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クラウドコンピューティングという「神の眼」

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吉澤準特さんのブログ「IT業界の裏話」におもしろいエントリがありました。

『IT業界の裏話: 富山の薬売りのデータベース』
http://it-ura.seesaa.net/article/154191318.html

江戸時代の富山の薬売りたちはこのデータベースを使って、どの地域ではどの薬がどのくらい必要とされているかといった判断、今でいうマーケティングリサーチを行っていました。需要量を的確に予測して、品切れを起こさず利益を最大化する、古くなった薬の廃棄ロスを少なくする。こうしたことを実現するのに、富山の薬商人たちにとって情報活用は不可欠だったのです。まさにその手法はBIの本質そのものです。

↓原典はこちらだそうです。

『SAP ジャパン - ビジネスインテリジェンスによる成功の鍵がここに。』
http://www.sap.com/japan/campaigns/2010/bi_success/edojoho2.epx

私は以下の理由により、富山のスタイルで薬を売るというサービスはクラウドコンピューティング(SaaS)に近いものであると思います。

  1. 薬は追加生産のコストが低く、開発コストが高い
  2. 生産拠点を分散させると非効率だが、集中すると大量生産メリットが現れてくる
  3. 流行病や季節等の要因で需要に波がある

1について。ソフトウェアの特性として、開発コストは高いのですが、一旦完成したものは売れば売るほど儲かります。薬の原材料には珍重なものもありますが、それでも「効く薬」を探すための努力と比べれば安いと言えるでしょう。

2について。上で挙げた「珍重な材料」などは工場を分散して管理することに向きません。Aという拠点で余ったものがBという拠点で枯渇しているというような場合、資源の最適化が行われます。

3について。リンク先で紹介されているように年間の需要変動を把握しておくことにより事前に適切な資源配置を行うことが可能です。

なお以前にクラウド化すればアンダープロビジョニングの問題は万事解決という主張をしている人を見かけたことがあります。animotoのようなケースは事前に膨大なサーバを配置しているから乗り切れるのであって、その事前配備を超えてしまったら手の打ちようがないことはクラウドでもオンプレミスでも変わりありません。ただし新型インフルエンザの対応で流行地域と非流行地域の医療リソースの配分が困難だったのと違い、クラウドコンピューティングでは物理的な距離を意識せずに遊休しているサーバを投入できるというメリットがあります。その上限を超えてしまったらOUTです。

需要と供給が一致することをアダム・スミスは「神の見えざる手」と表現しました。なぜ「見えざる」なのか。それはおそらく需要者も供給者もたくさんいたからではないかと思います。例えば今日の新聞の価格設定をして「見えざる手」と表現すること起こりえないでしょう。

地理や人員などの物理的な制約の大きいビジネスでは供給者が巨大化するにも限界があり、ある市場の需要の大半を見渡すということはなかなか起きないと思われます。富山の薬売りは珍しいケースであるとも言えます。その一方でクラウドコンピューティングでは供給者の巨大化が進んでおり、リンク先で紹介されたように需要を見渡すことができます。そのために需要変動の大きい地域を選んでデータセンターを設立するといった先見的な展開を進めることができます。↓のように。

『Amazonクラウドの国内データセンターは9月稼働。大手通信事業者のデータセンターを間借り、との報道 - Publickey』
http://www.publickey1.jp/blog/10/amazon9.html

Amazonはクラウドだけでなく商品の配送ビジネスでも日本中の様々なデータを集約していることでしょう。物理的制約を受けるビジネスにあってはなかなか見られない規模に達してきているように思います。(もっとも、配送部門を専門業者に委託していますが)

そういった意味ではこのように巨大化した供給者は需要変動を見渡す「神の眼」を手に入れているといっても過言ではないかもしれません。

P.S.神の「耳」を持つ吉澤準特さんにおかれましては1つ前のエントリにお書きになったエントリについて非常に興味深い内容を把握していらっしゃるのではないかと私は勝手に妄想し、もしそうであれば次にお会いした際にくわしくお聞かせ願いたいなと思っております。

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