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クラウドコンピューティングは企業アプリのソーシャル化を促進するか

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クラウドコンピューティングが浸透することにより、企業アプリ上にユーザから広くバグ報告や改善要望を募るような仕組みが一般的になるのではないでしょうか。

これまでの企業内アプリケーションは主にイントラネット上に構築され、一企業内で利用されました。一般的に言えば企業内にアプリケーションを構築する場合、

  • その企業での運用に最適化するためカスタマイズされる
  • バグの報告や改善要望は構築の請負部隊(社内システム部門など)が取りまとめる
  • 既存システムとの結合が強く、一度構築されたアプリケーションが頻繁にバージョンアップされることはない

というような形が多いかと思います。一方クラウドコンピューティングの形態で提供されるSaaS型の場合ですと

  • あらゆる企業で運用しやすい最大公約数で構築される
  • 利用者が開発元に対してダイレクトにバグ報告や改善要望を挙げやすい
  • サーバサイドにプログラムがあり、かつエンドユーザや他システムとの接点がWeb画面またはAPI経由に限られるのでバージョンアップしたり機能を追加しやすい(バージョンアップ時に他システムへ与える影響が小さい密結合になっている)

ということが言えます。

企業内の閉じた世界のアプリケーションはカスタムされることが多く、また何らかの未知のミドルウェアや他システムなどと共存しながら動かされることが多いため、開発元にとっては開発の際の考慮事項が多くなります。しかもエンドユーザからのバグ報告や機能改善リクエストは社内システム部門での取りまとめ方次第では開発元にストレートに伝わりません。場合によっては、社内システム部門がエンドユーザからの改善要望を握りつぶすというようなケースも耳にしたことがあります(改善要望が大量に上がる=自分たちの要件定義が悪かったことになる)

それに対し、SaaSのようなアプリケーションは、パラメータ設定などの仕組みでカスタムできる範囲とできない範囲がしっかりと分けられており、開発元ベンダーが把握できないようなカスタム(特に魔改造)が発生することはありません。また、インターネットを通じて利用するアプリケーションであるため、「不便だ」と感じた瞬間にその旨を開発元ベンダーに伝えるような画面仕様にすることも可能です。そしてそれらの要望は開発元ベンダーで全ユーザから全リクエストを生のままで受け取り、自社の管理下にあるサーバに短期間で適用することができます。もちろん、開発元ベンダーがそれらを無視することもできます。しかしながらSaaSは初期投資が不必要であるため、乗り換えコストも低くサービスを解約しやすいという特徴があります。(データのロックインには留意する必要があります)。それによりユーザをつなぎとめるため、改善要望に対して真摯に対応しようとする動機が発生します。

SaaSの持つこれらの特徴の中で、特に多くのユーザがありのままの要望を伝えることは非常に大きなメリットであるように思います。twitterやmixi、はてな等のサービスではユーザの要望が短い期間で叶えられるということがあります。これは様々な利用者がインターネットを通じてそのサービスを利用し、不便だとかこうなって欲しいという思いを感じたときに即座に要望を送ることができるからです。またそれがどれくらい多くのユーザに思われているのかということを知ることもできます。要望を公開し、他者から賛成反対の意見を募る仕組みがある場合は、そのアイデアに対する利用者の一般的な反応についても知ることができます。SaaSはインターネット経由で利用するサービスですから、こういった改善メカニズムを取り入れやすいでしょう。

加えて、クラウドコンピューティングだけが備える特徴というわけではありませんが、パラメータ設定などの仕組みで細かなカスタマイズが可能というクラウドの特徴は、1つのアプリケーションを1つの企業内で様々な画面設定により利用する(ユーザにより好きな画面を選べる)ような使い方もあると思われます。どのような画面を選択したユーザが高い業務効率を発揮するのか、それを部署と画面タイプごとに分析しておすすめ設定を見極めていく「勝ち抜き戦」的とも言える使い方も考えられるでしょう。

SaaSはコストや大量処理時のパフォーマンスの点で優位とされますが、このように多くのユーザからの要望をweb2.0的な手法で吸い上げ、反映し、改善していくというやり方においてもユーザに大きなメリットをもたらすかもしれません。その効果を目の当たりにした企業は、クラウドコンピューティングへの置換えが難しいような場面で使われる企業内の閉じたアプリケーションにおいてもエンドユーザから広く意見を募るためのソーシャル的なアプローチを進めるかもしれません。

それが衆愚的な方向に向かうのか、群衆の叡智を具現化する方向に向かうのか。それは何年後かのアプリケーションの主流がどのような姿をしているかを見ればはっきりすることでしょう。

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