IT企業に「ブランディング」は必要か?
私は、昨年IT企業のブランディングの支援をしました。その時の経験から「IT企業にブランディングは必要か?」を書いてみたいと思います。
ますその前に、組織のブランディングとは何か、はどんなことをするのか、について書いておきたいと思います。私は、今まで主にサービス業の企業数社に同様な手法でブランディング(当時はビジョン策定、または戦略策定と呼ばれていた)を行ってきました。
まず「ブランディング」とは
「何を(ブランド)」
「誰に」
感じてもらうか
を明確にすることです。
まず、「何を(ブランド)」という点ですが、以下のように定義されています。
「社内外に向けて発信する「当社はこのような会社です」といった自己表明(らしさ)」
その構成要素の例としては
理念としての存在意義
ビジョンという目指す未来
創業から今日までのコーポレートストーリー
行動指針、社是、社風、価値
などがあります。
(出典:ブランドファースト 木村裕紀 日経BP社)
「誰に」という点ですが、基本的に企業に対するブランディングは以下の3つのステークホルダーに向けて検討していきます。
株主
顧客
社員
その中で、最も重要なのは「市場」、すなわち「顧客」ですので、ブランディングのアプローチも「マーケティングのプロセス」をベースにした方法論となっています。
今回のIT企業向けにもまずは、こちらの標準的な論理立てでブランディング検討していきました。
1. 事前準備(ヒアリング/アンケートなど)
2. 内部分析(強み/弱み)
3. 動向(機会/脅威)分析
4. 業界分析、競合分析、現在のポジショニング理解
5. 顧客分析
6. 市場セグメンテーション
7. 顧客ターゲティング
8. ポジショニング
9. ブランドアイデンティティ
10. 行動規範/価値観
ざっとこのような流れです。結構たくさんステップがあると思われたのではないでしょうか。このステップで、企業の中核メンバーを集めたワークショップを必要な回数行っていきます。
ワークショップ参加者は、自社や自社をとりまく環境について理解したうえで狙うべき市場や顧客を整理していき、最終的に何が自社のブランディング(自社らしさ)なのかを探しいくジャーニーに参加します。
<詳細なプロセスが知りたい方は私にご連絡ください。個別にお伝えします。>
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ここでは、その検討の中で、私が感じた「IT企業にブランディングを必要か」というテーマを書かせていただきます。
1. 市場で差別化できない
環境分析や競合分析をしていて、感じたのですが、日本IT企業(私の別のブログ「ITプロマッチへの道」で言うところの下請け多重構造に属している企業)はほとんどの企業が同一の市場に対して、同一のサービスで戦っています。特にアプリケーションシステムの開発•運用という最も大きなマーケットでは、大手Sierでさえも差別化ができていません。ましてや、その下位で仕事をしている中堅や中小のIT企業は差別化できる要因が限りなく少ないのです。
つまり全国1万社近くあるIT企業はやっていることはほとんど同じなのです。
それは何故か、というと大抵のIT企業の経営戦略は、とにかくお客様が必要とするシステムを作る、ということがビジネスの基本にあります。従って、なまじ業界や分野を絞るよりは、全方位で業界、業種、業務、システムを営業していった方が効率が良いのです。
もちろん例外はいくつかあります。例えば金融業界は業界、業務の知識、ノウハウが他業界よりも必要であるため、他からの新規参入は若干難しいとされています。しかしこれが当てはまるのはシステムの上流コンサルだけです。
システム投資の規模の大きい金融業界のシステム開発案件には大手から中小のIT企業が無数に群がっています。
またもう一つの要因としては、IT業界特有の下請け多重ピラミッド構造です。中堅のIT企業は直接ユーザー企業から受注する案件よりも、より、上位や同業のIT企業から要員が足りないとして、手配する仕事の方が多いのです。従って「戦略が絞れない全方位型」となります。
またさらには、その契約形態にも問題があります。上位、同業のIT企業からの案件は、SES契約と言って、エンジニアごとに契約する準委任契約が主流です。これはシステムを丸ごとの受注する受託契約に比べて、「人売り」の傾向が強くなります。また場合によっては派遣契約となる場合もあります。
こうした準委任、派遣のビジネスが多いIT企業の場合には経営戦略を差別化することが困難となります。
2. 技術力で差別化できない
正攻法で考えれば、大手だろうと、中堅、中小だろうとIT企業であれば技術力で差別化する、ブランディングする、というのが理想です。
大手の場合、これも「猫も杓子も的」ですが、ビッグデータ、セキュリティ、IOTなどの技術力、提案力で差別化しようとしています。(ただしどこもやっているので結果的にあまり差別化できていない)
中堅、中小の企業の場合は、投資余力も少ないため技術力で差別化することは非常に難しいと言えます。
また規模の小さな企業の場合、どうしても技術力が個人のスキルに依存してしまうため、そのエンジニアが退社したらその技術も失われてしまいます。また逆に新しく中途で入社したエンジニアが持つスキルが新たな技術力となります。したがってこのような人材に依存した技術力を戦略的にキープすることが非常に困難です。
3. 営業で差別化できない
次に顧客に対する営業で差別化できないか考えます。
中堅、中小のIT企業が上位の大手Sier、または同業のIT企業から仕事を受注しているのであれば、これも非常に難しいといえます。
何故かというとここで言う営業力は、相手のプロジェクトにいかに自分の(会社の)持っているエンジニアをはめることができるかという、シンプルなロジックであるため、一営業マンの営業スキルや営業スタイルで差別化は困難です。逆に言えば、ある程度フットワークが良い人材であれば誰でもIT企業の営業は務まると言えます。
ここで唯一言える営業力としては、「プロジェクト案件とエンジニアの情報」をたくさん持っていることがあげられますが、あまり差別化要素になりません。
大手Sierやコンサルティング会社であれば、ユーザー企業に直接、業務知識を持った営業員が営業に行くことが強みにつながります。
中堅、中小のIT企業の場合も、営業面で差別化するのであれば、ユーザー企業に営業に行くべきです。
しかし、先ほど言ったように、案件をたくさんもっている大手Sierや同業IT企業に営業したほうが効率良く仕事がとれるので、こちらも実際に行い、強みとするにはハードルが高いようです。
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それではIT企業はどのような場合にブランディングが有効かをこの後考えていきたいと思います。
4. 新たな事業をベースにブランディングする
現状のIT業界の中での中堅、中小IT企業のビジネスは「ブランディングは難しい」と言えます。従って、ブランディングを効果的に行うためには、IT企業は、既存のアプリケーション開発等への要員補充というビジネスではなく、もっと新しい事業や新しいサービスを打ち出す事が必要です。
比較的実現のハードルが低いと思われるものが、自社の実績経験を活かしたアプリケーションパッケージの開発、販売です。また最近ではそのパッケージを使って、利用型のクラウドビジネスを始めることも可能です。
新たなパッケージシステム、クラウドサービスの販売促進の場合には、どちらにしてもマーケティング、ブランディングが必要となるため、こちらと合わせて企業のブランディングもそちらの方向に打ち出していくのが良いと思います。
5. 親会社のグループ戦略を軸にブランディング
私がお手伝いした企業もこちらの部類に入りますが、日本国内にはたくさんのユーザー企業のIT子会社があります。こうした会社では収益のほとんどは親会社のIT投資、システム運用でまかなっていると思われます。
親会社のビジネスには必ずコアコンピタンスがあるはずです。例えば自動車、電機、金融などの戦うべき業界が明確です。そうであれば、こうしたIT子会社はより、親会社のIT戦略に領域まで踏み込んで、親会社の事業戦略、グループ戦略における攻めのITビジネスを企画する事で差別化することができます。
これを実行するときには、親会社のIT部門との力関係や組織融合などハードルが高い場合がありますが、IT小会社のブランディングや差別化を考える場合、最も効果の高い方向性であります。
6. 社員向けのインターナルブランディング
日経コンピュータに就職希望者向けの以下のブランディング要素が書かれていました。
<会社の魅力として>
技術力(がありそう)
安定(してそう)
成長(が高そう)
経営者、ビジョン(に共感できる)
製品•サービス内容(がわかりやすい)
<仕事の魅力として>
社会に役立つ仕事(ができそう)
ITなどの専門スキル(が身に付きそう)
実力があれば若いうちから活躍(できそう)
欧米や新興国などの海外で(働けそう)
技術職や営業職(などの業務の幅が広がりそう)
<雇用の魅力>
社風•居心地(が良さそう)
教育研修に熱心(そう)
福利厚生がしっかりして(いそう)
年収が高(そう)
雇用を守り(そう)
このインターナルブランディングとしては、実際に実施していることをアピールすることと合わせて、今後、会社の方向性としてそうしたことを良くするために努力しているということも重要アピール要素となります。
特に中堅、中小のIT企業の場合、エンジニアの勤続年数が比較的短いことから、こうした社員、特にエンジニア向けのインターナルブランディングを行う事が重要であると考えます。
これはIT業界特有の状況ですが、エンジニアという職種の場合は、一つの会社への定着率が他業界よりも格段に低く、転職するケースが多いことから、IT企業としても、「転職市場向けに、魅力のあるブランディングをする」という戦略もあるかと思います。それは本質的な「マーケットへのブランディング」とは異なりますが、「社員」というステークホルダーに対する限られたブランディングとして効果はあると思います。
7. 上流コンサル化に向けてのブランディング
以前、私がお手伝いをしていた中堅IT会社で「IT会社からコンサルティング会社に変わる」というブランディングして成功した例があります。
IT会社からコンサルティング会社になって、良い事は何かというと、社員の平均単価が上がり、会社の売上アップにつながるということです。
ただ、そのためには、ITコンサルタントとして活躍する人材を転職市場から採用してそのコンサルティング会社の代表(顔)として位置づける事が必要です。
さらにそうした外部からの優秀なコンサルタントの指導により、既存のエンジニア社員もITコンサルタントにスキルアップしていくことを狙います。
短期的にはITコンサルタント採用により、人材投資が必要です。ITコンサルタントを採用するためには、一人あたりエンジニアの倍程度の人件費が必要となります。
またそうした新規の人材と既存の人材が上手く融合してスキルアップする仕掛けを作る事も重要です。
ただ多少時間がかかるかもしれませんが、このブランディング方法はIT業界では有効な方法の一つではあります。
8. 結論
結論としては
既存のIT開発ビジネスを行っているIT企業の場合、「ブランディングは必要ありません!」
ただし、そのIT企業が、新規サービスを始めたり、親会社のIT戦略を考えたり、上流コンサルにスキルアップする、会社のインターナルな雰囲気を変えたい、などの
何か大きな変化を起こしたいと考えるときに「ブランディングは必要です!」
是非、あなたの会社が「ブランディングが必要かどうか」考えてみてください。
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