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「雇用崩壊」に見る雇用のあり方

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総務省が5月1日に発表した労働力調査によると、3月の完全失業率(季節調整値)は4.8%となり、完全失業者数は前年比67万人増の335万人となりました。

アスキー新書「雇用崩壊」は、4月に出版されたばかりです。7人の著者がインタビュー、オピニオン、レポートの形で雇用問題について述べています。

7人の立場は、議員、人事コンサルタント、大学教授など多岐にわたっています。派遣の是非、正社員vs非正社員の労労対立、終身雇用等について、それぞれの立場で主張しています。この本全体で統一された意見はありません。誰の意見に賛成するかは、読者に委ねられています。読者は正反対の主張を読み比べて、自分の頭で考える必要があります。

私は、この本の中では、国際基督教大学の八代教授の意見に共感しました。長期雇用保障(終身雇用)、生活給(年功賃金)、企業別組合の3つの柱で構成される日本的雇用環境は、あくまで過去の高い成長期に適した仕組みであって、この仕組みを新しい時代に合った形に変えていかなければならない、とする考え方です。

八代教授は、日本的雇用環境の下、企業が長い時間をかけて熟練労働者を育て上げて、不況時でも正社員をすぐに解雇しないで来たのは、企業にとってその方がメリットがあったために自発的に始まったものだ、としています。その上で、不況の時は企業が一定の手続きを踏めば、正社員でも整理解雇ができるように法律で定めて、労働市場を流動化することで、過度に非正社員に頼ることもなくなるのではないかと提言しています。最終的に目指すのは、非正社員も含めた「同一労働・同一賃金」です。労働組合の言う「同一労働・同一賃金」は、同時に定期昇給・生活給も死守しようとするため、論理矛盾があるとしています。

以下は私の考えです。企業の中では、

利益=売上-原価

の式が鉄則です。この式は、

企業の内部留保=売上-正社員の人件費-非社員の人件費-その他の経費

企業の内部留保+正社員の人件費+非社員の人件費=売上-その他の経費

と読み替えることができます。

つまり、昨今のように売上が減ると同時に経費の節約が限界になっていることを前提条件とするならば、残った利益を、企業、正社員、非正社員で分けなければいけないという単純な話です。ある部分に厚く配分すれば、薄くなる部分が必ずできます。それぞれの立場でいくら主張したところで、利益が増えなければどうしようもありません。

立場が異なる三者の要求を完全に満たすことができない以上、どのように配分しても対立の原因になるでしょう。”社員を大事にする”企業では、非正社員を減らすことになります。非正社員も含めて企業の体力と考える企業なら、内部留保を減らしてでも非正社員を残すでしょう。あくまでも内部留保を優先する企業には、ストライキが起きたり、働く側が世論に訴えて企業に対する不買運動になったりするかもしれません。

昨年11月に書いた「なぜ今【ベーシック・インカム】なのか」で引用した、ヴェルナーの言葉をもう一度引用しておきます。

私たちはようやく現在、経済において生産が消費をはるかに上回るというパラダイスのような状況を手に入れたのです。

自動車も家電も必要以上に作れるようになったところに、急激に需要が落ち込んだことが、今回の不況と雇用崩壊の原因です。世界の自動車の需要は、今後は戻らないと言う人がいます。家電はますます新興国で生産されるようになるでしょう。従来型のもの作りの生産能力は、需要に対して過剰になりました。世界は変わってしまったのです。昔のやり方や仕組みにしがみつくことなく、新しい変化に対応することを考えた方がいいのではないでしょうか。

現状を打破する方法は、全く別のところで売上が上がること、すなわちこれまでにない製品やサービスを提供する別の企業を立ち上げることです。そうすれば、雇用の機会が増えるでしょう。あの2兆円は、このような目的に使って欲しかったと思います。

この本の中で興味深かったのは、全国コミュニティ・ユニオン連合会事務局長の安部氏のオピニオンでした。安部氏は年末の「年越し派遣村」の関係者の一人です。

安部氏は年越し派遣村について、「話題になるように仕組んだ」「厚生労働省との交渉を狙っていた」「だから日比谷公園に作った」と率直に述べています。年越し派遣村に集まった505人の中にホームレスが1割くらいいたことや、ホームレスと派遣切りされた人たちの間で摩擦があったことを正直に書いています。

年末年始の報道では、このような意図や事実は報道されなかったように記憶しています。公に報道されなくても、今やインターネット等から情報が入って来ます。テレビや新聞で美談や絵になる部分が強調されたことで、かえって胡散臭い印象を受けました。最初からネガティブな情報を出していれば、印象はもっと違ったのではと残念に思います。

本のトリは、オルタナティブブロガーの中村さんです。中村さんは「夢を語らなくなった若者たち」というタイトルで書いています。

私の周りには若者が少ないので、最近の若者がネガティブ志向や保守的選択かどうかわかりません。私は、若者が働かずに親を頼って暮らすことができるのは、日本がそれだけ豊かであると考えます。逆に言えば、昔の若者の全員が、熱く夢を語っていたわけではありませんでした。リクルートで受け身の社員が増えた事例は、リクルートという器がベンチャーから大企業になっただけなのかもしれません。夢を持っている若者は、今は社会企業家やNPOに向かっているように思われます。

若者が夢や希望を持って働ける会社や仕事がたくさん必要であるという主張には賛成です。ただ、これからは、会社が定年まで守ってくれることは期待できません。若者も年配者も、自分で自分の仕事を作るしかないでしょう。

なお、生活人新書から「雇用大崩壊―失業率10%時代の到来」が出ています。アスキー新書「雇用崩壊」とお間違えのないよう、ご注意ください。

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