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「SI一括請負」の功罪とその弊害〜ITプロマッチへの道(その9)

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「ITプロマッチへの道」シリーズの第9回目です。

この回では、IT業界の「下請け多重構造」と表裏一体の関係にある「SI一括請負」の功罪について書いてみたいと思います。

「SI一括請負」とは、ITシステムの開発契約で最も多い契約形態で、発注元のユーザー企業と受注先の大手Sierとの間で交わされるオールインワンの契約です。一般には要件定義や基本設計から開発導入までのハードウェア、アプリケーション等に関わる費用を全部含んで、いくら、というものです。
(厳密には要件定義、研修、ユーザーテスト等は別契約となることも多いですが)

ユーザー企業にとって、この「SI一括請負」契約は非常にメリットがあります。それは社内で、予算処置がしやすいから、です。

基本的には当初決めた、システム構築の総額予算を社内で確保して、瑕疵担保責任よって、そのシステムの稼働責任や品質をSierに担保できるからです。

ここで、重要なことは、この「SI一括請負」契約の総額はどのように決まるのか、ということです。

現在、最も一般的には「人月」です!

以前の「ITプロマッチへの道」の回で、「労働集約型産業」の最大の功罪であるとした「人月」及び「人月単価」がここでもでてくるのです!!!

ユーザー企業は、通常大手Sierから提示された「人月」を信じ、そこに「人月単価」を掛けた金額をシステム構築の総額とします。

しかし、問題はこの上流の段階(例えば要件定義の前、基本設計の前)では正確な人月は誰も見積もれない、ということです。そして何故かこの段階で見積もる人月は大抵、過小見積(実際よりも小さく)となるのです。

その後の、典型的な失敗例では、度重なるユーザーとの要件確認により、当初の段階で見積もられた「人月」の数倍の規模のプロジェクト費用が膨らむが、既に締結された「一括請負契約」において費用の追加は認められずに、プロジェクトは継続されます。するとプロジェクトを実行する下請け多重構造チームは下流にいくほど、増えた仕事を少ない人員で行わなければいかなくなり、デスマーチとなります。

というシナリオがよくある失敗例です。

ただ大手Sierも馬鹿ではないので、そのような事態を見越して、最初の「一括請負契約」を定める「人月」に、そうし膨らむであろう人月をリスク分として大きく積んで提案します。

これがユーザー企業が、システムを刷新しようと大手Sierに提案を求めると法外な高値の人月見積、提案がでてくる理由なのです。

こうした高値の予防手段を行わなければ、多くの定額での「一括請負契約」なんてとてもできない、のが実状だからです。

しかし話はそこで終わりません。ユーザー企業も、高値で提案してくる大手Sierへの対応として、今度は複数の大手Sierを競わせることを行います。(特に購買部などがこうした余計な助言をすることがよくあります) 

すると新たな付加価値もなく、価格勝負となり、大手Sierは、今度は採算をとるために下請けの単価を下げさせます。下請け多重構造の中の企業は、そのコスト圧力を受けて、末端の技術者の所得はさらに安くなっていきます。


この一連の同じような構図が下請け多重構造の「大いなる不幸」を生んでいるのです!!

改めて言うと「一括請負契約」と「下請け多重構造」は表裏一体のものです。

ですから「下請け多重構造」をなくすには「一括請負契約」も改める必要があるのです!!

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今行われている多くのSIは、ユーザー企業が「一括請負契約」により、大手Sierに開発業務を丸投げし、大手Sierはそれをコストの低い「下請け多重構造」に丸投げする、というシステムでした(大雑把ですが)。

しかしながら、これからのITのパラダイムシフトを考えると

ユーザー企業は、SIを丸投げせずに、自らの責任のもとに、自らの体制を持って、新技術や新サービスを使った「新しいSI」を行っていくべきです!!

つまり今はやりのキーワードでいくならば、

「クラウドサービス」を利用するのもマネージするのも自分
「ビッグデータ」を構築するのも分析するのも自分
「IOT」を構築するのも利用するのも自分
「モバイルやSNSを利用したシステム」を構築するのも利用するのも自分

であるべきです!!

そもそもシステム開発のマネージメントを大手Sierに丸投げする、という発想がおかしいのです。自社のシステムであれば、マネージメント責任、それは仮に開発失敗のリスクであっても自社でもつべきなのです。

それを今迄は「一括請負契約」と「瑕疵担保責任」のもとに大手Sierにマネージメントそのものや、失敗するリスクをも「丸投げ」してきました。

でもそれは本来おかしなことなのです。

もう大手Sierに提案から丸投げする時代は終わりました!!

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今、出現しているクラウドや新技術はいづれも、ユーザー企業自身のビジネスを直接差別化していくものです。その意味で従来型のIT部門の役割も変わっていきます。ユーザーは自らITサービスを企画して構築する必要がでてきました。

そのためにはユーザー企業自身のIT力を高めていく必要があります。ユーザー企業のIT力は機器やソフトではありません。人材です!!。

ユーザー企業は、自社の社員としてより多くのIT技術者を直接持つべきです。それは社員でなくても良いと思います。

外部のプロフェッショナル(IT技術者)に自社のIT力を「委任」するのです。

つまり、これからの企業のITは基本自社の社員で行い、足りない部分を外から補充するという発想となります。

そこでの契約は、システムの開発そのものを「委託」するのではなく、システム開発のために自社社員の業務を「委任」するのです。


つまり「一括請負」ではなく「個別委任」とすることが解決策であると考えています。


(次回に続きます。)

(参考文献:SEは死滅する 木村岳史著 
(参考文献:システムインテグレーション崩壊 斎藤昌義著)
(参考記事:日経コンピュータ 2015.2.5号)

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