WIREDのiPadアプリは 電子書籍インターフェースの デファクト・スタンダードになるか?
松尾さんが国産電子書籍サービスについてとっても勉強になるエントリを連発してくれています。7日の「国産電子書籍サービスのデバイス制限、課金システム、購入体験をまとめてみた」のエントリの最後はこんな風にまとめられており、
国産サービスはKindleやiBookstoreの米国版と比べてユーザビリティが非常に低いので、これだけの使いにくさを乗り越えられるだけの魅力的なコンテンツがないと非常に厳しい。ユーザーにとってのシンプルさ、使いやすさを念頭に置いた再設計を強く望みます。もちろん、魅力的なコンテンツ提供も。
ふむふむ、確かにiPadというデバイスが出てきて、これまでもタブレットPCはあったけれども、OSの基本インターフェースとして指で操作することをちゃんと考慮していたか?と考えるとお寒いものがありまして、そういう意味で電子書籍だけに関わらず、iPadに今後投入されてくるアプリの情報設計はまだまだ暗中模索の状態と言えますね。
ちなみにウェブのユーザビリティの大家であるヤコブ・ニールセン博士が、iPadの操作性についてレビューをされています。このレビューをAppleを持ち上げたい人たちと、どうもけなさないと気が済まない人たちで取り扱いに温度差あるのですが、1024x768の画面サイズにおいて必要な情報、もしくは訪問者に見せたい情報はこのサイズに収めようという事は今でも当然しておりますが、ここに人間が指で操作するという事はほとんどのサイトでは考慮されていないはずですからこの辺は読み手の側でもいろいろ考えながら読み解く必要ありと思います。
このレポートの中で、Webサーフィン以外にも、アプリを使っていく上でiPadのUIがユーザーに深刻な混乱をもたらす三つの脅威にさらされているとヤコブ・ニールセン博士は指摘しています。
・発見しにくさ: そのUIのほとんどはアフォーダンスがよく考えられておらず、エッチング加工されたようなガラスという美的哲学に隠れてしまっている。
・記憶しにくさ: ジェスチャーというのはアプリ間で一貫性をもって採用されていないと、矛盾した一時的なものになってしまい、学習するのが難しくなる。広範囲で業界標準のコマンドに準拠することはユーザーの手助けになるのである。
・予想外の起動: 誤ってタッチしたときや、予想してない機能を起動してしまうジェスチャーをしてしまったとき、これが起きる。
そして、これから皆さんがリリースするアプリがどういう性質のモノなのかによってどっちの考え方を適用するのが悩むことになるだろうと思います。
カード名人 vs. 聖なる巻物師
カードには固定されたサイズのプレゼンテーション用キャンバスがある。 この二次元の空間内には心ゆくまで(したければ美しくレイアウトして)情報を配置することができるが、スペースをそれ以上拡大することはできない。もし1枚のカードに入る以上の情報が得たければ、ユーザーは新しいカードに飛ぶ必要がある。HyperCardがこのモデルのもっとも有名な例である。
スクロールは欲しいだけの情報に必要とされる空間を提供する。そのキャンバスは好きなだけ延長可能だからだ。ユーザーはあまりジャンプしなくてもよくなるが、そのおかげで凝ったレイアウトにすることは難しくなる。ユーザーが目にしているものをデザイナーが常にコントロールすることが不可能だからである。
かなり乱暴というか駆け足でJakob Nielsen博士の「iPadのユーザビリティ:ユーザーテストからの最初の所見」から抜粋してきましたが、ここでまだWIREDのアプリを購入していない方、買ったはいいけどまだ見る暇がない…という方向けにこれまたざっくりとしたモノではありますが、WIREDアプリがどういう情報設計をしているのかをご紹介したいと思います。
どうでしょう?
Jakob Nielsen博士が指摘していた三つの脅威であったり、カード名人 vs. 聖なる巻物師について、WIREDは何かしらの検討をした上でこのインターフェースをデザインしたのが分かると思います。
ビデオ再生ボタン、コンテンツの展開ボタン、スクラブ用のボタンに、それぞれの展開形状をアイコン化したメニューボタンに、翻訳ボタンもそれぞれの特性を端的に表現しています。
番号がついているコンテンツと、写真の切り替えについては、それが装飾だけなのかを判読するのは触ってみないと分からないという点でアフォーダンスが適切ではない…という指摘がなされるかとは思いますが、iPadというモノが突然出現してまだほんのわずかな期間しか経過していない時点で、ユーザが直感的に判断できるマークをうまく使っているというのが私が感じたところ。
Appleがデフォルトでインストールしてくるアプリなり、多くの人にダウンロードされる人気アプリでの操作体験はユーザに染みついていくものですので、使い勝手の良さ、学習・習得のしやすさという観点でWIREDアプリを無理して真似る必要はありませんけど、今後アプリをリリースしていこうという人たちであれば勉強になるネタは沢山詰まっていると思います。
新時代を開く電子書籍のコンテンツとして見た場合には、こんな辛口の意見もありまして、
値段・容量の点ではまさにご指摘の通りって感じですが、事「雑誌の域を出ない」という点についてはほんとハードルが高い課題だと思います。開発・制作手法についてはXML+画像というチョイスだけでなく、HTML5とCSSで相当の事が出来るようになる予感も漂う今日この頃、「雑誌の域を出ない」という点について、それではどういうモノが良いのか?という答えを残念ながらまだ私は準備できておりませんが、少なくともiPadで動作するコンテンツをデザインしていく上で、そのアプリがユーザに対して有効性・効率性・満足度を与えることができるか?をまず考えながら、情報設計の側面においては何をアフォードしているかが、よく「見えるように」しておくことが重要というのは明白かと思います。
そして今日は最後にアフォーダンス理論の中で出てくるこんな言葉で今日のエントリは終わりにしたいと思います。
デザイナーは、道具の要素となる「形」の専門家ではなく、まずは道具を介したときに、人々の「知覚と行為」にどのような変化が起きるのかについてしっかりと観察するフィールド・ワーカーである必要がある
佐々木 正人 (著) アフォーダンス-新しい認知の理論より
佐々木 康彦 Twitterアカウントはこちら。 http://twitter.com/yasusasaki
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