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コンビニ受診の理由を考える

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コンビニ受診が医療崩壊を加速させていると言います。 佐々木さんのエントリ『家族が深夜救急で「今は診療出来ません」と言われ、学んだ事。』を読み、診療できませんと言われるかもしれないという不安と、その背景を想像する事による不安との2つの不安を感じました。

まず本来のコンビニ受診とは、緊急性の低い人が救急外来を利用する事を言います。今はコンビニ受診というと救急外来でなくても気軽に病院を訪れることも含まれるようです。ここでは区別してそちらをコンビニ的受診と言っておきます。

Wikipediaのコンビニ受診の項目がまとまっているので詳しい解説はそちらに任せますが、救急外来とはそもそも緊急性の高い人を相手にしたものであり、一般の外来が空いている時間に都合が合わない人が利用するものではありません。一般に、そういう方は休日・夜間診療所が担当してくれます。(各自治体で「休日・夜間診療所」の定義・位置づけが異なる場合がありますので注意が必要ですが。)

コンビニ的受診のほうは、大丈夫そうだけれど「念のために」行っておこうか、というような受診になります。特に小児科でこういった性質の受診が増えて小児科医の負担が重くなっているそうです。自宅併設型の診療所の場合は夜間にモンスターペイシェントが自宅のほうに突撃してくるため、安息を失った医師の方が診療をやめて引っ越してしまうというような悲惨なケースもあるそうです。

コンビニ受診が単なるワガママであるのに対し、コンビニ的受診にはいくつかの止むに止まれぬ事情があるように思います。

まずは核家族化が進んで祖父母や兄姉などの子育て経験者が少ないために病気の軽重の判断がつけにくいという点です。また、一般の人がインターネットで病状を調べると不安を増大させてしまうという「サイバーコンドリア」という言葉がニュースで紹介されていました。

こういった事情から、ひょっとしたら重病かも、と不安になって病院に行ってしまうというところがあるかもしれません。

そして昨今の経済情勢により、会社を休みづらいという事情も医療機関の利用を加速させているように思います。不安定な雇用形態の労働者は休みが多いとクビになってしまうリスクが高まるため、少しでも具合が悪かったらば医療機関でしっかりと診療してもらいたいという思いが出てくるでしょう。風邪で「お薬(抗生物質)出してください」と患者からお願いするケースがあるそうですが、こういった例にあてはまるのかもしれません。

かくいう自分は正社員ですけれども、子供を保育園に預けて働いています。子供が具合を悪くすると保母さんから電話がかかってきて迎えに行かなくてはなりません。家で子供がひどいセキをしていたり、微熱があったりするとよくこんなことを考えます。

「病院で診てもらって今日中によくなれば明日には元気になる(=会社を休まなくても良い)かな?」

かわいい自分の子供ですので、少しでも具合が悪そうならば一緒にいてあげたいというところが本心です。別に休みを取りづらい社風の会社に勤めているわけではありませんが、お客様との打ち合わせの約束がある日もありますし、できれば有給休暇の上限日数は使い切りたくありません。水ぼうそうやおたふくかぜなどになれば何日も会社を休んで看病することになりますので、有給休暇はできるだけ温存したいという思いがあります。

もし病児保育の制度が充実していれば利用したいのですが、場所や利用時間に制約がありますので利用しやすいとは言いがたいです。フローレンスのような取り組みが期待を集めていますが、質や費用、利用実績の面で納得ができないという方もおられるでしょう。こういった事情から少し具合悪そうにしていたら悪化する前に病院に行く、という受診スタイルを選択している方は少なくないのではないかと思います。

コンビニ的な受診は限りある医療リソースを浪費する性質があるので低減させるべき問題だと思いますが、こういった背景からそれを選ばざるを得ない方もいます。ですので一律に軽症の受診料を引き上げる事でコンビニ的な受診をやめさせることは危険であると言えます。受診抑制により重病が見逃されることが考えられますし、病児保育の未整備や派遣労働者の権利といった本質的な問題を解決しないまま制度的にコンビニ的受診を抑制すれば、病児保育のパンクなど別の場所にひずみを生むだけになってしまうでしょう。

少なくとも小児科のコンビニ的受診問題については病児保育の拡充により一定の解決が得られると思います。長期的に見れば出生率の回復や、女性の職場復帰を支援することにつながることも考えられます。こういった問題は同じ思いを持つ人同士で集まって考え、行動していくべきなのだと思いますが、当事者が育児に仕事に忙しくて団結できないという事情もあり、なかなか見通しが明るくなりません。衆議院が解散したら次の選挙では各候補者の病児保育への取り組みをチェックしてみようかと思います。

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