クラウドの急速な進展がIT業界の多重構造を破壊する!〜ITプロマッチへの道(その5)
「ITプロマッチへの道」の第5回目になります。
ここまで「ITプロマッチへの道」の連載を4回書いてきましたが、この労働集約型の下請け多重構造は、そこで働いているIT技術者にとって「百害あって一利なしの劣悪なシステム」であること、そして業界全体にとってもこの日本特有の大手Sierを頂点とした「巨大なブラックボックスシステム」が本当にこのままで良いのか疑問である、ということを強調してきました。
この労働集約型システムは、旧来型の考え方を持つ日本のIT企業の特に経営者には、金のなる木だったのかもしれません(少なくとも好況時は)。ですから既得権を持つ方としてはこれを温存させたいと思うでしょう。
でも、もうそうはいかないのです。国内のIT業界をとりまく環境がかなり速い速度で変化してきています。変わらなければIT業界のほとんどが死んでしまうかもしれないのです。
まさに CHANGE OR DIE です。
本回ではそうした急速な変化をお伝えしたいと思います。
「クラウドの急速な進展がIT業界の多重構造を破壊する!」
近年、IaaS,PaaS,SaaSのようなクラウドサービスが大変な勢いで伸びています。
大手ではアマゾンウェブサービス(AWS)、マイクロソフトのAzure、オフィス365、セールスフォースのSales cloud,グーグルのGoogle appsなどがあります。またSAPやオラクルのような大手ERPベンダーも、自社の製品を売るのではなく、自社のクラウドサービスを使ってもらうスタイルに180度シフトしています。
平成26年版の情報白書によると国内の3割以上の企業がクラウドサービスを利用しているという結果となっています。
例えばユーザー企業で新規にシステムを検討する際に、当初からITインフラをAWS、MSのようなクラウドサービス利用を普通に検討しています。
またアプリケーションについてもCRM系のシステムやメール系のシステムであれば、SFDCやグーグルのサービスをまず検討することは普通ですね。そして先ほど書いたSAPやオラクルのクラウドサービスも出て来ており、ユーザー企業にとって、オンプレミスで自社でサーバーを構えてシステムを作る事はもう時代遅れになってしまいました。
つまり、多くのユーザー企業にとって、システム構築が
「大手Sierにシステム開発を発注するものから、クラウドベンダーのサービスを選択して利用するもの」
にパラダイムが変わってしまったのです!
このようなクラウド時代に、国内IT業界の多重下請け構造はどのような影響を受けるのでしょうか。
インフラのクラウドでは、まず顧客がAWSやMSなどの外部のIaaSやPaaSを選択することで、元請けSierがSI一括契約をする際にサーバー、ストレージなどのインフラ部分の売上が全くあがらなくなります!
また仮にクラウドサービスを自社の一括請負の中に含めたとしても、今迄のハードウェアなどの売上からクラウドサービスの売上となると2桁以上の大幅な減少(クラウドサービスなのでしかも月額支払)となるはずです。
この発注価格の下落はハードソフト一括発注で利ざやを生んでいた元請け企業を直撃し、その悪影響、しわ寄せが必ず下請け企業に来る事は確実です。
またSFDCやグーグルなどのサービスのようなアプリケーションクラウドをそのまま利用した場合、作り込みが少ないため、下請けに発注する仕事は極力なくなるでしょう。
以上のようにクラウドは、多重下請け構造システムでは逆風となることは確実です。
そもそも下請け多重構造は「工数」をベースとして成り立っている為、クラウドを利用して「安く早く」システムを構築したい、というユーザー企業のニーズに全く合っていないのです。
今迄IT業界の下請け多重構造に組み込まれていた中小のIT企業はもう、大手からまとまった仕事は来なくなります。もう下請け多重構造にいても死を待つのみです。
中小のIT企業は自らが逆転の発想で、これを機にクラウドサービスを利用して多重下請けを抜け出すことを考えた方が良さそうです。
例えば、最近のユーザー企業では、クラウドを使う事で「安く、早く」システムを作る事が求められています。中小の企業でも、クラウドサービスを利用することで小規模、短期間、低価格(大手に比べて)の案件が提案できるかもしれません。
逆にユーザー企業にクラウドの活用を促して、今迄のような大手Sier丸投げではなく、ユーザー企業がリーダーシップをとり、仕様検討、システム構築を「早く安く」できるような体制を提案してみたらいかがでしょうか。
そういう「クラウド活用エンジニア」のような人材が今後は益々必要になってきます。
そうしたこれからのIT技術者を育てて、ユーザー企業に直接、クラウド前提のシステムを構築支援するのです。
今迄のような多重構造の中での、責任のない立場とは違うため、こうした直接提案をユーザー企業に行うことは、チャレンジングではあります。
しかしIT企業、IT業界の未来を考えれば今こそやるべきです!!
クラウドは価格破壊だけでなく「下請け多重破壊」をもたらす起爆剤となるのです!!
またユーザー企業にとっても、今迄のような大手Sierでしか受けられないような高額なプロジェクトではなく、クラウドサービスを使って低予算のプロジェクトを起案することにより、中小の優秀なIT企業やIT技術者を発掘できるチャンスとなります。
クラウドの進展は、IT業界を「規模の経済」から「個のイノベーション」へ変えていく大きな流れなのです!!
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