オルタナティブ・ブログ > 一般システムエンジニアの刻苦勉励 >

身の周りのおもしろおかしい事を探す日々。ITを中心に。

医療の世界のP4P

»

インターネットをしていると↑や→や↓に広告をよく見かけます。
よく見る広告であるGoogle AdWordsでは、お金を払って広告の表示順位を買い取ります。
たくさんお金を払った人ほど良い場所に広告が表示されます。
そしてその広告がクリックされた回数に応じて、広告料を支払います。
このような仕組みをp4p(pay for performance)と言います。

そうでない広告は、例えばあるサイトのトップページに
必ず広告を表示する、というような枠の買い切りという広告があります。
これはたくさんクリックされるかもしれませんし、
全然クリックされないかもしれません。また、予想されるほど
ページの表示回数が多くないかもしれません。

これと似たような2つの仕組みが医療の世界にも存在します。
現在、日本の医療では出来高払制と言われる制度が中心となっています。
初めて病院に行ったら初診料が発生します。
検査をしたら検査の費用が発生し、
処置を受けたら処置の費用と処置に用いた薬剤などの費用が発生します。
子供や老人でなければその費用のうちの3割を窓口で支払って帰ります。
残りの7割は、病院にかかった人が所属する健康保険組合が病院に対して支払います。

このような仕組みは広告でいえば枠の買い切りと同じスタイルです。
医師が若手だろうがベテランだろうが、病院のスタッフが優秀だろうが
そうでなかろうが、日本全国どこでも必ず同じだけの費用が発生するという仕組みです。

それに対して、医療の世界のp4pはどのようなスタイルなのでしょうか。
これは病院のパフォーマンスを数値化し、格付けするものです。
そして優秀な病院は費用を割り増して請求する事ができるものです。
色々な指標が考えられますが、たとえば平均在院日数が少ないですことや、
死亡率が低い事などがわかりやすいでしょう。
(特にインターネット広告のp4pの仕組みをまねたわけではないようです。
たまたま海外の医療の世界でpay for performanceと言われる制度が
できあがったことにより、医療の世界でもp4pという単語が使われます。)

例え費用が高くても「早く退院できる」ですとか「死なない」ということが
数値として現れている病院であれば通いたい人が多いはずです。
証拠に、大学病院などは朝から初診の受付窓口に
人が並びすぎるので銀行のように整理番号チケットを配布したりしています。
大学病院の役割からすれば他の医療機関からの紹介状を携えて難しい症例で
受診している方が中心であるはずなのですが、「安心だから」などの理由で
自分の判断でいきなり大学病院に足を運ぶ人が少なくないようです。

それを防ぐため、紹介状を持たない患者さんには追加費用が発生します。
それでもいいからとにかく大学病院!ということで咳が出るとか
熱っぽいとかいうくらいで意味もなく大学病院の初診を受けるのは
本当に困っている患者さんに多大な迷惑をかけるので控えましょう。
一度だけですがこの件で医師に怒られている患者さんを見たことがあります。

なお、日本国内でも特定の手術をたくさんやっている病院は
その手術について普通よりも高い費用を徴収できるという制度もあります。
「手術の施設基準」と言われるものです。
これは特定の手術について結果を測定して手術の診療報酬を積み増すものですが、
それを病院全体に波及させたものが医療のp4pであると言えます。

医療のp4pを優秀な病院が値上げできるようになる制度、と考えると色々な問題が予想されます。
病院側としては、診療報酬をより多く受け取るというインセンティブが働いて
治療成績を向上させようとするプラスの面があります。
一方で現実的には考えにくい事ですが、難しい症例を扱いたくないので
転院させてしまうということや、完治していないのに早めに病院から退院させてしまう、
ということも考えられます。

患者側としては、深刻な病気をした場合にどこの病院に行くか迷った場合、
治療成績を判断材料にすることができ、医療に対する納得感が向上します。
しかし、経済的に余裕が無い人が治療成績の良い病院を選ぶ事ができない、
という問題が発生する可能性があります。

また、社会全体の仕組みとして言えることなのですが、
治療成績を公開すればするほど、優秀な病院への一極集中が発生してしまいます。
医師も優秀な病院で働きたいと考えますし、患者も優秀な病院にかかりたいと考えます。
そうすると余計に症例数も一極集中してしまい、他の病院とのバランスが悪くなります。
仮にそうなったとしても、物理的に受け入れ可能な患者数には限界がありますので、
心ならずも違う病院に通うという患者が出てしまいます。
その際にどうやって患者を一番良い病院と次点以下の病院に振り分けるかと言う問題があります。
症例が難しいほど優秀な病院に振り分けることができれば良いですが、
老人だったら+5点、併発している病気があれば+10点などの数値化により
重症度を決められるものではありません。完璧に実施する事は難しいでしょう。
かといって入札にしたら日本の福祉オワタ\(^o^)/です。
また、そこにトリアージの考え方が加わってくるとややこしくなります。
どんなに優秀な病院に行っても回復は不可能。延命しかできませんから
そのへんの普通の病院で治療を受けてください、というケースもあるかもしれません。
やり始めるとメリットとともにデメリットが出てくる事は避けられない制度であると言えます。
そう考えると、経験豊富な医師の診察を受けても、大学出たばっかりの新人意思の診察を受けても
診察代が変わらないという現行の制度も捨てがたいものであるように思います。

色々と医療に絡む事件事故が報道されてはいますが、それでもなお
日本の医療制度はかなり充実しており、どこの病院の医師にかかっても
あまり大きな差異が無いように思います。
そういった医療の基礎レベルの高さが現行制度を支えてきたのだと思います。

その一方で、現在でも自由診療に近い歯医者さんと産婦人科では
「○○医院では△△という治療法をやってくれてXXXXX円だった」
という情報がインターネットで活発にやり取りされています。
これは、納得のいく治療法であれば見合った報酬を支払いたいというニーズが
確実に存在していることを意味していると思います。

他の市場と同様に医療へのニーズも多様化しています。
ひょっとすると将来は自分から治療法をオーダーする、なんてこともあるかもしれません。

Comment(0)