エージェンティックAIの台頭で2030年へ加速するAIサーバー市場
ABI Researchは2025年5月14日、AIサーバー市場に関する最新レポートを公表しました。
ハイパースケーラー各社の設備投資(CAPEX)は2025年に再び拡大し、生成AIの学習需要を土台にしてきた市場を次の成長フェーズへ導くと指摘しています。同レポートは2030年までにAIサーバーの世界市場規模が5,230億米ドルを超えると予測し、推進役としてファインチューニングと「エージェンティックAI(Agentic AI)」の推論ワークロード拡大を挙げました。生成AIブームのピークを過ぎても推論・微調整の需要が投資を呼び込み、AIインフラが産業競争力の中核になるという見通しは、政策立案者や企業の事業戦略に大きな示唆を与えています。
クラウド大手の積極投資が市場を牽引
Microsoft、Google、Amazonに代表されるクラウド大手は、2024年に続き2025年も二桁台の設備投資増を見込んでいます。NVIDIAのHopper世代以降のGPUやAMD MI300シリーズの採用が進み、電力効率を重視した液浸冷却データセンター建設が各地で加速しています。ABI Researchは2025年のCAPEXが前年比で10%以上増え、総額は3,500億米ドル規模に達すると試算しました。これらの動きは国内外のサーバーOEMや部品サプライヤーへ波及し、新規参入企業の資本調達を後押ししています。
フロンティア学習の限界とエージェンティックAIの台頭
レポートがいうフロンティア学習とは、最先端の既存モデルの機能を超え、さまざまなタスクを実行できる大規模な機械学習モデルを構築する取り組みです。この分野は2026年頃に費用対効果の壁に突き当たると予想され、学習向けインフラへの投資は徐々に減速します。
一方で、マルチモーダルモデルにドメイン知識を加えるファインチューニングや、AIエージェント同士が自律的に協調するエージェンティックAIが急速に普及し、推論用GPUサーバーの需要を押し上げます。ABI Researchはこれらワークロードの市場規模が2024年の数十億ドルから2030年には1,450億ドルに拡大すると見ています。企業はROIを高めるため、モデルサイズの拡大より用途特化を優先する動きを強めています。
GPU特化クラウドとサーバーOEMの協業拡大
GPU専業クラウド、いわゆる「ネオクラウド」の躍進も顕著です。CoreWeaveは2025年にGoogleおよびOpenAIと大型契約を結び、CAPEXは前年比約3倍の2,000億円超となる見込みです。さらに同社はIPO後の株価上昇を背景に追加増資を進め、GPU確保競争で優位に立とうとしています。Nebiusなど欧州・中東の事業者や国内スタートアップもGPUクラウド市場に参入し、価格と立地の柔軟性で差別化を図っています。
サーバーOEM各社--Dell、HPE、Supermicro、IEIT Systems、Cisco--はこうした事業者へホワイトボックス供給を拡大し、Penguin SolutionsやAMAXなどニッチベンダーも設計受託を通じて存在感を高めています。サプライチェーン多極化は価格競争力をもたらす一方、部品調達リスクの分散を促します。
輸出規制が促す地産地消と新興市場
米国は2024年以降、中国を中心とする一部地域への先端GPU輸出規制を強化し、AIサーバーのグローバル需給に不確実性をもたらしています。OEMの多くが米国拠点であることから、レポートは関税や輸出許可による出荷遅延を織り込みつつも、市場成長は維持されると分析しています。
規制はAIサーバーの地産地消を促し、ASEANやインド、中東でのデータセンター誘致競争を活性化させる効果もあります。日本企業にとっては、国内外の法規制への即応力とユーザーローカライゼーションを意識したアーキテクチャ設計が競争優位性を左右するといえるでしょう。
今後の展望:2030年へのロードマップ
2030年までのAIサーバー市場は、フロンティア学習で幕を開け、エージェンティックAIとファインチューニングによって成熟期へ向かうグラデーション型の成長曲線を描いていくことが想定されるところです。