「死に体」を乗り越えて
ずいぶん前ですが仕事上お付き合いをした方が見事な死に体っぷりを見せてくれたことがあります。
そのときは自分が仕事を依頼する側だったのですが、こっちからお願いしていることがなかなか進まない、クレームを入れてものらりくらりで握りつぶされているような気が……などなどおかしな状態が続きました。しばらくしてその会社から突然「前任が異動しましたので後任を紹介します」とやられました。しかも後任にはあまり引継ぎがされておらずひどい目にあいました。
さて世の中は不況ということで異動が活発になってきているようです。ひとつ目はいわゆる首切りの「リストラ」に加え、事業撤退や新規事業開拓などのリストラクチャリングが加速していることによって異動が増えていると思われます。もうひとつは仕事量が収縮して人が余ったため、これまでの「要員がギリギリで異動なんてさせられない」という問題が解消し始めて異動が実現してきたものであるようです。現場のメンバーの稼働率が高すぎると確かに異動させる余裕がなくなりますが、暇になってしまった現場から人が回されてくることによりそれが解消されてきたのかもしれません。
さて異動というのは対外的に発表するよりも内部で早めに発表されるものです。するとまずは内部的に引継ぎなどの準備を行うことになりますが、それが裏目に出ると冒頭の私が出くわした人のように「仕事が増えちゃうし異動するまで外向きの仕事を前に進めるのやーめた」と思う人も出てしまうのでしょう。
今の日本の社会では誰もが納得するタイミングで異動が決まるということは少なく、異動が決まってしまってから関係者が一丸となって影響が出ないよう努力する、ということが多いように思います。少なくとも私が社会人になってから、お客様からの信望が厚すぎる社員に「この人の異動をやめてくれ」という熱烈な要求が来て内政干渉により異動がなくなったという話は聞いたことがありません。学生の時の知り合いで「バイトを辞めてしばらく後に厚待遇で呼び戻された」という人物はいましたが。
とすると異動のギリギリまでアグレッシブに仕事をするのは難しいことなのでしょうか。確かに大風呂敷を広げておきながらよいところで「じゃ、自分は異動します。」というのは無責任な感もあります。しかし互いにサラリーマンであれば異動というものが自分の預かり知らぬところから降って沸いてくることがあるのも互いに理解できるはずです。それであまり非難されることもないでしょう。そう考えれば異動のギリギリまで一生懸命仕事をしたことでお客様から「おいおい。自分でかけた梯子をはずすなよ。」というような非難を受けることもほとんどないと思われます。自分ならば「最後までご一緒できなくて残念ですね。」と声をかけてあげたいところです。合同打ち上げなど催されれば立ち上げメンバーの一人として声をかけることだってあるでしょう。
しかし社内サイドの話を考えれば、異動を前に自分がどれほどがんばっても成果が実って手柄を得るのは後任だけかもしれません。今年、1~3月あたり赤字出してでも広告を大量に出しておけば4月にはどーんと来そうだな、という状況で自分が4月に異動することが決まっている場合、自分の業務が赤字で終わってもいいから後の人のために種を蒔いてあげようという人もいれば、いやいや、穏便な数字で終わりたいという人もいるでしょう。
しかし会社としてはプラスになるなわけですから、自分が骨折り損になっても異動とか関係なく期日のギリギリまでがんばるのが筋ではないかと思います。更にいえば、「死に体」を逆手に取り、後は野となれという気持ちで細かいところを無視した豪快な仕事というのができないものでしょうか。自分がすべて担当すると考えると色々と泥臭い部分や胃が痛くなりそうな部分が思い浮かんでしり込みしてしまうような仕事でも、後任がなんとかするだろ!という気持ちで勢い欲実行できてしまうようなところがあるのではないかと思います。
たためないような大風呂敷を無責任に広げるのは困り者ですが、お客様にとっても自社にとっても悪い話ではないのに、自分がやりたくない仕事だから「なかった」ことにするのも良くありません。ただ他にもやるべき仕事がたくさんあり、自分の目標をクリアする見通しが立っているような場合はどうしてもそういう仕事の優先度を下げてやりやすい仕事をやっつけたくなります。そういったところは異動や転職などをきっかけにすればきれいさっぱり肩の荷を降ろして次にいけるのではないでしょうか。「死に体」ポジションに陥らずに積極的な仕事をしていきたいものです。
本文とは関係ありませんが……
異動前のしょんぼりした状態ということで、「死に体」というよりもいわゆるレームダック(lame dack)のほうがピンと来る方が多いかと思いましたが、なんとなく「足の不自由なアヒル」という訳に差別的な印象を伴う言葉でしたので使用しませんでした。ネット上のニュースを調べた限りでは国内の大手新聞社や雑誌社でも普通に「レームダック」という活字を載せるようです。DNSにもlameなんとかなどの用語があるなど、英語圏では普通に使われる言葉のようです。音声系のソフトの名前にもなってますしね。ちょっと考えすぎかもしれませんが念のため。