異文化を扱うということの難しさ、もしくは誰もが世界に向かって発言できる時代に世界を相手にしていくことの難しさ
ソニー・コンピュータエンタテインメント(SCE)の新作ゲームのBGMにコーランの一部が含まれていたことが問題視され、内容差し替えのため海外では発売が延期される事件があった。
日本の一般的なニュース記事では、表面的な事実のみが報道されているようだが、欧米のコラム記事などではより突っ込んだ紹介がされているものもある。
特に「Machinist」の10月20日付け記事「Sony recalls LittleBigPlanet over Quran quote in music」は、事の発端となったネット掲示板への書き込みも引用した上で考察を行っている。興味のある方には是非原文を読んでいただきたいと思うが、同記事を読んで自分なりに理解した内容を乱暴にまとめてみると以下のようになる:
- 一人のイスラム教信者を名乗る人物が、ゲーム「リトルビッグプラネット」のBGMに含まれた歌詞の内容はコーランからの引用であり、これはイスラム教を冒とくするものだという書き込みを掲示板に行った。
- BGMに起用された音楽は、米グラミー賞も受賞したことがある敬虔なイスラム教信者アーティスト、Toumani Diabatéの作品「Boulevard de l'Indépendance」であり、アルバム「Tapha Niang」に収録され普通に市販されている。
- SCEは、今回の件で気分を害された方には真摯にお詫びするとした上で、ゲームの販売を延期、問題とされているBGMの差し替え作業を実施することにした。
- 米在住イスラム教関係者によるコメントでは、問題とされたBGMについて個人的には一切の不快感を覚えないが、これを不快とする信者がいる以上、今回のソニーの措置には感謝するとしている。
同記事を書いたCyrus Farivar氏は、「このようなたった一人の発言に対して、これほど慎重になるのは馬鹿げている」といった感想を書いているが、確かに自分も個人の立場であれば同氏の意見に全く同感だ。しかし、それが企業としての立場になると非常に難しい。
もし、SCEがイスラム教に基づく企業であれば、おそらくこのままBGMを差し替えることもなく発売できたかもしれない。しかし、ソニーは日本の企業であり、例え社員に多くのイスラム教信者がいたとしても、イスラム教とは直接関係がない。どんなに理屈の上でイスラム教を冒とくすることはないとしても、一旦疑った相手を納得させることはほぼ不可能だろう。また、世界中の顧客を相手にビジネスをする以上、不要な宗教的・文化的摩擦は極力避けたいところだ。
コミュニケーションの手段がネット中心になったことにより、非常に簡単に世界中とつながることは出来たけれど、それ故に異文化交流における軋轢も簡単に表出するようになった。また、たった一人のつぶやき程度の意見でも、あっと言う間に伝播して非常に大きな影響力を及ぼすこともある。色々と大変な時代なのだなと改めて思った次第。