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追記有:マーケティング担当者なら知っていて損は無い、「マーケティング」と「ブランディング」の違い

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言葉が持つ意味が多様にあり、その定義を決めておかなかった場合に、話がかみ合わないことは良くあります。

自分はこれまで「マーケティング」という言葉について、そのような経験をしてきて、ITmediaマーケティングにこんな記事を書かせてもらったこともあります。

そして現在は、ブランディング戦略を学ぶ機会があり、そこで出された討議のトピックや参考文献として示された資料にマーケティングに関わる人であれば参考になると思われる事があったので、メモとして公開しておきたいと思います。

まず、ブランドという言葉の成り立ちについて焼き印の事を想起する方多いかと思います。ブランド戦略全書でもまずそのような紹介がされています。

もう少し深くそこを探ってみると、先史ブランド、原ブランド、前近代ブランド、近代ブランド、現代ブランド、という年代による違いがあるとのこと。

ブランドの歴史的発達過程.jpg

そして、ブランドの研究については1950年代に始まっており、当時はブランドのイメージやロイヤルティについての研究は個別に行われる傾向が強く、ブランドに対する認識も断片的であったとのこと。

その重要性や管理の必要性が認識されつつも「マーケテイングの手段」としてブランドを捉えるのが一般的だった
青木幸弘 ブランド戦略全書 第1章 ブランド論の過去・現在・未来(P4)

というのがまず大きなポイントかと思います。

そして、アーカーによるブランド・エクイティの概念が1990年代に登場することなります。

ここからの流れとして、ブランドの資産価値を認めたうえで、その価値を維持・強化するための具体的な方法論や枠組みづくりへと関係者の興味が変化するなかで、「いかにして強いブランドを構築するか」という実践的命題、「強いブランドとは何か」という本質的命題が強く意識されることとなり、この流れの中で新たに提示された概念が「ブランド・アイデンティティ」となります。

このブランド・アイデンティティについて、

ブランド・アイデンティティとは、ブランド戦略を策定する際の長期的ビジョンの核となるべきものである。そして、それは戦略立案者が創造し、維持しようと意図する「ブランド連想のユニークな集合」(a unique set of brand association)であり、ブランドに一体性を与え、マーケティング・ミックスの方向性と内容を規定するものである。(Aaker [1996] )

こちらで「ブランド概念の変遷」として示されている

  • 手段としてのブランド
  • 結果としてのブランド
  • 起点としてのブランド

この時代の流れにおいて、「マーケテイングの手段」だったものが「マーケテイングの起点」へ大きく変化したという事と、「マーケティング・ミックスの方向性と内容を規定するものである。」という指摘は、マーケティング担当者であれば知っておいて損はないと思います。

ブランド概念の変遷.jpg

冒頭で言葉の定義について書きましたが、一般消費者にとっての「ブランド」の意味すること、企業経営にとっての「ブランド」の意味は当然違ってきます。

ひとつのアプローチとして、会社組織の中で『企業経営にとっての「ブランド」』を語る場合、

お客さまから選ばれ続ける理由

↑こう考えることで、ブランドを進行形にした、ブランディングとマーケテイングの違いを考える際にしっくり来るものがあります。

そして、これを分類していくと、自分は何者であるかというアイデンティティの確立から、選び続けてもらうための理由づくりをしていく活動が「ブランディング」、STP(セグメンテーション、ターゲッティング、ポジショニング)を行い、市場づくりをしていくのがマーケティングという分類をしておくことで、『企業経営にとっての「ブランド」』を語る際に混乱をかなり低減できると思いますがいかがでしょう?

ブランディングとマーケティング.jpg

ただ、議論の中では、様々な立場から「ブランド」という言葉を発することがありますので、企業経営における「ブランド」の用語定義に加え、ブランド・アイデンティティの概念理解は最低限必要だと感じます。

授業の中で感じた自分なりのディスカッションのポイントと、この資料をまとめるうえで考えたことは「考え方のヒント」のスライドに入れておきました。

この他、「ブランドは国の違いを持つか?」というディスカッションも非常に有意義で、ここから導出されるところとして、戦前、戦後、IT化以降の企業の創立期と、取り組むブランド経営の違いなどに応用できないかと考えています。

日本は欧米にくらべマーケティングが弱いとか、CMOの数も少ないなどの指摘がなされていますが、『企業経営にとっての「ブランド」』を理解していく必要性も高いと感じています。

※この記事は昨日facebookにポストした、ブランディングとマーケティングの違いについて反応いただいたので、興味をもってくれた仕事関係者、友人への概要解説と自分用の復習を兼ねたエントリとなりますので、その点ご了承ください。


2016年1月18日追記

前回、自分は何者であるかというアイデンティティの確立から、選び続けてもらうための理由づくりをしていく活動が「ブランディング」、STP(セグメンテーション、ターゲッティング、ポジショニング)を行い、市場づくりをしていくのがマーケティングと書きました。

このブランドおよびブランド・アイデンティティという概念、マーケティングの教科書としては知らぬ人はいない、コトラーのマーケティング・マネジメントでどのように扱われているのか調べてみました。

ブランド概念の変遷のところでも触れたように、ブランド・イメージからブランド・エクイティという概念が生まれた1985年あたりと1996年以降、ブランド・アイデンティティという概念がマーケティングの教科書ではどのように紹介をしているのか、マーケティングの教科書としては知らぬ人はいない、コトラーのマーケティング・マネジメントを調べてみました。

1983年:マーケティング・マネジメント:競争的戦略時代の発想と展開

ブランドに関する意思決定
■ブランド設定に関する意思決定
1 製造業者の製品の取扱いと追跡を容易にする。
2 トレードマークや特許を得ることにより、製品の模倣を防ぐ
3 ある一定の品質水準を強調し、それに満足した消費者が、再度その製品を探し求めるのを容易にする。
4 製品の価格差別を行うための筋書きがつくりやすい。
■ブランド主体に関する意志決定
■ブランド品質に関する意思決定
■ファミリー・ブランドに関する意思決定
■複数ブランドに関する意志決定

1996年:マーケティング・マネジメント:持続的成長の開発と戦略展開

ブランドに関する意思決定
・ブランド設定に関する意思決定
第一に、ブランドは注文の処理を容易にし受注ミスや製品の損傷などの問題の追跡を可能にする。
第二に、トレードマークや特許を得ることで、製品の模倣を防ぐことができる。
第三に、ブランドに対する消費者のロイヤリティを築くことができる。
第四に、ブランドは、細分化された市場に合わせた多様な製品の提供を容易にする。
第五に、よいブランドは企業イメージを高めることができる。
・ブランド主体に関する意志決定
・ファミリー・ブランドに関する意思決定
・ブランド拡張に関する意志決定
・複数ブランドに関する意志決定
・ブランド再ポジショニングに関する意志決定

コラムとして(P580)

マーケティング環境とトレンド
ブランド・マネジメントの将来

ブランド・マネージャーのコンセプト全体の見直しを必要とさせている新しい環境変化は、次の三点である。

(1)流通業者の交渉力増大と販売促進の重点化
(2)マス広告の効果低下
(3)顧客のブランド・ロイヤルティ低下

このような換気用変化のもとで、ブランド・マネジメントのあり方が再検討されている。それには二つの考え方がある。

(1)ブランド・マネージャーの仕事と役割の変更
(2)カテゴリー・マネジメントの導入

2002年 コトラーのマーケティング・マネジメント 基本編

ブランドの決定
ブランドとは何か
ブランドエクイティ
ブランディングという難問
ブランドはつけるべきか、つけざるべきか
ブランド・スポンサーの決定
ブランド名の決定
ブランド戦略の決定
ブランドのリポジショニング

2008年 コトラー&ケラーのマーケテイング・マネジメント 基本編

ブランド・エクイティの創出
1.ブランドとは何か。ブランディングはどう機能するか。
2.ブランド・エクイティとは何か。ブランド・エクイティはどのように構築され、測定され、マネジメントされるのか。
3.ブランディング戦略の策定における重要な意思決定は何か。

2014年 コトラー&ケラーのマーケティング・マネジメント 第12版

第9章 ブランド・エクイティの創出
1.ブランドとは何か。ブランディングはどう機能するか。
2.ブランド・エクイティとは何か。
3.ブランド・エクイティはどのように構築され、測定され、マネジメントされるのか。
4.ブランディング戦略の策定における重要な意思決定は何か。

第10章ブランド・ポジショニングの設定
1.企業はどうすれば市場で効果的なポジショニングを選択し、伝達できるか。
2.ブランドはどのように差別化されるのか。
3.製品ライフサイクルの各段階には、どのようなマーケティング戦略がふさわしいのか。
4.マーケティング戦略にとっての市場発展とは、どういう意味か。

このようにブランドに関する記載はより詳細となっている訳ですが、これは題名にもあるケラー(Kevin Lane Keller)が共著者になっていることも無関係ではないでしょう。そういう意味でケラーは「顧客ベース・ブランド・エクイティ」論は、マーケティング活動への消費者の反応がベースにありますので、コトラーとのコンビネーションは良いのかもしれません。

コトラー&ケラーのマーケティング・マネジメント 第12版 では、アーカーモデルへの言及もありますが、今回調べたなかではブランド・アイデンティティへの具体的な記述は見つけられませんでした。

ということは、マーケティングに関する教科書を真面目に勉強している方々でも、アーカーのブランド戦略の中で特徴的なブランド・アイデンティティについて知る機会が無い方もいるのでは?と考え「ブランド優位の戦略―顧客を創造するBIの開発と実践」で紹介されている

ブランド・アイデンティティ (アーカーモデル)についてのメモをスライドシェアにアップして共有したいと思います。

ちなみに、こちらはアーカーのブランド論を網羅するのに最適とされている「ブランド論---無形の差別化を作る20の基本原則」には割愛されている部分もあるので、詳細を確認したいかたは「ブランド優位の戦略」を手にすることをお勧めします。

現在ブランド・アイデンティティに関する課題と格闘している自分の感想として、企業理念を考えるのは当然として、テクノロジー・ベンチャーが理想顧客を考え、ブランド・アイデンティティを構築することって非常大切だと痛感しているので、今後の授業で学んだことは追加でアウトプットしていきたいと思います。


参考書籍

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