仮想化市場でカウンターマーケティング?
publickeyの新野さんのところでおもしろいエントリを読みました。
仮想化は今とてもホットな分野であるわけですが、その中でも主要なプレイヤーであるVMwareとシトリックスがこんなことをしていたそうです。
「VMware Virtualization Forum 2009」の会場となったグランドプリンスホテル赤坂の最寄り駅である赤坂見附駅の構内。そうです。ヴイエムウェアのライバルであるシトリックスが、このような構内広告を展開していたのです。
相手の喉下に広告をつきつける、というのはおもしろいやり方であると思います。もし自分がVMwareのフォーラムに参加していたとしたら、シトリックスをライバルであると認識し、色々と思いを馳せることだと思います。
例えば、シトリックスはMicrosoftへの歩み寄りをみせていて、でもやはりVMwareはシェアが高いし事例も多い、シトリックスはクライアント仮想化に強みがあるし……などなど。
これは素直な見方をすれば真正面から激突して互いに体力を磨り減らしているとも取れますが、違う見方をすることもできます。果たしてこの日の赤坂見附の駅で「やっぱOracleVMがいいよな」と感じるでしょうか。「Hyper-Vだな」と思うでしょうか。今回の広告のようにわかりやすい対立軸を明確にされると、人はついつい「仮想化といえばVMwareかCitrixか」と選択肢を狭めて考えてしまう傾向にあります。
事例は数多くあります。
- プリウスとインサイト
- TSUBAKIとアジエンス
- MacBook AIRとSony VAIO X
- コカコーラとペプシ
- iPodとウォークマン
- マクドナルドとロッテリア
- ITmediaとcnet(笑)
などなど。例として一つ目を取り上げてみると、インサイト登場前のプリウスは「車体価格は高いけれども燃費のいいプリウスを選ぶか、これまでどおりの車の幅広いラインナップから選ぶか」という選択の上で購入する車でした。この選択肢は「プリウス or その他大勢」という悩みでありバランスが悪い悩みです。これまでどおりの車の中に色々なキャラクターがあるために堂々巡りになってしまいがちです。
- プリウスを買おうか検討する
- 比較対照の車(例えばフィット)を決める
- プリウスのほうがいいかな
- もう一台くらい(たとえばデミオ)と比べてみる
- デミオがよくなる
- デミオとフィットを比べる
- フィットかな
- でもさっきはフィットよりプリウスが……
それがライバル車であるインサイトが出たことにより、エコカーにするか否か(バランスした質問)と、エコカーの中ではプリウスかインサイトか(バランスした質問)、というわかりやすい構造になりました。大幅な値引きなどがニュースになりましたが、私の認識ではプリウスもインサイトもうまくやったなと思っています。
また、「プリウスorその他大勢の車」というバランスしていない質問は、「エコカーorノーマルカー」という選択肢に置き換わり、問題が整理されました。それによりノーマルカーを買おうと決心した人はディーラーで「やっぱりエコカーも」と思い直すことが減り、営業効率も上がったのではないか、と推測しています。
こういったやり方は、相手のメーカーと談合してやるとわけにも行かず、偶然の要素が強いように思います。しかしながらプリウスが先行したところにインサイト、アジエンスが先行したところにTSUBAKIを投じたタイミングは、大きなシェアを獲得した先行製品が絶対的な安定感を発揮し始める前にライバル商品を投じるという機敏な対抗戦略が取られたことを感じさせます。出典になる本の心当たりがないのでしどろもどろですが、これを「ライバル戦略」ですとか「一騎打ち戦略」と呼ぶことがあるように記憶しています。(ランチェスターの一騎打ちとは別です)ある漫才師が相方同士での喧嘩して目立ちカメラをひきつけるのを芸にしていたのに似ています。カンニング中島さん、残念でした……。
シェアの目標数値という考え方もあり、3大目標数値として
- 73.9%の上限目標値
- 41.7%の相対的安定値
- 26.1%の下限目標値
というものがあります。もし1社で上限目標値73.9%を取れたとしたらその市場での絶対優位はゆるぎないものであり、80%や90%を狙いに行くのは無駄な投資を必要とすることになります。競争の激しい市場でも相対的安定値41.7%をとればひとまず安泰です。下限目標値である26.1%を切ると競争から頭1つ抜けたことになりますが、これより下では他の企業の動向に飲まれてしまい、主体的なセールスが行いにくくなるというものです。(値引き合戦に巻き込まれるなど)
このシェアの占有のタイプで特徴的なものは4種類あり、
- 分散型 誰も26.1%に届かない。血みどろ。(例)
- 相対的寡占型 トップ3の合計シェアが73.9%を越え、3社のシェアに差が少ない。ジャンケンのように3つ巴になる。(例)
- 二大寡占型 2社で73.9%を超える。2社のシェアに差が少ない。2社での競争が激化して疲労を起こすこともある。(例←ちょっと数字ができすぎですねw)
- 絶対的寡占型 1社で41.7%を超える。二台寡占型になるほど2番目の企業が強くない。首位の座が強固なものとなる。(例)
というようになります。
(ビールやデジカメなどは1ヶ月や1年で出荷された台数を見ますが、データベースやサーバなどは出荷台数だけでなくアクティブな台数の数字がでることもありますね。他の製品と同じく出荷台数で見るのが間違いないと思います)
以上を踏まえると、VMwareの一人勝ちは決まったものとしてそれをどこまで許容するかということを考えていくことになるかと思います。Citrix(ないしMS)が喰らいつきVMwareをトップとして二大寡占型になるか、または絶対的寡占型になるかの違いは、2番手以降にとっては大きなものになります。
コストダウンにも仮想化による集約、低価格サーバによるスケールアウト、クラウド化などいくつかの選択肢があります。その中で仮想化のメリットをアピールするためには
会場となったグランドプリンスホテル赤坂から赤坂見附駅へ通じる歩道で、シトリックスのみなさんがビニールの手提げ袋を配っています(中略)中味は、翌週に行われる「ITpro Expo」でのシトリックスブースへの案内と、無償版Citrix XenServer 5.5のCD-ROMでした。
というように、呉越同舟で「仮想化祭り」をやっていくことは有効であるように思います。新野さんをして
「ああ、仮想化はいまホットな分野なんだな」
と思わしめたのですから大成功でしょう(笑)
その上で首位であるVMwareとCitrixの対立軸を明確にしてアピールすることで「どっちがいいかな」と思わせることができれば、その他メーカーよりも優位に立つことができるでしょう。うまく2位のポジションを築けなさそうだ、ということになればMSと連携して(Linux絡みのところで既に実現されている一方でこんなページもあります)首位を弱らせるということもあり得ます。どっちに転んでもおもしろいですね。
いやー自分が直接関係してないビジネスにあーだこーだ言うのってなんでこんなに楽しいんでしょう。私もこのやり方の専門用語があったら教えていただきたいです。なんていうんでしょうか。