若手の育成には「冷静でお節介な他人」が役立つことも多いのです
若手社員の育成に携わっていると、先輩側も一緒になって悩んでしまったり、どう対処してよいかわからず、共にパニくってしまったり、というケースはよく聞きます。
ある企業ではこんなことがありました。
新入社員研修の最中、新入社員たちが何やら相談している。ひそ、ひそひそ。
話がある程度まとまったらしく、人事部の方のところに提案をしに来ました。
「僕たち、毎日、同じ仕出し弁当では飽きてしまい、これでは、研修を受けるモチベーションが上がらないので、もっとおいしいものを食べたいと思って、調べてみました」
「ふむ、それで?」
「ピザの宅配チラシを見てみたのですが、これを注文したら、暖かいピザが食べられるし、食事に変化があるので、またモチベーションが上がるとおもうんです。電話して尋ねたら、このビルにも持ってきてくれるといういますし。」
「お金、どうするの?」
「朝、係りを決めて、集金すればいいと思います」
「研修の昼休みの時間ぴったりに宅配が届くとは限らないでしょ?」
「それは、誰かが一瞬講義を抜けさせてもらって・・・。あとは、人事の方にピザを受け取ってもらうのをお願いするとか・・・」
「(えっ!? 私に受け取れ、と!?)・・・で、第一、ピザばかり頼んでいたら、また飽きるのでは?」
「それはそうですが」
「誰かがかつ丼がいい、カレーがいいと言い出したりして、1日に複数のデリバリを頼むようになったら、どうするの?」
「その時はその時で。とにかく、僕たちは、研修を受けるためのモチベーションを上げたいんです」
「もぉ、何言ってるの?全く・・・」
・・・ってな会話が交わされて、新入社員と人事の方とで攻防戦が繰り広げられていた時、人事の課長がそばを通りかかりました。
「何揉めてんの?」
「課長! 新入社員たちがピザとる、なんて言い出しまして。集金をどうするの?とか、かつ丼食べたいとなったらどうするの?とかいろいろ話しているんですが、どうしたものやら・・・」
「あ、そんな話…」
課長は、陳情に来た新入社員たちに、つかつかつかと歩み寄り、一言、こう言いました。
「あのね、君たち、モチベーションは、食事以外のほかのところで上げなさい」
新入社員たち、ぐうの音も出ず、「はい・・・」と退散したということです。これにて一件落着。
・・・・・
別の企業ではこんなことが。
新入社員のちょっとした操作ミスで本番機に影響が出るというかなり激しいトラブル発生。
ここは、彼にちゃんと対処させないとと思いつつも、トラブルの影響を考えたら、どうしよう?どうしよう? とOJT担当の先輩までハゲシく動揺し始めて。もちろん、新入社員も顔面蒼白。茫然としています。
・・・二人でなんだか落ち着かず、右往左往。落ち着け、自分たち!と思うものの、焦って焦ってなかなかきちんと順序立てて対処ができません。
そんな時、隣の部署のエンジニアが近づいてきて、「どーしたの?」
「かくかくしかじかで焦っているんです。落ち着いて対処しなければいけないのに」
「ほぉ・・・。」と言った隣の部署のエンジニアは、つつつーっと新入社員に近づき、こう一言つぶやいたそうです。
「こういう時にエンジニアってのは、一番伸びるんだよなあ・・・」。非常にのどかな声で、のんびりとそう言いました。
それを聴いて、OJT担当の先輩も新入社員もすーっと気持ちが落ち着き、「そうだ。一つひとつ順番にやっていけばよいのだ」と思えるようになったとか。
無事トラブルは、ほぼ新入社員自身の手で収束させることができたそうです。(もちろん、OJT担当である先輩もサポートはしたわけですが)
「君たち、モチベーションは食べ物以外で上げなさい」と一喝した課長も、「こーゆうときに一番伸びるんだよなぁ」とのんびり言ってくれた隣の部署の先輩も、渦中の人ではない分、冷静に状況をとらえることができたのですね。
そして、渦中の人ではない分、いい意味で「ひとごと」としてぼそっとコメントできた。
でも、その一言が、渦中の人には、我に返る気付け薬のように効いたわけです。
だから、人を育てる時に、「お節介な他人」って必要なんですね。冷静な他人、お節介なこという他人。(これ、実は難しくて、「余計なお世話かな」と周囲は躊躇するんですよね)
核家族の子育てよりも、地域で子育てができたらいいね・・・というのと同じように、若手育成も直接指導にあたる先輩だけではなく、周囲の大勢が関わっていく(強弱、濃度の違いはあれど)ことが若手の成長にも、OJT担当の成長にも寄与するんじゃないかと思います。