DX見聞録-その10 DX全体像を俯瞰し実践する
デジタルトランスフォーメーション(DX)の実態について既知の話からあまり知られていないコトまで。このコーナーで連載をしています。
これまでこのブログでは、既に世の中で実施されているデジタル変革に関連した取り組みやリサーチ結果(攻めのIT銘柄、IT人材白書、DXレポート)について紹介してきました。また、具体的にDXをどのように進めていけばよいのか?を5つのポイントとして紹介して来ました。
実践のポイントのまとめとして改めてDX実践の全体像について考えてみたいと思います。
デジタル変革をいかに進めるか?
デジタル変革実践のポイントを5回にわたり連載をしてきましたが、ここで再びデジタル変革をいかに進めるかについて考えてみたいと思います。DXのステージは、図1.にあるように4つの階段を登らなければなりません。会社の会長や社長のいわゆる"鶴の一声"で、"わが社もAIを活用して何かできるのではないか?"といったあいまいな動機でとりあえずPoC(概念実証)をやってみたが、何のためのAI導入なのかプロジェクトメンバーも???の状態で進めているケースも多いと思います。
しかも、すでにかなりの金額を投入してなんらかの成果を出さないと後に引けないようなケースも散見します。そのような迷走プロジェクトは、WhyやWhereの再確認が改めて必要になるのですが、そんな手戻りをなくすためにも最初にしっかりと社内で(トップも含めて)コンセンサスを得ておく必要があります。
(図1.デジタル変革をいかに進めるか?)
DXの全体像
そもそもDXを進める上で何をすべきか全体像をイメージできているでしょうか?下記は、ITRの内山さんが提唱している俯瞰図なのですが、DXへの取り組みは大きく2つに分けることができると指摘しています。
一つ目は、具体的なDXの創出および実践を通して既存業務やビジネスの変革です。二つ目は、実践と並行してIT環境の再整備や企業内改革を推し進めていくことです。
これらの2つの活動は不可分であり、全体を俯瞰しながら歩調を合わせて進めなければなりません。
(図2.DXの全体像)
DXの対象領域を両利きで考える
DXの実践には二つのタイプのイノベーションが考えられます。漸進型のイノベーション(深化)では、文字通り、既存の業務を徐々に深化させて業務の高度化や顧客への新規価値を創出します。製品やサービスの改良や新たな顧客体験を提供します。また社内業務のあり方を変革することも対象となります。例えば、仕入れの仕方や顧客サポートの仕方の変革です。
一方、非連続イノベーション(探索)は、新規の事業・顧客層を新しい対象として新しい事業や新規市場の開拓を目的とします。ここではビジネスモデルの変革も伴います。
デジタルネイティブ企業ではなく、既存の企業で先端企業といわれる会社は、この二つのイノベーションを使いこなしているように思います。今年度の攻めのIT銘柄のグランプリを獲得したANAはまさにその代表企業といって過言ではありません。
(図3.DXの対象領域を両利きで考える)
DX実践の主な領域
この二つのイノベーションをデジタル化の潮流を含めてより詳しく企業ITとのかかわりで説明したのが図4.になります。まず、漸進的イノベーションは3つにカテゴライズされます。
事業のデジタル化は、ビジネスに直結するITであり、当該企業や団体の本業を強化するためのものです。ここでは、IoT/M2Mやセンサーネットワーク、3Dプリンターなどファブリケーションも対象となります。
顧客との関係のデジタル化は、デジタルマーケティングに代表されるマーケティングとITの融合です。顧客接点という見方をするとオムニチャネルやカスタマエクスペリエンスも対象となります。
組織運営や働き方のデジタル化は、"Future of Work"ITと呼ばれ、単に政府が言っている働き方改革にとどまらず、将来の働き方をITによって切り開く取り組みです。ワークスタイル変革は勿論、組織・人材のトライブ(部族)化や意思決定プロセスの変革も対象となります。
非連続イノベーションは、社会・経済のデジタル化であり、シェアリングエコノミーに代表される新たなビジネスが対象となります。デジタルエコシステムや新たなカテゴリープラットフォームが台頭して、ディスラプター(破壊者)となるケースも出てきます。UBERやAirbnbが代表選手です。
(図4.DX実践の主な領域)
多岐に渡る企業内変革
さてこれまで見てきたデジタルビジネスの実践は、言ってみればDXのオモテの顔です。今回特にお伝えしたいのは、DXのウラの顔とも言える環境整備の重要性です。このDXの環境整備も大きく二つに分けられます。まず、イメージしやすいのはIT環境の再整備で既存IT環境およびITプロセスの見直しとシンプル化、再構築を指します。スパゲッティ状態の既存システムを整理整頓・断捨離せずに新しいチャレンジはできません。
そして最も忘れがちなのが企業内変革です。これまで積み重ねて醸成されてきた意識や制度、権限、そして組織や人材をDXを成功裏に進めるためにも変革せねばなりません。特に伝統的な大企業には長年培ってきた企業文化や事業における成功体験があるために変革には大きなエネルギーが必要になり、場合によっては軋轢も生まれるケースもあります。
(図5.多岐に渡る企業内変革)
企業内変革の成熟度
この5つのカテゴリーを成熟度という5段階のレベルで把握することで客観的に他業界や同業他社と比較して把握することが可能となります。既に様々な企業での取り組みをデータとして把握していますが、業界や企業によって取り組みスタンスが異なり、温度差があるところが非常に興味深いところです。さて、あなたの会社の成熟度はどのくらいでしょうか?!
(図6.企業内変革の成熟度)
お客様の視点から見たDX推進アプローチ
このデジタル変革という厄介な避けては通れない取り組みの各ステージを駆け上がっていくために目先の実践だけでなく、DXの環境整備が重要なことを強調してきました。トップの正しい理解と支援がないままデジタル変革は進みません。お金をかけて何かを始めてしまう前にそのツボを押さえた進め方を考えていけば路は自ずと開けて来ると思います。
(図7.お客様の視点から見たDX推進アプローチ)
(つづく)