ポストERP市場について考える
企業向けの人事/ITコンサルティングを生業にしている身として最近特に気になっているのは、2004-5年くらいから頻繁に言われている『ポストERP市場』です。
90年代半ばの世界的なITバブル以降、日本のIT・SI業界を食わせ続けてきたERPのシステムインテグレーションは、現在ではSOX法対応のプロジェクトや中堅市場への導入に移行しつつある。しかし、ERP研究推進フォーラムからは4割の企業が既に導入を完了しているというデータも出ており、ポストERPをめぐるビジネス・ソリューション開発がかなりのSI企業やITコンサルティング会社ではテーマになっていると感じます。
しかし正直数十億から数百億円規模という案件を生み出すERPビジネスを埋めるだけのソリューションなど中々作り出せるものではなく、各社今後どのように業界での生き残りをかけてこのポストERP市場で攻勢にでるのかを最近私は興味をもって眺めています。
オラクルの保科取締役常務執行役員は以前の発言で以下のように述べています。
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オラクルの強みは、最近よく話題にのぼる「ポストERP」という傾向にマッチしていることです。これはオラクルにとって、良い追い風が吹き始めたと思っています。ERPの時代は終わったというのは言い過ぎかもしれませんが、半分くらいは当たっていると思います。
2000年問題の前後にERPのブームがありましたが、この時代にはどの企業も潤沢なIT予算を持っていました。ですから、「ERP導入を考えていますか?」と聞くと、必ず「ハイ」という答えが返ってきました。
しかし、現在、ビジネスプロセスの再構築をERPでやりたいと答える企業はありません。プロセスの最適化は、日本企業のお家芸でもあり、もはや終わったことなのです。現在のキーワードは、基幹系システムの再構築です。
問題は、日本のIT業界全般に言えることですが、日本のITは部門最適化で導入されているということです。そのため、ERPであってもモジュール単位でしか導入されていないのです。部門ごとに徹底的に効率化を図り、コストを下げ、品質を向上していくのは日本のビジネススタイルですから、部門最適化が悪いというわけではありません。
しかし、すべてをその方法でやってきたために、全体としてみるとバラバラなシステム構成になっているのが現状です。データがまったく統合されていないために、トップダウンの意思決定ができない、ビジネスの最適化がしにくい状況になっています。
つまり、情報が分散し、欲しい情報を安全に、いつでも、どこからでも得ることができないという状況になっています。ここにもっとも注目しているのがオラクルです。オラクルでは、分散された情報を1つのデータベースに統合し、その情報をOracle E-Business Suiteから有効に活用することで、新しいビジネスを迅速に立ち上げることができるソリューションを提供しています。
データを中心に、データベースにコア・コンピタンスをもって、システムの全体最適化を提案できるオラクルの優位性が活かせるときが、いよいよ来たと言えるでしょう。プロセスの最適化だけでなく、データの最適化もできる点がオラクルの強みです。
http://www.oracle.co.jp/2shin/no85/o25interview.html より転載
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この文章だけでなく、普段のITニュースや過去の実体験からも、ポストERP市場において、オラクルはDOA(Data Oriented Approach:データ中心アプローチ)の考え方に基づいて、SOAの視点でシステムを全体最適していくことを主力としているのは明らかです。そのためにFusion Applicationがあり、Fusion Middlewareがあるという位置づけでしょう。
SAPはあまりポストERPという言葉を使いたがらないように過去のニュースリリースやインタビューを見ていて思いますが、私の個人的な意見では前述の全体最適の視点はSAPでも同様にもっていることは明らかです。NetWeaverはその為のソリューションであるはずです。
このSOAに基づく全体最適の視点は確かに一つのポストERPビジネスの主軸であることは間違いありませんが、基幹システムのERPへの置き換えというのはERPビジネスの単に延長線上にあるもので、レガシーシステムからERPへのマイグレーションが見せたようなパラダイムシフトではないように思います。
他に世間で言われているようなポストERPに繋がるキーワードをあげてみると、
・RFID ・決済のSOA化 ・日本版SOX対応 ・BI/EPMツール ・CRM/SCMへの拡張 ・ミドルウェア
等がありますが、これらもある意味では全て前述のSOAやERPの延長線上で語られるもののように感じます。
一つパラダイムシフトの可能性があるとすれば以前紹介した企業内サーチソリューションの分野かもしれません。企業の全ての情報を格納されたシステムが何であれ横通しで検索してしまうという考え方は、2000年以降googleによってインターネットの勢力図が大きく塗り替えられたように、企業の情報システムにおけるある種のパラダイムシフトになりうると考えています。しかしこれもソリューション内容は革新的ですが、数百億のビジネスになるかといわれると疑問です。
そして、この問題は突き詰めればITにおけるチープ革命の話とも深く繋がる問題だと感じます。もともとは「半導体性能は一年半で二倍になる」だったムーアの法則の拡大解釈として、よく言われている「あらゆるIT関連製品のコストは、年率三〇%から四〇%で下落していく」というものです。これはERPの分野でも顕著で日本化要件が充実し、モジュールのデフォルト機能が拡張し、様々な会社への導入ノウハウが増えれば増えるほど人月は必要なくなり、SIを含めた全体価格は下落するというスパイラルがおきている。
ITメディア読者はここまで書いてきたような分野の専門家の方が多いと思うので、皆さんのご意見が聞けたらと思っています。皆さんはどう考えていますか?今後SI企業やITコンサルティングのビジネスはどういった方向に進んでいくのか皆さんの意見をお待ちしています。