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「経験学習をOJTに活かす」(松尾睦先生との初コラボのレポート)第一弾

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2013年3月8日(金) 勤務先グローバルナレッジネットワークにおいて、神戸大学大学院松尾睦先生とダイヤモンド社永田正樹さんをお招きしたセミナーを開催しました。 (松尾先生、永田さん、ありがとうございました!!!)

題して「経験学習をOJTに活かす!」です。

松尾先生には40分の講義+70分のワークショップ運営をお願いしました。 なんとも贅沢な構成です。

たくさんの学びが私にもありましたので、振り返りをしつつ、数回に分けてレポートしてまいります。(ご参加くださった皆様には、上司への報告などに、このブログをご活用くださいませ。笑)

さて、松尾睦先生は「経験学習」の研究者として著名な方ですが、今回もまずは「経験学習」の考え方をお話いただきました。

いくつかポイントを整理しますね。

●人の成長は、初心者⇒見習い⇒一人前⇒中堅⇒熟達者という変遷をたどる(Dreyfus(1983年))。 松尾先生が調査してみると、1人前で3年目くらい、中堅で7年目、熟達者となると11年目くらいという認識になる。割合として、「中堅+熟達者」が4-50%。 残り50%ほどが「未熟な社員」。ということは、この「未熟」層を早く成長させ、「中堅比率」を高めることが企業の課題となるだろう。

※ このDreyfusの言うところの「一人前」というのは「とりあえず一人で仕事ができる」という程度の意味です。

●人の成長は「自分自身の直接経験から」が70%、「他者の経験から学ぶ」のが20%、「研修・書籍から」が10%。(Lonbardo & Eichinger(2010)) これらの要素は独立しているわけではなく、つなげていくことが大事。

→ 経験を実りあるものにするために、知識や技能を研修で学ぶということもあるでしょうし、他者から学んだことを自分の経験につなげていくことで実力がよりつく、ということもあるでしょう。互いに関連しあっているのがこの3つの要素ですよね。(田中)

●人の成長は「直接経験」から、その重みは70%!といっても、人によって「同じ経験をしても成長度合いが違う」ことがある。だから、「経験」すれば成長するのではなく、「経験から学ぶ力」が必要なのである。

●「経験学習のサイクル」(Kolb、1984)では、「具体的経験⇒内省(振り返る)⇒持論化(教訓を引き出す)⇒新しい状況への応用(持論・教訓を生かす)」があるが、経験から学ぶ人は、「内省⇒持論化」をきちんと行っている。経験から学ばない人は、経験しっぱなしで、「内省⇒持論化」のプロセスを踏んでいない。

→ 毎日遅刻する人というのは、その電車が恒常的に遅れることに気付き、数本前の電車に乗ればいだけの話なのに、内省⇒持論化(教訓化)をしないので、今日も今日とて「遅刻」するわけ、ですね。(田中)

●松尾先生の研究によると、「経験から学ぶ力」のモデルとしては、以下の3つのキーワードがある。

「ストレッチ(挑戦する力)」(難しいことに取り組む)
「リフレクション(振り返る力)」(何があったか、どうすればよいのかを考える)
「エンジョイメント(楽しむ力)」(達成感ややりがいを持つ)

これらは、互いに関連しあっている。「エンジョイメント」があるから、次の「ストレッチ」につながるし、「ストレッチ」したことを「リフレクション」するから、より上手になったり、早くできるようになったりしていく。

そして、この3つのキーワードの根底にあるべきものが、
「思い」(仕事への思い、何を目指しているのか、何のためにやっているのか)
「つながり」(他者とのつながり)
である。

●思いには2つある。「自分が成長したい、自分の能力を高めたい」という「学習志向」と「他者から認められたい」といった「業績志向」。

→職場で伸びる人は当然ながら「学習志向(成長したい)」が強い傾向にある。

●上記5つの要素がうまく有機的に絡んでいくことで「経験」から「吸収」する力が強くなり、人はより成長していく。

・・・・・・・

なるほど、なるほど。

松尾先生の「かくれ追っかけ」(バーチャル追っかけ)をしてきた私としては、『「経験学習」入門』を熟読していただけでなく、何度も自分なりに考えを深めてきたので、非常に理解しやすく、楽しい講義でした。

受講された方も事前にこの本をお読みになってから来られた方が多く、「本で読んでいたから、より納得したー」「予習しておいたので、理解度がより増した」とおっしゃっていました。

この話で興味深い部分というのは、以下のようなことだと思います。

●人は自分の直接経験からの学びが7割を占めるけれど、それでも、「学ぶ力」次第でどれだけ成長するかは変わるんだよ

●「経験から学ぶ力」には、「今できることだけをするのではなく、できないことに挑戦する」というストレッチが不可欠で、しかも、「経験しっぱなし」ではなく、「きちんと振り返ること」が大事なんだよ。成功したときだって振り返ることは大事だよ

●それだけでは辛くなることもあるから、「エンジョイ」も大切ね。楽しみ、わくわくする感じ、大事だよ

●そして、お仕事にも「自分の思い」って持っているべきなんだよね

●何よりも人との「つながり」がこれらを支援してくれるよ



うん、うん、自分のこれまでを振り返っても、全部、深く納得です。

先生のお話は、後半、「それでは、この経験学習の考え方をOJT担当者側に目を向けるとどうなるのか」という方向に移っていきます。自分の成長ではなく、若手の成長支援をする立場がこの「経験学習」をどう現場のOJTで活かせばよいのか、ということですが、これはまた別のお話。

続く。

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