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人材育成の現場で見聞きしたあれやこれやを徒然なるままに。

『プレイフル・ラーニング』を読んだ:学びはアウトプット! インプットではない。

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もう干支がひと回りするくらい前の話ですが、その頃、研修というのは、「講義、講義、講義」+「ちょっと演習」というスタイルが主流でした。

いや、正確に言うと、「講義」と「演習」のうち、演習の時間をさらに10年前(90年代初頭)と比較すると、格段に伸ばす方向に動いていました。

しかも、その演習では、ただ決められた何かをするだけではなく、答えのない話し合い(何に気付き、何をこれからやっていきたいかなどを共有するもの)にも時間を割くようになってきました。

講義中心だと思っていた受講者は面食らい、「自分の経験を話してください」「何に気付いたか語り合いましょう」「それを実務にどう生かしていくか自分の言葉で伝えてください」などと言われても、そのスタイルに慣れていない方も多く、盛り上がるまでに時間がかかっていたものです。

中には、後日、研修の報告会に出向いた際、「受講者のアンケートには、”講義だけにしてほしい”と書いてあるものもありました。”自分の気づきを話し合って何になるのかわからない”というコメントもありますねぇ」とフィードバックを受けたことも。

そういう時代を経て、ようやくここ5年くらいでしょうか。

「講義は短くていいから、もっと演習を」
「答えが出ないものでいいから、対話を」
「気づきを実務に結び付けるための考えをまとめる時間、じっくりとって」

といった声が受講者や人事の方などからも出てくるように。

ああ、学びのスタイルというのは時と共に変わっていくんだなぁ、とその変化を受け止めています。

IT技術の研修であれば、ある程度、「答えの定まった」ものを形式通りに学ぶスタイルもまだまだOKだと思いますが(いや、もっと違う学びスタイルもあっていいし、開発もされていますが)、ヒューマンスキルのような分野は、より一層、「体験」「振り返り」「気づき」そして「仮説化」「応用」という、「学習のサイクル」を重視したものになっていくことでしょう。

学習者が主体で、学び手が何を感じ、何を得て、実務にどうつないでいくかを考え抜く場が「研修」(というか、”学び”の場)となるのだと思います。講師はあくまでも「ファシリテーター」的な立ち位置でいることも増えるはずです。

ですから、講師に求められるスキルも、講義力(プレゼン力)に加え、ファシリテーション力ということになってくるわけですね。

さて、この本を読んで、「時代はもっともっと進んでいるなあ」とドキドキしてしまいました。新しい学びのスタイルを私たち人材育成に携わる人間は日々追っていかねばならないなぁ、と。

上田信行さんは、以前『プレイフル・シンキング』という本をお出しになって、この本が本当にとてもとても良い本なので、私はあちこちで宣伝しまくって(頼まれてもいないのに)おりましたが、その第2弾というか、続編というか、いや、もっと難しくなって『プレイフル・ラーニング』をお出しになりました。

教育学の歴史を学べるとともに、これからの学びの世界はどうなっていくかを想像するのに楽しい本です。

「学びは楽しいはずじゃないか」だから、「プレイフルにラーン(Learn)」するにはどうしたらいいんだろう?と追い求めてきての一冊。

東京大学の中原淳さんがナビゲーター的に参加されての共著です。

本の後半に、上田信行さん、中原淳さん、金井壽宏さんの鼎談が出てきます。この中で上田さんが、こんな風に語っています。

「学ぶこと」は、「変わること」であり、「変えること」です。

インプットでは世界は変わらない。自分の中だけは変わるかも知れないけれど、世界は変わらない。でも、何か喋れば、発信すれば世の中は変わっていくかも知れない。風向きが変わる。世の中に影響を与えることができるんです。

リフレクション(内省)というと、人の内部で起こることのような感じがしますが、実はアウトプット=リフレクションなんです。自分がどう思ったかを語るということは、語っている自分を俯瞰していないと語れません。

「学びはアウトプット」。そうすることで世界は変わるんです。

そう、自分の中に生まれたものをだれかに表現してみることで、自分の中に起こった何かを整理し、体内に再度取り入れることができる。他者が介在することで、自分の学びも、相手の学びもより深まる

そういうことなんですねー。

冒頭で書いたように「講義だけで」と言われた時代、学びは「インプット」だった(ととらえられていた)けれど、上田さんがおっしゃるように、「アウトプット」ととらえることで、色んなことが変わってきますね。

とても勉強になる本です。そして、読み進めるうちに非常にわくわくわくわくしてきます。

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