オルタナティブ・ブログ > 一般システムエンジニアの刻苦勉励 >

身の周りのおもしろおかしい事を探す日々。ITを中心に。

システムエンジニアと大工の棟梁

»

システム開発と建築・建設業はとかく比較されがちです。
多くのスペシャリストが集まり、大規模な成果物を完成させていく上で
その過程に多くの共通点があると言えます。

私の昨日のエントリでは私の祖父が大工だったことを紹介しました。

いくら大工さんといっても万能選手ではありません。
屋根瓦を葺いたり、水道や電気の工事をしたり、
壁を塗ったり、建具を作ったり、それぞれにスペシャリストがいます。
このあたりもシステム開発におけるネットワーク敷設や
データベースチューニング作業と似ています。

その中で大工さんは棟梁とか親方と呼ばれ、
その建築の中心となり、コーディネートを担当するのが普通でした。

最近の住宅建築では大工さんじゃなくて、建築士資格を持った
ホワイトカラーの現場監督さんが担当されることが多いでしょう。

一般的にツーバイフォー建築ではある程度の事ができる大工さんを
たくさん集めて一気に建築する、というスタイルが主流です。
これらはほとんどの工程を工場で済ませておくことで
現場の作業を極限に効率化することで実現されます。
また、高い専門技能を要するわけではありません。

ツーバイフォー

 

 

さて大工さんは一般家屋の建設などでは1人や2人で作業することが
珍しくありません。これは、現場で材木を加工して進めていくからです。
大人数を投入してもいいと思いますが、手が空く時間が発生するなどして
あまり効率的ではないでしょうし、複数名で1つの建築をするには
どうしても精密な設計図を共有する必要があります。
少数であればあるほどその部分にかかる管理コストは低く済みます。
大工さん

 

 

今、ツーバイフォー建築が主流であるのはコスト面で優位があるからです。
すなわち、大量生産によるコストダウンと技術者コストの削減が、
少数精鋭開発における管理コストの削減幅を上回っていると言えます。

 

これはシステム業界ではどのようなスタイルになるでしょうか。

前者のツーバイフォー建築に当たるものは、フレームワークを活用して
標準化の恩恵を受けた開発を行うスタイルと言えます。

後者の場合はスーパープログラマーがものすごい勢いで
超絶プログラミングを繰り出す、というスタイルと言えるでしょう。

これらのスタイルにはそれぞれ一長一短があります。

○ツーバイフォー方式のシステム開発では、要員の補充や交代が容易です。
また、大量生産に向いていますので、SIerが多くの顧客を抱えて
利益を出していくのに向いています。
●一方であまり複雑なシステムは作ることができません。
カスタマイズには限界があります。
また、フレームワークの規格が陳腐化するなどして失われると
改修もままならないことになってしまいます。

○後者は個人の能力に強く依存します。スーパープログラマーさんが
凄まじい能力を備えていれば、ツーバイフォー方式では至ることのできない
極みに上り詰めることができるでしょう。複雑なものにも対応できます。
●ただし、要員の補充もままなりません。引継ぎを行うことができませんし、
改修を行うことも難しいかもしれません。プログラマさんから見た場合、
同時にいくつもの仕事を抱えることは難しいです。

 

企業としてシステム開発を請け負うことを考えれば、
ツーバイフォー的スタイルを選択することによる利点が大きいと言えます。
生産性もさることながら、不測の事態に対応することで
信用を勝ち取ることもできます。情報システムは自分自身に
次々と重要なデータを蓄積していく、という性質がありますので
作りっぱなしということは許されません。
拡張性や保守性という部分はそれなりのコストを払ってでも
重要視するべきでしょう。

伊勢神宮では式年遷宮と言って20年ごとに
建物を作り直します。これにより伝統を伝え、
職人を絶やさないようにします。

一方、他の自社仏閣建築では専門の宮大工が
X線やガスクロなどの最新機器まで導入して分析を行い、
なんとかして修復しようと四苦八苦している現状です。

スーパープログラマーも無くてはならない存在であることは確かですが、
ともするとその成果物たる情報システムが維持困難に陥りがちです。

システム開発を主たる活動とする企業はそれと対比するに、
長期的なサポートの保証こそ売り文句の1つと言えるでしょう。

長期間の使用に耐える安価で高性能なシステムを
お客様に提供するということは大変難しいことではありますが、
それを実現するために建設業界から学ぶところは大いにありそうです。

Comment(0)