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人を動かすものは何でしょうか?様々な「座右の銘」から、それを探っていきたいと思っています

東京ディズニーリゾートにおける新しい価格戦略の本当の意図(推測を含む)

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一部の方はご存じですが、私は大の東京ディズニーリゾート(以下 TDR と称します)フリークです。時々間違えられるんですが、ディズニーフリークではありません。TDRが大好きなのです。

しかも普通の楽しみ方はしません。あくまでもビジネスの場として、彼らがゲスト(顧客)に対してどのようなサービスやサービスマネジメントを提供しているか、どういうからくりでゲストの財布の紐を緩めているか、どういう仕組みでわがままなゲストの無限にふくらむ期待をコントロールしているか、という目で学ぶのが大好きです。効率の良い回り方を発見することよりも、ゲストに対する巧みなトリックを見つけるほうが嬉しいです

例えば「連続して30分待たせる」よりも、「15分待たせ、少しイベントを見せてからまた15分待たせる」ほうが、ゲストの待たされた感は緩和できます。TDRには、そこかしこにこうした「ゲストを上手にコントロールする」術が詰まっており、それはエンターテインメント業界以外の人達にも非常に良いお手本になっています。

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さて、2020年12月22日、東京ディズニーリゾートを運営しているオリエンタルランドは、2021 年 3 月 20 日(土)入園分のチケットより東京ディズニーランドおよび東京ディズニーシーに入園するチケットの変動価格制を導入することを決定いたしました。詳細はこちら

このニュースによると、来年3月20日から、次のような価格に変わります。事実上の値上げです。

表1.JPG


「土日・祝日・春休み・ゴールデンウィーク期間などは、1 デーパスポート(大人)の価格は8,700 円を予定しております。」とあります。平日の価格は据え置かれるものの、事実上の値上げです。ちなみに「大人」とは18歳以上、「中人」とは12歳~17歳、小人とは4歳~11歳を指します。

なお、コロナ禍になる前に販売していたシニアパスポート(65歳以上の方が入園できる少し安いパスポート)、アフター6パスポート(午後6時になったら入園できる安いパスポート)、年間パスポートなどは現在取り扱いがありません。

東京ディズニーランドの1デーパスポートは、1983年の開業当時 3,900円でした。その後徐々に値上げを続け、東京ディズニーシーが開業した2001年には5,500円に、その15年後の2016年には7,400円になりました。2019年以後は毎年少しずつ値上げをしています。今回の値上げ発表で、3年連続値上げをしたことになります。

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今回の値上げの最大の特徴は、上記の通り格差課金を導入したことです。格差課金は海外のディズニーランドやユニバーサル・スタジオ・ジャパンなどではすでに導入されている手法です。例えばユニバーサル・スタジオ・ジャパンの大人のチケット(1デイ・スタジオ・パス)の価格は次の通りです。

表2.JPG

区分が東京ディズニーリゾートと異なるので単純な比較はできませんが、大人だと最低料金はユニバーサル・スタジオ・ジャパンのほうが安く、最高料金は東京ディズニーリゾートのほうが安い、ということになりますね。

ここからは私の推測を含みます。

今回の値上げ。500億円もの赤字を少しでも取り戻すため、という見方もあるでしょうが、このコロナ禍の中、しかも GoTo キャンペーンが実質中止となったこのタイミングでの値上げ発表は、単なる「赤字を取り戻す」ためのものとは思えません。単純な値上げは致命的な客離れを招きます。ただでさえ入園制限をしているこの状態で客離れが起きれば、オリエンタルランドの経営は逆に悪化の一途をたどります。今や西の覇者となったユニバーサル・スタジオ・ジャパンがマリオのエリアをオープンさせようかというこの時期に客離れを起こすのはなんとしてでも避けたいはずです。

単純な値上げではなく格差課金を導入したのは、間違いなく需要、つまり入園者数をコントロールすることが目的です。格差課金そのものはコストによって需要をコントロールするための手段のひとつとしてITILでも紹介されています。他の業界でも、例えば「昼間の電気代は高く、夜の電気代は安い」「繁忙期の旅行代金は高く、閑散期は安い」など、様々な方法で実践されています。

2019年、TDRが1デーパスポートの大人価格を 7,500円に値上げした時、ある経営コンサルタントの人(ごめんなさい、名前を失念してしまいました)が

「様々な視点から考えて、1デーパスポートの大人価格の上限は 8,500円である。8,500円までは、深刻な客離れは起きないであろう。しかし、8,500円を超える価格をつけたら、(今のままでは)致命的な客離れが起きるであろう」

と言っていました。

オリエンタルランドがこの経営コンサルタントの意見を聞いたかどうかはわかりません。意見をきかなくても、その道の専門家がロジカルに考えたら同じ結論にたどりついた、という可能性はあり得ます。つまり、客離れが起きるかもしれない分岐点の価格は8,500円であり、今回の格差課金は 分岐点である 8,500円を真ん中に挟んだ 8,200円~8,700円という絶妙な範囲の価格設定にすることにより、意図的な客離れを狙った、と考えれば納得がいくのです。今回の格差課金は平日の集客を伸ばすのが目的ではなく、休日の集客を意図的に減らすのが目的です。ゲストを巧みにコントロールしてきたオリエンタルランドは、集客をも巧みにコントロールしようとしていると考えられるのです。

本当であれば、東京ディズニーランドに新しい「ニューファンタジーランド」をオープンさせたオリエンタルランドにとって、集客をコントロールするなんてのはできれば避けたいはず。千客万来、来るものは拒まず、いらっしゃいいらっしゃい したいはずです。そうも言っていられないのがこのコロナ禍です。何かの間違いで園内からクラスター感染でも出そうものなら、もう TDR は終わります。それは避けたい。しかし、今続けている入園制限(1日の入園者数をパークあたり1万5千人程度に絞る)をいつまでも続けるわけにもいかない。入園制限ではない集客コントロールがしたい。私は、その意志の表れが、今回の格差課金であると思えてなりません。

実際には、オリエンタルランドは以前から格差課金を検討していました。それをこのタイミングでやるというのは、そういう狙いがあるのではないか、と私は勝手に考えています。

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ところで、2019年は毎年30~40回以上 TDR に行っていましたが、2020年は6回しか行けませんでした。2021年はどうなるかな・・・。「サービスとサービスマネジメントを学ぶ勉強会」に参加したい人は、ぜひご一報を。

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