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「エンガワ=縁側」は、完全な「家の中」でも「外」でも無い「宙ぶらりん」な空間。そこには誰でも気楽にぶらりと立ち寄れて、しゃべったりお菓子を食べたり。情報交換や一休みに飽きたら、すいと立ってまた自分の仕事に戻って行ける。そんな風にゆるくて、ちょっと元気をもらえる所。そんな皆が好きな「縁側」で、いつも空を見上げながら何故か「背泳ぎ」をしている…そういう雰囲気のあるブログを綴っていきます。

そんな仕事で大丈夫か?―それでも大丈夫だ、問題ない。(第三回:竹内良太氏)

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竹内良太(声優・大天使ルシフェル役)インタビュー


 ルシフェル。ある意味ゲーム・エルシャダイでは主人公イーノック以上に「代名詞」のように有名になったキャラクターである。2010年代の我らが日本の文化がお気に入りで、ビニ傘やケータイやエドウィンの特注ジーンズを嬉々として見せびらかす。「そんな装備で大丈夫か?」「君たちにとっては明日の出来事だ」などの数々の名セリフをネット上に残してもいる、大天使ルシフェルの「中の人」。

 声優・竹内良太さんは実際にお会いしてみると、大変腰の低い好青年(それも髭面の)という感じで、雑誌やネットの番組等で事前に見知っていたとはいえ、やはり「これがあのルシフェルの?」という驚きの念は禁じえない。エルシャダイが声優のキャリアとしては、ほぼ初の主役級のお仕事であるという竹内さんとは、どんな方なのか。そして、どんな思いで渦中からあのブームをご覧になっていたのだろう。

●ネットでのブーム「受け入れよう!」

 エルシャダイが発売前に大変なブームになっていた時は、竹内さんご自身もニコニコ動画で見る見るうちにMADなど増え、「すごい!」と感じていたという。自分がこういう異常な盛り上がりの、ある意味で当事者になるなど全くエルシャダイが初めての経験であり、驚いたそうだ。そして、エルシャダイではユーザーもその盛り上がりを受け入れたし、制作サイドも楽しんでる感があったような気がする。

 「竹安さんの中では、「ルシフェルがハマれば盛り上がる」という確信があったようです。ニコ動とかで二次創作が盛り上がったのも、ある程度は予測してたようで、どんどん容認して行こうと。相乗効果にうまく乗って行こう!みたいな。ちょうどその頃ツイッターを始めたのですが、フォロワーも一気に増えて。僕も宣伝しやすかったですね。」

 エルシャダイは何かのビッグタイトルの続編でもなく、全く新規の作品であるにしては、この厳しいご時世に、売上の面でも善戦したという業界的な評価がある一方、実はニコ動PVの閲覧数(400万回超!)から考えれば、発売と同時に国内だけで軽く50万本くらい売れても不思議は無かったのではないか?という疑問も浮かぶ。とはいえ初心者や、長年ゲームから離れていたような層を取りこむなど、従来の枠を超えて世界を広げることには確かに成功しているのだ。

 「僕はゲーム結構やるんですが、エルシャダイはアクションゲームに慣れてない人にも簡単にプレイ出来るシステムだと思います。でも、伏線が多くてストーリーが抽象的というか。「これからどうなるんだろう?」というところで終わっているので、そういう謎は一本のゲームの中で「ちゃんと消化したい!」という気持ちもありました。」

●「それが君の答えだよ」が竹安さんのメッセージ?

 ある意味、竹安さんの生き方とか、メッセージングなのだろうか?仕事などの面でも「自分で考えろ」のような、やっていて「答え教えてよ!」みたいな部分もあったのではないか?演技指導を受ける方としては、なかなか大変なことも多かっただろうと推測する。その分、成長は出来そうだが。

 「「自由に演じてみて下さい」か、もしくは演じた後に肉付けをしてくるんです。僕の芝居を見て、どんどん乗っけてきたり。レスポンスを面白がってその場で変えて行くところがあったので。結果、鍛えられたし、色んな現場でもそれは活かせていると思います。」

 とはいえ、もちろん何をやってもOKという訳ではないだろう。どこが違うのか。

 「自由にやっていい範囲をディレクターさんが持ってて、その中で演じさせて頂いている感じ。そういう仕事は、凄く安心するんです。竹安さんの場合はその幅が広く、その広さに戸惑いがありました。」

●絵描き/ディレクター竹安氏のディレクションへの微妙な戸惑い

 「竹安さんは元々専門のディレクターではなく、身も心も本来は絵描きさんですよね。ディレクションはとにかく「竹内さんでいいんです!」でした。どんどん演じて、竹安さんに確認して頂くしかない。「竹内さんでいい」「自由に演じる」というのが僕には新鮮な半面、戸惑いもありました。」

 あるいは、竹安さんは今回が初のディレクションであり、悩んでるとか、どういう風にディレクションしたらいいかわからなくて、何でもOKを出していたのでは?そう邪推して質問すると言下に否定された。

 「全く無かったです!もう我進む、みたいな感じで。邪魔させない!俺の世界を伝えればいいんだ!みたいな自信というか。ほんとに竹安さん、ずっとルシフェルを探してらして。僕で三代目くらいなんですよね。だから、よほど竹安さんの中でバチッとルシフェルにはまったので全部オッケーだったのかと。」

 ルシフェルの声優がなかなか決まらなかった、という話は聞いている。ブームの背景には、あの特徴あるPVの効果が大きかった以上、如何にルシフェルの存在が重要だったかも分かるような気がした。ところで、声優にとっての「演技」とはどういうものなのか?役者のように身ぶりなどがあるでもないし。

 「俳優と違うのは想像力ですね。例えば、外画(洋画)やアニメがあって、でも、その画面を見て演じるんじゃなく「キャラクターが見てる視点」を想像しながら演じる。外画とかは、ほんとに息だとか色んな小さな動きを読み取って、「この人はこういうこと思いながらやってるんだな」とイメージしつつ考えて演じてます。実はルシフェルでは、最後まで「これでいいのかな?」というのは残ってました。録音の中盤からは頭の中からっぽにして、何も考えずに開き直って喋ろう!と思いましたけど。でも感情入り過ぎると「そこ人間臭いですね」とNGになることもありました。」

 常に控え目だが、声優業のことについては日頃からよく考えられているのだろう、はっきりと確信をもって答えてくれる。そんな竹内さんにご自分の中での仕事へこだわりを聞いてみた。

 「"作品になじむ"というのが自分のテーマなんです。突拍子もないことして自分だけ目立つことも出来るけど、それだと作品全体を見た時にどうしても浮いてしまう。作品を聞いてる人が、キャストを見て初めて「竹内が出てたんだ」と分かるようなのが目標。」

 そうは言いつつ、どうしても、役者さんとかだとみんな「俺を見ろ!」となりがちだと思うのだが。

 「作品は一人で作っているわけではない。絵や色があって、大抵は最後に声やナレーションや、音が入る。それまでの工程の最後ということを大事にしながら、演じたい。それらを大事にしながら演じて行かないといい作品は生まれないんじゃないか。全体の調和が大切だと思います。」

●「舐められたらアカン!」から、「そのままでいい」へ

 「それはね、最初はやっぱり「俺が出たい!」はありましたよ......。」

 言葉の端にほろ苦さを漂わせながら、ややためらいがちに竹内さんが口を開いた。

 「関西から東京へ出て来て、アーツビジョンの事務所に所属したばかりの頃、「舐められたらアカン!」という気負いは強くあったんですが、そういう思いが空回りすることが多々あって。「お前な、いい声で芝居してばっかりじゃダメだぞ!」って、何度も監督さんとかディレクターさんに言われました。」

 芝居の役者に例えるなら「顔だけの大根役者」と言われたということだ。竹内さんによると、当時はまだ作品中の登場人物の感情や生き方などをしっかりと理解した上で、演じることが出来てなかったのだという。

 そしてもう一つ、竹内さんといえば、実は最初から「あの声」ではなかったというのだ。

 「そう。昔はもっと高かったんです。自分では渋い、ハードボイルド系の響きある声が目標だったのに、声優専門学校で初めてボイスを録音して聴いた時に「なんて高くて気持ち悪い声!」と自分で思ってしまった。それで将来のビジョンを考えて、まず下積みとして声をしっかり作ろうと思い、耳鼻咽喉科に行って理想とする声を出せるようになる為の発声トレーニング法を教えて貰ったんです。結果的に、4,5年かけて毎日トレーニングして、声を作って来た。それは大きなプラスになっているし、自分の中で自信になりましたね。」

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 現在の竹内さんの声は、オペラ歌手で言うとバリトンに当たる低音域だろう。それはテノールのような、いわゆる「主役」が出来る声域ではない。声優として元は高めの「ヒーロー声」だった人が、自ら声を変えてまで(主役向きではない)低い声の側に行きたい、と思ったというのは珍しいのではないだろうか。さらに、そのために長い年月訓練して、理想の声が出来た時に「大天使ルシフェル」という超はまり役のオファーが運命的に来たということにも驚かされる。

 「途中で何度か気持ちが切れそうになったことはありましたよ。声優を目指して色んなメディアをチェックしていても、自分が育つ過程で見て来たアニメ作品等の声とは違う。需要が変わって、そういう(ハードボイルド傾向な)作品の需要自体が少なくなってきているな、と......。でもルシフェルを演じさせて頂いて、それが仕事に繋がったり、いい方向に行っている。ほんとに運だなぁ、と。もしエルシャダイが無ければ、もしかしたら今頃はもう気持ちが切れて声優を辞めてたかも知れない。それくらい煮詰まってたタイミングではありましたね。」

 竹内さんに出会わなかったら現在のルシフェルは生まれなかった、とディレクターの竹安さんも強く言っている。ゲームの絵づくりの面でも、ルシフェルのCGは竹内さんの喋る時の唇の映像に合わせて作られた(CG技術でリップシンクという)ので、もしもルシフェル役が竹内さんに決まらなかったら、我々が見ていたのは全く違うルシフェルであり、全く違うエルシャダイだった可能性もある。その場合には、もしかしたらエルシャダイはここまで話題になっていなかったかもしれない?

●バックボーン

 ルシフェル役に決まった時、竹安さんから「普通の竹内さんの声でしゃべってくれたら、もうルシフェルなんです!あんまキャラ作らないでいいですから」と言われたという竹内さん。それくらいに竹安さんの中でイメージが出来ていたらしく、「バックボーンも聞いたし、色んなこと含めて普通に喋ってくれたら、それでルシフェルなんです」と、ほとんど絶賛状態だ。それまでは老けたおっさんとか悪役とか、洋画系のヒャッハー(笑)などの、役柄として作って固めて、ではない素の声でやるのは初めてだったので、逆に戸惑いもしたし、難しかったのだという。

 ところで竹安さんが言った「バックボーン」の意味とは?こう尋ねると、少し照れくさそうにしながらも、竹内さんは答えてくれた。

 「初めてルシフェルを演じる時、竹安さんに「訊いていいですか?竹内さんてヤンキーですか?」って言われて。うん......まあ、間違ってないです、と。ボンタン長ラン裏刺繍とかでいきがりつつ、でも部活大好き人間。武道が好きで、ずっと弓道部でした。色々とやったのは包み隠さずひと通り話したりして。家庭の事情とか。そしたら竹安さんが「じゃあ、その匂いを漂わせながらで大丈夫です!」と。」

 なるほど。ルシフェルというキャラクターは、服装などやポーズなどは常に崩してるのに、何処か品が良いというか、端正さを感じてたのだが。あれは武道をやる人特有の声が発する「居ずまいの正しさ」から来る印象だったのか。納得である。

 さらにもう一つ、竹内さんが己のバックボーンとして語ってくれたのは、御自身の家族のことだった。

 「兄が上に二人、小さい頃の記憶しかなく、向こうも弟の顔はもう覚えてないと思うんです。でも、そろそろ彼らにも子供とか育ってる時期だと思うし、息子・娘が見てるアニメのキャストに「竹内良太」って名前が出たその時に、チラッと思い返してくれるだけでいいんです。「これってもしかして、弟じゃね?」って。それがもし見えない所ででも叶っているなら「俺は声優やっててよかったな」って思える。」

 そういう思いがあったから、ここまで続けて来られた、という面もあるのだろうか。

 「ありましたね。兄弟を絶対見返してやるっていう思いが強かったからこそ続けてこられたんだと思います。」

「(兄達に)会いたいです。この年になってやっとそう思えるようになりました。」

 はっきりと語った竹内さんの表情は、明るかった。彼の自ら長年のトレーニングによって作り上げた「ハードボイルドな声」は、もしかしたら何処か、満たされたなった「父なるもの」への憧れだったのだろうか?だから、この声を通して自分の過去と正面から向き合うことで、彼は強くなれたのかもしれない。

●「赤い目のお兄さん」の真相

 竹内さんへのインタビューが決まった時に、どうしても聞きたいことがあった。2011年「311」の震災後に、ニコニコ動画で「赤い目のお兄さんからの応援のメッセージ」というイラスト・ボイス動画をアップされていた、あのことについて。すると途端に竹内さんが冷や汗をかきそうに恐縮し始めた。

 「あれは、イグニッションの方々にも、事務所にも、すみませんと。(深々と頭を下げる)」

 2011年3月11日に発生した東日本大震災から、まだ日が浅い混乱した時期にニコニコ動画にアップされたひとつの動画(?)があった。使用されていたイラストは竹安佐和記氏直筆の大天使ルシフェル、音声は誰あろう「中の人」、竹内良太氏の本人の声だったのだから、ファンの間に衝撃が走った。ネットニュースにも取り上げられたので、目にした人は結構いるかも知れない。

 その前に投稿されていた竹安さんのブログの絵に、竹内さんの声がついていたのだが、先に竹安さんの方から声掛けがあった?と尋ねると。

 「あれは、僕自身です。「竹安さんがブログに絵アップしてる」って聞いて、絵を見た瞬間に、勝手に体が動いていました。皆様の力になればと思いました。」

 震災の時、とりわけ不安な若い人達など、あの応援動画には本当に多くの人が勇気づけられていたように思う。エルシャダイのファンと公式の「絆」を象徴するようなエピソードとでもいうか。しかし同時に、ファンには社会人も多いので「大丈夫なの?」と多少の心配を感じていた人もいたに違いない。コンテンツ業界人としてリスクも含んだ行為に、あの時、竹内さんを駆り立てたものは何だったのだろうか。

 「僕自身が、阪神大震災を小学校6年の時に経験してるので余計に。楽しませてもらうとどんだけ気が柔らかくなるかっていうのを肌で感じているので。募金とかも色々やったんですけど、やっぱり今みんなに知って貰っているのがルシフェルで、それが何かのかたちで安らぎとか安心感とかに繋がるんであれば、このタイミングで声を収録しようと思い立ちました。」

 竹内さんの地元は兵庫県の神戸市だそうだ。奇跡的に身内には何も被害はなかったが、すぐ近くで家屋等が半壊全壊、火事が間近で起きてるという状況。「だから、本当に今回の震災が人ごとじゃなかったんです。」

 神戸の震災と今回の311の震災との違いは、ネットの発達によって今回は巨大な津波被害の過程の詳細な映像が数多く存在し、それを繰り返し見ることで余計にトラウマになってしまう人が続出したという面があった。それだけに同じネットを通して大天使の声に癒された人も少なくなかったのではないか。竹安さんも大阪ご出身だし、地震が人ごとではなかったのかもしれない。

 初めて竹内さんからあの当時のお気持ちを聞いて、大いに納得すると同時に、僭越ながらもファンを代表して「ありがとう」の言葉を伝えなければ、という強い気持ちにさせられた。本当にあのボイス動画には救われた人が大勢いたということを。

 「そう言って頂けるとありがたいです。そして会社が容認してくれたというのも感謝です。」

 ゲームの仕事は初めてではないが、ルシフェルほどメイン扱いの役は初めてだったという竹内さん。そんな未知の経験に戸惑いつつも、やっぱりこの人だから大天使ルシフェルをあんなに見事に演じ切れたのだ、と頷かされた筆者だった。

 竹内さん。長々とインタビューにお付き合い下さって、本当に有り難うございました!今後のさらなる御活躍にも期待してます! 



最後に竹内良太氏からファンへの伝言を預かって来たので、こちらに掲載させて頂きます。(※日付は当時のものです)

エルシャダイのファンの方に一言。

「こんにちわ。竹内良太です。発売されてもうすぐ4カ月ですね。まだまだ楽しんで頂ける要素満載だと思ってますし、これからルシフェルがどう変化していくのか とか、どういう表情見せるのかっていうのは、まだまだ続いて行くと思いますので、末長くルシフェルを愛して頂ければ。もちろんルシフェル以外にもエルシャ ダイのキャラ、たくさん濃いキャラクターいますので、プラス、イーノックであったりとか、いろんなバックボーン持ったキャラクターたちがたくさんいるの で、それぞれを愛して頂ければ、僕は大満足なので、是非これからも愛してやって下さい。有り難うございます。」

※※電子書籍の公開当初、事実と異なる記述を含む修正前の記事が上がってしまいました。関係者各位に多大なご迷惑をお掛けしたことをお詫び致します。


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