「音楽に罪はない」のか
伝説のバンドのメンバーが大麻所持の現行犯で逮捕され、アルバムの出荷停止、配信も中止の方向で進んでいるようです。
といっても恥ずかしながらどのような方々でどのようななのか存じ上げません。Wikipediaを読むと自分が生まれる10年近く前に解散しているとのことでした。メンバーには自分でも名前を知っている方がいますがタイトルだけ見てメロディが思い出せる曲は見つけられませんでした。
この件に関し、インターネット上では「音楽に罪はない」という意見を多く見かけます。こちらのバンドについては全然知らないのですが、出荷を停止したほうがよかったかどうか、と聞かれたら自分は停止したほうが良いと考える側です。
今回は大麻所持ということで直接的に誰かを傷つけたという性質の犯罪ではないですが、これがもし傷害や恐喝だった場合にはどうでしょうか。被害者の方がテレビや街中で加害者の楽曲を聞くたびに嫌な思いを感じることもあるでしょうから、そういった方の気持ちを考ると(傷害や恐喝といった犯罪の場合は)やはり全面的に楽曲の提供が止まってしまっても仕方ないでしょう。
↑緑字部分を追記しました(2009/2/24)
また、大麻はより強力な薬物を求めて薬物依存にまっしぐらに進む第一歩となりうる危険なものであることから、違法薬物が暴力団などの資金源になっていることや、薬物依存により引き起こされる凶悪な犯罪の被害に遭われた方などにとっては「大麻所持」の事実だけでも多大な嫌悪感を引き起こすかもしれません。そこまで考えれば今回の事例でも全面的な出荷停止となったことはやむを得ないとも思います。
加えて大麻は芸術やヒッピー活動を連想させるものであり、そういった分野に興味を持つ人物をひきつけやすいとも言われます。その点では伝説のバンドのメンバーが大麻を所持していたという情報から(特に何の根拠も無く)大麻が音楽性を高めるのだという短絡的な結論に陥り、真似して大麻を求める人が出てしまうかもしれません。その反社会的な姿勢のシンボルにかっこよさを求める人が出てしまうかもしれません。
「みそぎ」や「けじめ」としての販売停止ということであれば、本人が「今後一切の音楽活動をやめる」と宣言することで十分かもしれません。しかしサラリーマンが会社組織に属するように音楽関係の人はレコード会社や事務所に所属していることを考えると、重大な犯罪者が出た場合に監督不行届として会社が弁済を申し出るようにレコード会社がけじめを見せたとも考えられます。
もちろん停止しないほうが良い、出せばいい、と感じる部分もあります。作品が世に流通したところでご本人の犯した罪が重くなるわけでもなくなるわけでもありません。聞きたいと思う人がたくさんいるのであればその人が聞けるよう、出荷をすればいいと思います。プロモーション活動の自粛や販売店舗を絞るということをするのはやむを得ないと思いますが、例えばネットでどうしても欲しい人にだけ配信販売をすることもできます。これなら目立ちませんので大多数の人に何のデメリットももたらさないでしょう。
しかしそうしたとしても大きな被害を受ける人がいます。ファンです。もっとも悲しい思いをしたのは裏切られ、音楽も聴けなくなったファンであることは間違いないでしょう。なぜこんなに熱く語っているかと言えば自分も忘れもしない5年前に同じ思いをしたことがあるからです。
あるバンドが自分の大学の合格と時を同じくしてデビューし、入学前後に大ヒットを飛ばし、自分が成長するのと同じくらいのスピードで歌詞や音楽が進化し、自分が就職して間もなく活動休止を宣言し、今の奥さんと婚前旅行を兼ねて休止前ラストライブに大阪まで出かけ、その後数ヶ月してメンバー逮捕と即日解散の報を受けて椅子からひっくり返りそうなくらい驚きました。
そのときの自分の気持ちを思い出しますと、CDが撤去されてしまっても悲しいことはありませんでした。自分は全曲持っているからです。しかし新しい仲間を開拓できなくなります。日が浅いファンがネットで「昔のアルバムも聞いてみたいんですよねー」というようなことを言っているところを見かけると心が痛みます。気持ちはわかっっても違法コピーはいけません。残りのメンバーも活動を自粛し、そんな大変な時だから何か作品を買って支援を、と思っても売っていません。人前から存在を消す事が活動自粛ですので、おおっぴらに応援することも憚られ、とても悲しい思いをします。
自分の好きだった(今でも好きですが)バンドは解散以来まったく活動しておらず(収監されたメンバー以外はソロ活動中)、テレビ番組のBGMにも使われず、中古以外はCDも見かけないという状況です。ところがmixiやニコニコ動画できちんとファンがいるんですね。初音ミクがそのバンドの曲を歌っているのを聞いた時はとても心強く思いました。活動の後期はあまり人気が無かったので知られていない曲が少なくないのですが、「こんな名曲あったんだ」などのコメントを見ると嬉しくなります。
しかしそういった喜びの気持ちに浸っていても「被害に遭われた方がたまたまネットでこの動画を見つけたらどう思うだろうか」ということに思いを馳せたとき、心に一点の染みを落とされるような気持ちになります。何もやましことがなければ、このエントリに自分が好きだったバンド名を書くかどうか迷うこともありません。「私はこのバンドが、この歌が好きだ。」この言葉を素直に言うことができない、それがファンを苦しくさせます。
仮に今回逮捕された方が「昔から曲を書くときや人前で演奏するときは大麻が欠かせませんでした」とでも発言すればどうでしょう。「あの音楽は素晴らしいと思っていたが大麻の産物だったのか。違法な力を借りての結果だったのか。あの音楽はホンモノではなかったのか。」と、あほらしくなってすっぱりとファンを卒業できるという方も少なくないでしょう。音楽に罪が無いからこそ、苦しいのだと思います。
自分が好きだった音楽が、それを聞いていた時代、仲間、思い出と共に色褪せずにあるからつらいのではないでしょうか。嫌いになれたらどんなに楽になれるでしょう。その曲を聞いたときに何も感じないようになれれば、悩むことはまったくないでしょう。
今インターネットで多くの人の訴えを聞くことができます。その訴えからはファンの方の深い愛が伝わってくるようです。だからこそ残念でなりません。これから先、ミュージシャンが違法行為に加担した場合は楽曲の販売が全面的に中止になるという重い処分を既定事項とすることは必要ではないでしょうか。これ以上悲しい思いをするファンを増やさないためにはそうした備えが必要であるように思います。