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顧客サービスとITのおいしい関係を考える

貧困は治らない病気だ

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「雇用崩壊」に見る雇用のあり方>を書いた後、NHKスペシャル「“35歳”を救え あすの日本 未来からの提言」が放送された。この番組については、林さんが<大失業時代を乗り越える>と題して、エントリを書いている。すでに放送から日が過ぎていることもあり、一言だけコメントしたい。「積極的雇用政策で現状の一兆円を三兆円にすれば明るい未来になると言うのが本当なら、あの二兆円はここに使うべきだったのでは。」と思う。

ゴールデンウィーク雇用問題特集(勝手にやっているが)の締めくくりとして、西原理恵子の<この世でいちばん大事な「カネ」の話>を紹介したい。

サイバラの職業は漫画家だ。テレビ放送中のサイバラ原作「毎日かあさん」は、サザエさんやちびまる子ちゃん系のほのぼのテイストになっている。しかし、本来の(?)サイバラの絵は、ヘタウマとか言うレベルでなく、恐ろしくキタナイ。字がやたらとデカくて多い独特の作風だ。

しかも取り上げるネタは、麻雀やFXを自腹でやって大負けする体験記や、アジアの極貧地域の旅行記など、他の追随を許さない。「恨ミシュラン」では、神足 裕司 と共にミシュラン推薦のレストランを遠慮無くぶった切り、有名レストランから抗議を受けた。編集者からリスペクトを込めて「無頼派」「狂犬」と呼ばれるくらいだから、筋金入りだ。

書店でこの本を見つけて数ページ立ち読みしたところ、おもしろかったので買ってしまった。タイトルが「カネ」の話となっているが、この本は億万長者になるためのありがちなビジネス書や自己啓発書ではない。サイバラの自叙伝であると同時に、カネについての考え方を述べたものだ。

サイバラは1964年、高知県の生まれ。実の父親はアルコール依存症で、サイバラが3歳の時にドブにはまって死亡した。再婚した母親に連れられて引っ越した街は、貧しく殺伐としたところだった。絶望的に貧乏で、若者は不良になるしかない土地柄。借金が返せなくなって姿を消した友達がいた。子供時代のサイバラの家は貧乏だった。遠い昔の話ではなく、たかだか昭和40年代の現実だ。

新しい父親はタクシー会社を経営するなど一時期は金回りがよかったものの、バクチから抜けられず、どうにもならなくなって首を吊って自殺した。後には何も残らなかった。「人間はお金がすべてじゃない」とか、「しあわせは、お金で買えない」とかの、上っ面のきれいごとは通用しない世界である。

貧乏は病気だ。それも、どうあがいても治らない、不治の病だ。

それは、たとえばあの窓ガラスが割れたまま、ほったらかされていた家みたいなもの。あれも何かひとつの原因でそうなったわけじゃない。何年も何年もかけて、ああなって、いつからそうなったのかも、もはや、わからない。

そうして長い歳月をかけて積み重なったものがいったん決壊をはじめたら、人は、押し寄せる流れに抵抗することもできない。ただずるずるとのみこまれていくだけ。

貧乏っていうのは、そうやって土砂崩れみたいに、何もかもをのみこんで押し流してしまう。そういうこわさを、わたしは、あのころに見て、知った。

その後、母親がなけなしのカネを出してくれて、サイバラは東京に出て、美大の予備校に通うことになった。そこで自分の実力が最下位であることを思い知らされる。自信をなくして布団にくるまったまま学校に行かなくなり、「寝たきり浪人」になりかかったが、「ここで逃げるわけにはいかない」と開き直った。最下位の人間には最下位の戦い方があると、あらゆるアルバイトをしながらイラストを持って出版社を回った。

「どうしたら夢がかなうか?」って考えると、ぜんぶを諦めてしまいそうになるけど、そうじゃなくて「どうしたらそれで稼げるか?」って考えてみてごらん。

そうすると、必ず、次の一手が見えてくるものなんだよ。

絵の仕事で毎月5万円を稼げるようになった時、目標の毎月30万円に近づけるにはどうすればいいか考えた。

それには「商品の差別化」が必要だった。

「商品の差別化」なんていうと難しい話みたいだけど、ようは「もっとたくさん稼ぎたいなら、人とちがうことをやらなくちゃお金にならない」っていうこと。

わたしは、来た仕事を言われた通りにやるだけじゃなくて、自分なりの工夫をすることにした。サービス精神を発揮することで「ほかの人とは、ちょっとひと味ちがうんですよ」ってところを見せて、自分の個性をアピールしてみたというわけ。

サイバラは、「才能」は人から教えられるものだと言う。フリーランスで働く方なら、理解できるのではないだろうか。

いい仕事をすれば、それがまた次の仕事につながって、その繰り返し。ときに自分でも意識的に方向転換をしながら、とにかく足を止めないってことが大事。

そうやって、大学3年の時に、「絵の仕事で月30万円」を達成した。さらに週刊ヤングサンデーで連載のチャンスをつかんだのだった。

どこかに、自分にしっくりくる世界がきっとある。

もし、ないとしたら、自分でつくっちゃえばいい。

働くっていうのは、つまり、そういうことでもあるんじゃないかな。

仕事っていうのは、そうやって壁にぶつかりながらも、出会った人たちの力を借りて、自分の居場所をつくっていくことでもあると思う。

漫画がヒットして収入が上がっても、それで人生上がりにはならなかった。ギャンブル漫画を書くなら身銭を切るべきという覚悟で、麻雀で10年間トータル5千万円の損を経験する。そしてようやく父親を理解することができた。

自分でもギャンブルをやってみて、少し、わかった気がするのよ。

あのころのお父さんはまともじゃなかった。ギャンブルに依存する「病気」だったんだって。「病気だった」って想ったら、かなしかったいろんなことも、ちょっとは許せるような気がした。

FX(外国為替証拠金取引)の体験漫画を書いた時は、アトリエを作るための資金だった一千万円を、FXであっという間に損してしまった。それでも「身銭を切って、体をはって笑いをとりたい」というサービス精神の持ち主だ。

だからこそ、若いうちに「このお金は今日一日稼いだ稼ぎだ」と実感できるような体験を積んでおくことが、すごく大事だと思う。

手で触れる「カネ」、匂いのする「カネ」の実感をちゃんと自分に叩き込んでおく。そういう金銭感覚が、いざというときの自分の判断の基準になってくれるからね。

手で触ることのできない「カネ」、紙の上の数字みたいに見える「カネ」には、そんな「金を借りる」って感覚まで麻痺させちゃうところがある。

「カネについて口にするのははしたない」という世の中の教えに、サイバラは自分自身の体験をもとに反論する。

従業員が従順で、欲の張らない人たちばっかりだと、会社の経営者は喜ぶよね。

「働き者で欲がなく、文句を言わない」というのがまるで日本人の美徳のひとつみたいに言われてきたけど、それって働かせる側にしたら、使い勝手がいい最高の「働き手」じゃないかな。

そういう人間が育つように戦後の学校教育ってあったと思うし、そういう人間を使うことで日本の経済成長もあったと思うけど、もう、単純な経済成長なんか見込めないような今の時代に、そんな金銭教育のままでいいんだろうか。

そして、「やりたいことがわからない」という悩みには、「カネ」という視点をもつことを薦めている。

一方に、お給料は結構もらえるんだけど、でもそれはガマン料も入っている仕事がある。

そしてもう一方に、そんなストレスはなさそうだけど、ただ食べていくため、生活費を稼ぎ出すための仕事がある。こっちは、まあ、お給料はそんなにはもらえない。

「自分がやりたいことがわからない」という人は、やみくもに手探りをするよりも、このふたつの「あいだ」に自分の落としどころを探してみたらどうだろう。

それでも、もし「仕事」や「働くこと」に対するイメージがぼんやりするようならば、「人に喜ばれる」という視点で考えるといいんじゃないかな。

サイバラは、アジアの貧しい国を旅して、どうして貧困が起こっているのか、どうして貧困はなくならないのか、貧困のおかげで誰が死んでいっているのか、を考えた。

子供を「商品」として売るために、赤ん坊を産む親がいる国がある。売れ残ってしまった「商品」は、川に流されるか、捨てられるかする。カンボジアには、有毒ガスの煙が立ち上がるアスベストを含んだゴミの山で、ペットボトルと鉄をより分けて集める仕事をする子供がいる。徹夜で働いても、稼げるのは家族の食事一食分。危険な場所とわかっていても、他に働く場所がなくてどこにも行けない。長生きはできない。

「貧困」とは治らない病気だと、サイバラは言う。貧困の底で、貧乏から抜け出す希望が持てなくなると、その劣悪な環境を諦めて受け入れてしまう。そうして「考えたってしょうがない」という諦めが人生の教えとして、子供の世代に受け継がれていくのだそうだ。日本ではチャレンジしなくなった若者が心配されている。ワーキングプアが増える中で、貧困が次の世代に受け継がれる危険な兆候ではないだろうか。

サイバラが期待しているのが、グラミン銀行だ。バングラデシュの貧しい農村部の女性に、起業資金を貸すマイクロ・クレジットの事業である。サイバラは、「働くことができる」「働ける場所がある」ということが、本当の意味で人を「貧しさ」から救うと考えて、グラミン銀行に注目している。

サイバラ自身は、漫画が売れただけでは負のループから抜けられなかった。アジアの国をいっしょに旅した戦場カメラマンの夫は、結婚後にアル中になった。もともと彼の父親がアル中だった。彼は子供の時にアル中の父親のことを憎んでいたにもかかわらず、父親から自分がされていたことを、そっくりそのまま自分の家族に対してするようになった。アル中の夫に酔って暴言をぶつけられる生活が自分の母親と同じ道をたどっていることに、サイバラは気がついた。まさに夫婦そろって「負のループ」だ。

子供たちに負のループを受け継いではいけないと一度は離婚するが、その後、夫は専門の病院に入院して、アルコール依存症を克服して帰ってきた。ようやく家族とのあたたかな暮らしを始めたのも束の間、半年後に夫はガンで亡くなった。

サイバラは、アジアの貧しい国より日本の方がマシだから我慢しろとは言わない。自己責任を他人に押しつけて責めたりしない。だからと言って、他者に対して「生きさせろ」と主張することもない。あくまでも一人一人の自立を求めている。

生きていくなら、お金を稼ぎましょう。

どんなときでも、働くこと、働き続けることが「希望」になる。

人が人であることをやめないために、人は働くんだよ。

働くことが、生きることなんだよ。

どうか、それを忘れないで。

この本は、中学生から大人までを対象としている。中学生がこの本を読んで自分で考えるといいと思う。ただ、本の内容が本当に役に立つのは、ニート、非正規雇用で働く人、リストラにあった失業者など、行き詰まりを感じた大人なのではないだろうか。“35歳”にお薦めしたい。

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