悪魔のささやきは20歳前後くらいの世代にとって麻薬的な魅力があるようです。ネットがなくてもクルマやバイクや服や音楽にお金をかけて周りに認めてもらおうとする気持ちがとても盛り上がるのがこの年代です。社会人であっても車を車検非対応に改造してしまう人がいるように、そのような目立ちたいという思いの強さは、人によっては多少モラルからの逸脱してもいいか、と思えてしまうほど強いようです。とすればここもネット炎上でひどいことになった事例に学ぶことで一定の抑止効果があるように思います。
最後にですが、忘れていはいけない要素に精神的な健康さを失っている人にとってはアクセルは強く、ブレーキは弱くなる場合が見られます。もしアルバイトがこのような精神面の問題を抱えているとして、企業がそのサポートをしてあげるべきかどうかというのは非常に難しい問題です。社会的には解雇した旨の発表をしてけじめをつけることを求められるでしょうし、アルバイトに対して復帰可能になるまでサポートしてあげるということは収益面や組織体制面からとても無理なことかもしれません。ただ、上に挙げたようなシンプルな制服型の炎上は私の考えが正しければルール整備によって確実に減らせるはずです。一方で精神面の不調は一定の割合で現れると考えられますので、そのような方が「病気型」の炎上を起こすことはなかなか減らせないでしょう。事例が積み重なれば早期発見等の対応策が見つかるかもしれません。おそらく制服型の炎上はそろそろ収束に向かい始めることですので、新たなスタイルの炎上について目を向けていきたいと思います。