Enterキーを叩く。高らかに。
昨日の話の続きになります。オペ力向上には早さと正確さというものがあると思います。
昨日トラパパさんから あえて、「ゆっくり」「手際よく」、それが実は効率化の道。というエントリを紹介していただきました。自分を振り返ってみると、仕事を早く片付けようと思ってかえって手戻りを出してしまったり、途中で集中力が切れてペースが落ちてしまったりする事があるように思います。遠回りでよくやるところでは、数百枚の資料を数えるときは一気に数えずに100枚ずつ束に取ったり、いきなりWordやExcelで資料を作り始めないでポストイットやホワイトボードを活用して頭の中を整理したり、という事があると思います。 情報処理技術者試験の論文試験も、全体構想に15分は取るようにしていました。
オペ力に関する事で私の気をつけているところでは、sqlplusでOracleデータベース相手にSQLを発行する時に
SQL>SELECT table_name FROM tabs;
としないで、
SQL>SELECT table_name FROM tabs
2>;
というようにしています。セミコロンだけを別の行に入力したところで一呼吸置き、内容を確認するためです。間違ってデータを消してしまうことも嫌ですが、大量のデータを問い合わせてしまったときの待ち時間が大嫌いなのでこのようにしています。その他には、YES,NOダイアログやOK,キャンセルダイアログのボタンはキーボードでyかnを押す事で選択するようにしています。これはマウスでクリックしたときに間違えた事があるからです。長い目で見ればどっちが得なのかはわかりませんが、こういうルールを作って守る事で精神的に落ち着く気がします。
これは「間違わないようにする」というオペ力向上法ですが、「手際よく」という向上ルートもあります。そこで効果的なのは「リズミカルにやる」という方法です。昨日のJR職員さんも、高速オペレーションでありつつも、リズミカルな操作でした。音楽で言えばTEITOWAのような感じでした。UNIXコマンドでもsqlplusでもVisualStudioでもEclipseでも、素晴らしい開発技術をお持ちの方はコーディングがリズミカルであろうように思います。活字では伝わりにくいのを承知で書きますと、カタカタカタカタカタ。カチン(Enter)の繰り返しがリズミカルに聞こえます。そう言う自分はEnterキーを強く押すのはあまり好きではありません。Enterキーは右小指で押し込むように押します。両手をできるだけキーボードから浮かさない省エネタイピングです。音楽というよりは読経、それも密教系だと思います。
リズミカルという言葉で思い出すのは私の祖父の仕事ぶりです。今は亡き祖父は大工さんをしておりました。大工さんの仕事と言うのは賑やかな音を立てながらやるものです。鉋のシャーという音は初めから終わりまで一定です。そうすると長い鉋屑ができます。良く手入れされた道具だとレシートのロール紙のような鉋屑が出ます。ノコギリの音は切り始めに当たりをつけるために細かく弱い音がします。途中はリズミカルな強弱の音を繰り返し、最後には木がささくれないように気をつけますので繊細な音に戻ります。日本のノコギリは引くときにしか切れません。そのため、上手に引ける人はインパクト式やインクジェット式のプリンターと同じリズムになります。そっくりです。金槌の音は打ち込み初めが弱く、釘が深く刺さるにつれてだんだん強くなっていき、最後は材木を傷つけないように〆の1発を叩いて終わりです。鑿の音は鑿の幅と木の材質によって様々です。幅の狭い鑿では2拍打って1拍休みだったり、幅が広い鑿では4拍子でメトロノームのように規則的に音が鳴ります。墨壷で墨を引くときも、糸を伸ばすシャーと言う音とパチンという音が規則的に繰り返されます。大工さんが使う墨壷の線なんてどう見ても1mmはあるんですが、誤差で破綻する事はありません。いちいち図面を確認したりせずにどんどん材料を測って正確に加工していく様子はNCのようです。きっと頭の中に設計図が入っているんですね。細かいところはリアルタイム脳内CADで補足です。そんな賑やかな様子で仕事を進めるのですが、出来栄えを確認するために沈黙する瞬間もあります。片目をつぶってじっと水平器や差し金を見る仕草は職人っぽくて(というか職人そのものですが)格好良かったです。私が物心ついた時には既に腰が曲がった年寄りでしたので、聞けなかった事がたくさんあることが残念です。そんな祖父から教えてもらった先人の知恵があります。はたしてインターネットに放流して良いのかどうか迷うのですが、死蔵するのも惜しいのでこちらにこっそり書き残します。ノコギリを引くときは○○○○でリズムを取る。男性限定の教えということで、詳細が言えない事情をお察しください。
考えてみれば大工仕事というのは終日体と頭を同時に使う仕事をしなくてはなりません。フルタイムでリポビタンDのCMのように歯を食いしばって働いていたら体が持たない事もあるでしょう。そういった環境の中でたくさんの仕事をするために、私の祖父の仕事場はいつもリズミカルな音に溢れていたのではないでしょうか。図面を頭に入れるというのも仕事のリズムを崩さないための工夫だったのかもしれません。そう考えると、Enterキーを高らかにならしている方々は頭の中にすっかりプログラムができあがっており、1日中休まずコーディングができる人である証明なのかもしれません。