高額の給与を払えば「低賃金のワナ」から抜け出せるという日経の話を真に受けてよいのか?
昨日(3月30日)の日経の1面に、でかでかと『非製造業 無人化が救う 脱せるか「低賃金のワナ」』と書かれていたのをご覧になった方も多いかと思います。
主張は以下のようなもの
- 非製造業で無人化・省人化のイノベーションが進み始めた
- 小売り・介護、保育などで人手による作業をIT(情報技術)で効率化するビジネスが相次ぎ誕生している
- この動きをテコに、生産性が低いから賃金が上がらない悪循環、「低賃金のワナ」から非製造業が抜け出せれば、人手不足に苦しむ日本経済の大きな支えとなる。
- 非製造業は国内総生産の8割を担う一方で「低賃金のワナ」という問題を抱える
- 生産性の低さが響いて賃金を増やせず、優秀な人材を集められないから、生産性の低迷から抜け出せない。
- 非製造業が人手頼みの事業モデルから抜け出せれば、生産性・賃金・人材の質が連鎖的に高まる好循環が現実になる。
- 政策支援なども含めたトータルな対応が課題
比較されている業種は、輸送用機械、電気機械、電子部品・デバイスの業種に対し、宿泊・飲食サービス、保健衛生・社会事業、卸売り・小売り。
確かに、日本の場合、生産性比較の数字を眺めていくとそういう解釈が成り立つのも事実です。ただ、生産性の高さで上位にランクインする国にはルクセンブルクのような国家も含まれており、同国の生産性の高さを支える理由をご存知の方であれば、そもそも製造業と小売り・介護、保育の比較をすることにどれだけの意味があるのか?という指摘に同意いただけるのではと考えます。
次に、「低賃金のワナ」を解消する因子を、無人化・省人化を起点に、浮いた給与を原資として、現在の低賃金が解消され、給与が高額になれば優秀な人材が集まるようになるというロジックは本当なんでしょうか?
日経の言う優秀な人材の定義が曖昧な部分がありますが、そもそも小売り・介護、保育の問題は、現場で働く人材の不足と、現場仕事をコツコツ処理することでそれに対する対価をいただくという、いわば原始的な事業モデルにあると考えます。
この「低賃金のワナ」に関する指摘でいつも疑問に感じるのは、優秀な人材はこれらの業界に高額な給与を提示されて就職する可能性はゼロではないかもしれないですが、現場の仕事をしたいわけではないでしょうし、ましてやこれまで数人でやっていた仕事を機械と一緒にあんた一人でやってくれという仕事をそういう「優秀な人」がやりたがるでしょうか?
また、高額な給与を提示されて就職・転職する人材は、同じ理由で退社します。
産業革命から機械化が進行していく時代においては巨大な資本を使い、大量生産を行うことができる大手企業が圧倒的有利であり、同じ土俵で小規模事業者は太刀打ちできませんでした。
ただし、インターネットが当たり前になり、モノ作りと比較して圧倒的低コストで事業拡大が可能な現実があります。
このような現代において低賃金労働に依存する生産性の低い企業は淘汰されるべきという主張について一部は同意します。ですが、「事業所規模が小さいから生産性が低い」という纏め方に何か納得の行かないものを感じるのは、自分だけなのでしょうかね。