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大人買いと心のドアのカギ

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お金を使ってもらいたかったら、お客さんの心のドアのカギがどこにあるかを探すことが重要であると思います。

whiteberryの歌に『目をそらしたアタシの心の ドアのカギをあずけるよ』というフレーズがありました。実力派とは言い難いバンドでしたが、当時15歳前後の女の子だけで組んだバンドということでそれなりに人気がありました。これもひとつの心のドアのカギを開けた例と言えます。1stシングルが「めちゃイケ」のエンディングテーマに選ばれたのですが、当時の中高生と言えばめちゃイケは要チェックの番組でしたので同年代のバンドというのも応援したくなる理由のひとつになったのかもしれせん。

お金というのはたくさん持っていたほうが安心ですので、浪費癖でもない限りはそう簡単に商品を買ったりしません。特に昨今は物が売れにくい時代であると言われます。そんな中で心のドアのカギが開ける努力というのがよく行われているように思います。

と、何が言いたいかと言いますと、滅多にしない大人買いというものをしてしましました。きっかけは息子がBRIOの自動車のおもちゃをもらったことでした。これが驚いた事に100円ショップで売られている木のレールの上を走ることができるんです。レールを少しだけ買ってきて走らせてみるとちゃんと規格が合っているようです。多少作りがあまいですが、自分の手で押して進ませる分には問題ありません。自走させたらすぐ脱線しそうですが。

自分は兄がおり、兄がミニカー派だったために家にプラレールなどの鉄道系おもちゃがありませんでした。自分自身はレゴブロックに傾倒しましたので、これまで自分の好きな通りにレールをひいて遊んだ事がありません。気を落ち着けるためにひとまずエクセルでレールのレイアウトを作って遊んだような気分になって満足するつもりだったのですが、それが仇になって余計欲しくなりました。そして5000円分、すなわち50パックで100ピース近い量のレールを買ってしまいました。

大人買いというのはいくつかの条件の上で発動するものであると思います。

  • 痛み・背徳感・無駄感がある
  • (一部の人に対して)羨望の眼差しを受ける
  • ルサンチマンがある
  • 空き箱を積み上げるなどした際に充足感がある
  • 大人買いに至るために、主体的に何らかの不便・不利益を享受している

1点目、痛み・背徳感・無駄感が無くては大人買いとは言えません。価格に照らし合わせて誰にもわかるほど大きな効用がある商品を大量購入するのは賢い消費者です。くだらないもの、特に、「お前が死んだらそれどーすんだ」と言われるような商品こそが大人買いの対象たり得ます。

2点目、自己満足があってこそ購入に踏み切るわけですが、「他の誰にも真似できない事をやっているんだ」という高揚感はなかなか得難い快感です。相手が小学生であればその高揚感は小さなものですが、財力のある大人同士で、しかもその道のマニアが集まっている面前での大人買いは大人買いの最高峰と言えます。具体的には秋葉で高性能パーツを購入するような状況が思い浮かびます。

3点目、少し屈折した思いがスパイスとしてあれば、それだけ大人買いの快感が強くなります。私の場合はミニカーとレゴしかない子供時代だったわけですが、その心の隙間を埋めるにあたって長年積み重なった負の感情を一掃すべく過剰な消費行動に走る形になりました。禁煙に失敗した後にタバコの本数が増えてしまうような状況に近いかもしれません。

4点目、大人買いの結果に充足感が感じられる、または感じられそうだと思わせてくれることが肝要です。食玩を大人買いする場合を考えると、ビックリマンチョコの様に袋に入ったものよりも、チョコエッグのように直方体の箱に入ったもののほうが強力です。それは購入後に空き箱を部屋の隅に並べて積み上げるなどした際に自己の大人買いを振り返ることができ、充足感に耽る時間を与えてくれるからです。

5点目、1か月を1万円で生活したり、ディスプレイのために家具を処分するなど不便や不利益を被った後にこそ、大人買いの魅力が感じられるものです。

これらの条件が満たされたときこそ、消費にともなう達成感が感じられます。消費を行うためには財産が必要であり、財産の蓄積のためには勤勉に労働することが必要です。すなわち大人買いとは、課せられた使命たる労働に打ち込んだ事実を自ら確認することで神の加護を実感するというプロテスタンティズムにも通じる精神性を備えるとも考えられます。

ワルラス、ジェンガー、ジェボンズらによる限界革命より、人は費用に対する効用の大きさを想定して消費を行うという考え方が一般的になりました。しかし大人買いとはそれと少し違う部分があります。後のことを考えなければ、大人買いは大きくやれば大きくやるほど効用が大きくなります。故に限界効用の逓減則が成り立ちません。また、効用を発生させるものは財でもサービスでもなく、購入行為そのものにあるとも言えます。チョコエッグを1日に1個30日購入する場合と、1日目に30個を購入する場合とでその快感は違ってくるからです。通常の考え方では得られるチョコエッグの総量が同じですので効用は等しくなります。しかし、大人買い理論に基づけば一括買いのほうが効用が大きくなります。一方でライフサイクル仮説に基づけば一括購入の場合29日分の利息を割り引いて考える必要がありますので、支払を先延ばしした30日目のまとめ買いこそ費用が相対的に少なくなる(29日分の利息が発生するため)分だけ効用が大きくなるはずです。その考えを組み合わせると、29日我慢した後の30日目の大人買いは大人買いの一括効果に加えて我慢効果が発生し、ライフサイクル仮説における利子の割引分の相対的な所得増加もありますので、効用は最大になることがわかります。

大人買いモデル(2007)

と言うジョークです。結論:無駄遣いしてごめんなさい。

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