5. ITサービスマネージャ試験(IPA)と ITIL 高度試験
おかげさまで、最近色々な執筆のお仕事を頂戴するようになりました。とはいえ、ほとんどの仕事は共著だったり、Webマガジンのコラムだったりして、ガッツリ1冊まるごと書く、というお仕事はあまりないんですが。
その一方で、書きたい、書きたいと思っていてなかなか書けていないものがあります。それは、情報処理技術者試験(ITサービスマネージャ)と ITIL Imtermediate に代表される ITIL 上位資格試験の違いというか、目指すところの差というか、そんなのです。そこで簡単ではありますが、ここに書いておきますね。
IPAのITサービスマネージャは、試験要綱によると、その対象者は
高度IT 人材として確立した専門分野をもち,情報システム全体について,安定稼働を確保し,障害発生時においては被害の最小化を図るとともに,継続的な改善,品質管理など,安全性と信頼性の高いサービスの提供を行う者
となっています。どちらかというと「IT運用担当者の中で、比較的責任のある立場の人」というイメージが強いです。それは、試験問題にも如実に表れています。
その問題の例を、平成26年秋の午後I問題 問1をものすごく簡略化してご紹介しましょう。
X社は業務拡大に伴い、販売システムを再構築することになった。再構築後の販売システムの構成は図1の通りである。
設問 店舗でインシデントが発生した時に、情報システム部がインシデント再現して確認する場合において、図1の販売システムの問題点を、構成上の観点から60字以内で述べよ。
いかがでしょうか。もちろんこんな問題ばかりではありませんが、極めて現場寄りの問題が出題されることがおわかりになるでしょうか。
さらに、午後IIは論文です。平成26年秋の午後II問題 問2は、こんな問題です。
ITサービスの障害による業務への影響拡大の再発防止について
設問ア あなたが携わったITサービスの概要と、ITサービスの障害による業務への影響が拡大した事例について、800字以内で述べよ。
設問イ 設問アで述べた事例の再発防止策について、業務への影響が拡大した原因の分析の視点及び判明した原因を含め、800字以上1,600字以内で具体的に述べよ。
設問ウ 設問イで述べた再発防止策を実施した後、再発防止を確実にするために行った活動について、工夫した点を含め、600字以上1,200字以内で具体的に述べよ。
論文試験は、正解があってないようなものです。しかし、「何を考え、どう判断し、どのような決断をしたか」ということが論理的にまとまって論述されている必要があります。
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一方、ITIL Intermediate 試験は、どちらかというとITサービスを提供しているプロバイダの、意思決定者向けの試験という意味合いが強いです。90分で8つの問題に解答します。問題はすべて選択式で、4つの選択肢の中から1つを選びます。「90分で8問の選択問題」と考えればものすごく時間が余りそうですが、そうは問屋が。なにせ、4つの選択肢のうちの3つは妥当な解答なんです。ダメダメな解答は1つだけ。ITIL 試験は試験問題が公開されていないので問題を直接お知らせすることはできませんが、例えばこんな問題です。
A社は研修会社であり、経営と財務に関する法人向けの研修を行っています。しかし同じ研修事業でも、経営系の研修のやりかたと財務系の研修のやりかたは異なり、講師や営業担当者もそれぞれ独立して存在しています。A社の上級マネジメント層は、この二重化の状態を打開すべく、まずは社内のITサービスの統一を図ろうとしています。あなたは、そのITサービスの統一に責任のある上級マネージャです。
設問 ITサービスの統合について、最適なアプローチは次のうちどれですか?
- 上級マネジメントと頻繁にミーティングを行い、これはIT部門だけの問題ではなく、全社的な取組みであることを理解してもらい、全面的なサポートを約束してもらう。
- 現時点でのITインフラが統合に耐えるかどうか、可用性やキャパシティ、セキュリティなどに関する要件を確認する。足りない部分は追加の投資が必要であるため、上級マネジメントにかけあって予算申請を行う。
- 上級マネジメントにタイムリーに状況を報告し、キャパシティ管理、ITセキュリティ管理、可用性管理などの各プロセスに対する全面的なサポートを得る。
- 上級マネジメントに、講師や営業担当者は経営系も財務系も抵抗勢力になるであろうことを説明し、これは事業上重要な統合であるるということを上級マネジメントから説得してもらうようにする。また、特にセキュリティは事業側の責任が大きいことを理解してもらい、事業計画に加えてもらう。
こっちは私が勝手に作った問題ですが、だいたいこんな感じです。最適な選択肢を選んだ場合は5点、その次の選択肢を選んだ場合は3点、その次が1点、ダメダメな選択肢は0点です。
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さて、問題の傾向からも、このふたつの試験の目指すところの違いがおわかりになるでしょうか。ちなみに、IPAのITサービスマネージャは、昨年から ITIL よりも JIS Q 20000 を積極的に参照するようになりました。ですから例えば ITIL では「ITサービス継続性管理」と「可用性管理」を分けて考えていますが、ITサービスマネージャ試験では「サービス継続及び可用性管理」として、ひとまとめに扱っています。これも、注意が必要ですね。
時々、「どっちの試験を受けたらいいですか?」と尋ねられることがあります。一概には言えませんが、あなたが現場の担当者であれば ITサービスマネージャ、責任者や意思決定者であれば ITIL 上位試験、のほうがピッタリくるのではないでしょうか。