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この機能は北米以外では使えません

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Lotus Notesの管理クライアントを使っていると、ところどころで「北米」という文字が目に入ります。注意して見ていなければ気にも止まらないことなのですが、よく調べてみると暗号にまつわる話でした。

暗号というのは重要な戦略物資としてアメリカの国益を左右するものであるとの考え方から、アメリカ国外に輸出してはいけないそうです。今では規制緩和により、持ち出せるレベルのものと持ち出せないレベルのものが決まっているそうなのですが、昔は厳しく取り締まられていたようです。そのためNotesにもアメリカ国内で使う時と、アメリカ国外で使う時のための設定項目があります。それが「北米で使用する」というような文言となってNotesの設定画面にも現れているわけです。(北米の暗号強度がそれ以外の地域より強かった時代と互換を取るために今も残されているようです)

日本海軍は強力な暗号を持っていたのですが、連合軍側に解読されてしまいました。暗号というのは運用を間違えれば簡単に解読されてしまいます。雨が降ったらABC、風が拭いたらXYZという打電が毎日のように繰り返されれば、ABCという符牒が雨と関連があることがばれてしまいます。ですので、適度に暗号を切り替えたり、ランダムで無意味な通信を混ぜたりしなくてはなりません。しかし日本軍は暗号の運用が上手でなかったせいで、解読されて秘密の作戦がバレバレになってしまったと言われています。

また、エニグマという強力な暗号の運用を慎重にやっていたドイツも、沈められた潜水艦から暗号化を行う機械そのものを回収されたり、アラン・チューリングのような数学者が解読チームに参加するという最悪に運の悪いことになったりで、暗号を解読されてしまいました。暗号計算機を捨てざるを得ない時は解読されないように爆破するそうなのですが、不完全なものがあったそうです。そこからリバースエンジニアリングを行えば、暗号文だけを頼りに暗号アルゴリズムを洗い出すよりも解読時間を大幅に短縮できます。ちなみに内部解析を妨げるような性質(蓋を開けるとバラバラになる等)を耐タンパ性というのですが、マニアックなことに情報処理技術者試験の午前問題で出題されました。びっくりです。

このようなことがあるので、アメリカの暗号をアメリカから持ち出すことまかりならん、という時代が長く続きました。ちなみに今現在の日本でも、危険視しているあの国やあの国などに対しては暗号に関係するソフトウェアやパソコンを輸出する事に何らかの規制があったと記憶しています。行動を監視したいような国に対して、むざむざ強力な暗号アルゴリズムを輸出してしまったら監視活動が行えなくなってしまうからじゃないかと思います。
http://www.meti.go.jp/kohosys/press/0000711/2/ex-rev3.htm

そんな中で、アメリカの暗号禁輸政策を無視した有名なアメリカ人がいたことを紹介させていただきます。フィル・ジマーマンというエンジニアがPGPという暗号を開発しました。そのプログラムをインターネットで配布したら、アメリカ政府から「それは暗号の輸出だろ」と突っ込まれました。窮地に追いやられたジマーマンは、なんとこの暗号の作り方を本で出版してしまいます。こうすることで、暗号の作り方という本の出版に対して自由の国アメリカが言論統制をするんですか?という構図に問題を置き換えてしまいました。結局、裁判で負けて刑務所に入ることはありませんでした。すごい人もいたもんですね。

現在主流になっている暗号は、常識的な時間の範囲内で解読計算が終わらないということを安全性の根拠にしています。たった200字のメールを解読するのに300年かかりますと言われたら、挑戦しようとすら思いません。それがそのまま安全性につながっています。また、世界中で使われている標準的な暗号はそれだけ解読の危機に晒され続けているとも言えますので、日本を含め色々な国で国産暗号の研究も進められているようです。

ここまで書いておいてオチが思い浮かばないのですが、個人情報保護だとかで暗号化して保存してあるデータって、何百年か後の人が発掘したら短時間で解読できるんでしょうか?もはや5インチフロッピードライブを探すのすら大変ですから、まずデータが読めない、解読できたとしても文字コードやファイル構造が推定できないんでしょうね。

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