オルタナティブ・ブログ > 一般システムエンジニアの刻苦勉励 >

身の周りのおもしろおかしい事を探す日々。ITを中心に。

google wallet(Googleウォレット)と資金決済法の関連は?

»

googleが本日(2011年5月26日)に新たなモバイル決済サービスを導入するかもしれないということがニュースになっています。

Google、モバイル決済サービスを発表か――Bloomberg報道 - ITmedia ニュース http://www.itmedia.co.jp/news/articles/1105/25/news034.html

おそらくはインターネット上に仮想の財布を持ち、通信を介してそれらの残高を増減できるようなサービスであると思われます。それを媒介するチャネルのひとつにはandroid2.3で対応されたNFCが考えられます。既存サービスであるgoogle checkoutとの融合がどのような形になるか、現時点ではちょっとわかりません。

今の私の想像を挙げるならばこのような感じです。

ネット上に1円=1エリック単位で入金が可能な財布があり、スマホの画面からいつでも残高を確認できるようなサービスです。朝、NFCを介してコンビニのレジでおにぎりを買うと100エリックが引き去られます。午後には友人の立替払いをしていた飲み会代金の精算が3500エリック振り込まれました。その夜、androidマーケットで自分が売っていたアプリの代金、50万エリックが振り込まれ、そのうちの10万エリックは●●銀行に日本円で振込みました。

もし日本でもこのサービスが利用可能になるとすれば、下に挙げるような点が議論になると思われます。なおこれらは現時点での私個人の見解であり、私個人の憶測を多分に含むものでしかない点をお含みおきください。

出資法との関連

まずはgoogle walletが日本円との間で自由自在に入出金ができる場合、出資法の「預り金」に相当すると解釈される可能性があります(サービスの提供形態等によっては様々な可能性がありますので断言はできません)

出資法上の「預り金」は以下の4つの要件をすべて満たす場合に相当するとされます。「預り金」を誰でも引き受けるようなことができれば、預かる人が破綻等した際に混乱が生じてしまいます。そのため国が許可した人にだけ預り金を認める(原則として禁止する)というものです。許可を受けられる人としては、例えば銀行が挙げられます。

(1) 不特定かつ多数の者が相手であること

(2) 金銭の受け入れであること

(3) 元本の返還が約されていること

(4) 主として預け主の便宜のために金銭の価額を保管することを目的とするものであること

出資法第2条について(金融庁)
http://www.fsa.go.jp/common/law/guide/kaisya/02.pdf

これを回避するためには、元本の返還が約されているという部分を回避すればOKです。すなわち自分で入れたお金でなければ「返還」ではありません。そこで、自分が入金したお金は引き出せず、他人からもらったお金だけが引き出せるようにすれば(2)の要件を外れる可能性があります。

資金決済法との関連

まずは資金決済法には前払式支払手段発行者と資金移動業があることを説明しなくてはなりません。前払式支払手段発行者は電子マネーや商品券の発行を行うために届出を行った業者を指します。以前はプリカ法の管理下にありましたが、このたび規制強化を行いつつサーバ型電子マネーを含めることとなり資金決済法に生まれ変わりました。資金移動業は100万円以下の送金を行うために登録を行うという制度です。

もしgoogle walletが相互に送金可能である場合、それが100万円以上も可能ということですと、日本では資金移動業の枠外になってしまいます。ネット上に国境はありませんので日本国内に住む日本人にこのサービスを提供し続けた場合、それはgoogle本社のことであってgoogle日本法人は関係ないと言い切れるかもしれませんが、日本の金融当局がgoogle日本法人に意見を述べたり、金融当局同士の交渉によってgoogle本社に意見を述べたり、ということが起こり得る可能性があります。想定される結果としては、日本だけ100万円以下のサービスになるとか、サービス提供地域外になるかもしれません。

100万円以下の送金が可能である場合、google walletがアメリカのいずれかの州で送金業者の免許を取得するということでしたらばgoogle日本法人を本拠地として外国資金移動業者として登録を行うかもしれません。これはすんなりと行くパターンであるかと思います。一方でその場合は日本の資金決済法の要求に満たない部分があった場合に、それを整備しなくてはなりません。よってこれは行わないという形になるかもしれません。paypalの日本国内向けサービスでは個人間送金ができないと言われます。私個人のアカウントでは確かにメニューが表示されません。英語版でログインし直す等して色々と試してみたいとは思うのですが、もしアカウントを凍結されてしまった場合にややこしいので試すわけに行かず、確かなことが言えない状況です。

google walletが日本の資金移動業者にならず、あくまで外国人向けにサービスを提供しているだけであり、日本語メニューは在外邦人向けのものとして整備するということもあり得ます。もし使う日本人がいたとしてもそれは排除しようがない、という建前です。これは上の100万円以上の送金を想定したケースのように、日本の金融当局から何らかの働きかけを行う等して互いの妥協点を探っていくという可能性があります。日本人がネット上で外国のサービスを使って外国人に送金するときにどの国の法律が絡んでくるか、これは送金に限らず著作権や納税等でも非常に難しい問題ですね。

また、送金は行わないよ、という可能性もあります。すべては商行為に基づいた決済ですというパターンです。この場合ですと、前払いでgoogle wallet上にお金を貯めておくならば前払式支払手段に相当します。後払いで支払情報だけがwallet上に蓄積され、月末にまとめて支払いということならば前払式支払手段には該当しません。ひょっとすると割賦販売法等に当たるのかもしれませんが、そこはちょっと守備範囲外ですのですみません。わかりません。

google walletの正体が前払式支払手段とすると、googleのサービス規模と性格からいって間違いなく届出が必要になると思われます。(発行する前払式支払手段の有効期限が6ヶ月未満の場合は適用除外となります。また、法で決められた基準日の未使用残高が1000万円以下の場合も届け出の必要がありません。)

これも資金移動業のケースと同様に、日本のサービスとして日本法人を代表に立てて登録を行うか、もしくは外国のサービスとして日本国内に居住する日本人向けにはサービスを利用させない手立てを講じるか、ということになります。

以上のように長々と個人的な見解と憶測を書きましたが、そんなことをしていたら日本が出遅れてしまうのでは、という危惧もあります。一方で、セカンドライフの「リンデンドル」が換金性があるとかないとかいって騒ぎになっていたことを思い出すと、現実の通貨を何か別の価値に変換することのデメリットが実感できます。1万円のテレホンカードや10万円のハイウェイカードを買ったことがある人でも、SUICAのサービスが開始された当初にいきなり1万円札をチャージしたという人は少ないのではないでしょうか?

日本国内のいくつもの法律が新しいネットサービスの登場を阻んでいるのは事実かもしれませんが、完全な無法地帯にしてしまってインターネットに不信感を蔓延させてしまえばそれこそ何年もネットビジネスに陽の目が当たらないということもあり得ます。google walletがどのような形でリリースされるかこれを書いている時点ではまだわかっていませんが、日本だけでなく各国の当局とも折り合いをつけて安心・安全なサービスを実現していって欲しいものです。

Comment(0)