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ファストマーケティングを定義する

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■ ファストマーケティング企業はB2B
ファストマーケティングとは、B2Bの考え方であり、クライアントは企業だ。
クライアントは、時代に合ったマーケティングやプロモーションをしたいと考える。そのクライアントに最適な、トレンドに即してキャッチーなマーケティングテクノロジーと その利用方法を戦略・戦術として提案するのがファストマーケティング企業だ。つまりファストファッションの売り物はハイファッションにひもづいたライフスタイルであり、ファストマーケティングの売り物は、最新のテクノロジーやプロモーション手法にひもづいたマーケティング戦略なのである。

■ ファストファッションとの違い
まず、ファストファッションとはなにか。
日本のファストファッション企業として有名なファーストリテイリングによれば、
『ファストとは、「速い」という意味であり、ファスト・フード(fast food)が「早く、安く、手軽な」食事であるように、ファスト・ファッションとは、「流行の最先端をいち早く取り入れた、低価格で、ほどよい品質」のファッション』とある。

さらに、同社はファストファッションの意義を、以下のように説明している。
『「従来は、流行の先端をいくファッションは、高価格で限られた人だけが購入できるもので、時間の経過と共にデザインが普及して安価で大量に提供され、多くの人が手にするようになるという図式が、これまでのファッション業界の常識」であり「その常識を覆したファスト・ファッションは、最新のトレンドが低価格で入手でき、新しいファッションに気軽に挑戦できる」』

この定義に合わせて言えば、僕たちにとってのファストマーケティングとは、「流行の最先端をいち早く取り入れた、低価格で、ほどよい品質のマーケティング」となる。つまり、ファストマーケティングは、自分たちに最適化されたマーケティング戦略・戦術を探している企業に対して、トレンドに即した、キャッチーなマーケティング戦略を提案することを意味している。特定のマーケティング手法そのものを指しているわけではないのだ。そうではなくて、時代の流行に合ったマーケティング手法を、その時々に応じてリーズナブルな金額で提供することを、ファストマーケティングと呼んでいる。

分かりやすく言えばファストファッション型マーケティングを提案すること、と言うべきだったかもしれない。
高価格・高品質・高デザイン性の「商品」を提供する企業、もしくは低価格・低品質・低デザイン性の「商品」を提供する企業はどんな業界にもいる。そのアンチテーゼとして低価格・高品質・高デザイン性の「商品」を提供するというのがファストファッション型のコンセプトだ。
「商品」が外食であればファストフード、ファッションであればファストファッション、家電であればファスト家電、マーケティング手法であればファストマーケティング、となる。

いまやサムスンはファスト家電メーカーと言ってよく、ソニーもシャープもパナソニックも、サムスンの高品質・低価格に太刀打ちできないのが今の状態だ。
PCやスマートフォンなどのコンピューティング業界で言えばデルは低価格・高品質ではあったが低デザインであったため失速し、そしていまハイファッションをとりいれることで復活しようと試みている。Appleは高価格・高品質・高デザイン性のラグジュアリーブランドだといってよく、ファストファッション型の競合相手が出てくるかどうかが今後の焦点だろう。
ともかく、ファストファッション型の「商品」カテゴリーの、マーケティング(広告・広報・SP・商品開発など)版がファストマーケティングだと捉えてほしい。


■ ファストマーケティングはマーケティング手法そのものをクライアントに提供する
だから、2010年の1-2Q(4-9月)現在であれば、Twitterをメインとした、いわゆるソーシャルメディアマーケティングがキャッチーであると言えるし、Ustreamを使った動画中継などの手法をうまく組み合わせていくことがトレンドであるといっていい。来年には同じソーシャルメディアマーケティングを提案するにもFacebookやFoursquareを意識した内容になっているかもしれない。
だから、Grouponのような一日一品のタイムセール的なECはビジネスモデルであり、フラッシュマーケティングと呼ばれていることは知っているが、それ自体を僕たちはファストマーケティングとは言わない。むしろ、Grouponクローンを簡単に作ることができるプラットフォームを、いち早くASPで提供しているDadatのような企業はファストマーケティング企業の有力候補の一つである、と言える。

つまり、ファストマーケティングとはB2Bの考え方だ。
企業がクライアントであり、クライアントに、「今最適な、マーケティング戦略・戦術を提供」する。トレンドが変われば、それに合わせて新しい戦略を提案できる企業こそがファストマーケティング企業である。

■ 従来の代理店との違い

もちろん、従来の総合代理店や、小規模のクリエイティブブティックも、同じように旬のマーケティング戦略を提案してきたといえる。それは間違いない。

しかし、ファストファッションと、ラグジュアリーファッション企業および従来型の低価格専門の小売業者との違いを見れば、その差が明確になる。
ラグジュアリーブランドとファストファッションの違いはその価格だ。Tシャツひとつでも、ラグジュアリーブランドで買えば数万円するものが、ファストファッションでは数千円、へたすれば数百円で買えるときもある。もちろん品質に多少の違いがあることはあるかもしれないが、その差は価格差が示すほどのものではない。同時に、ファッション性ではファストファッションはラグジュアリーファッションのトレンドをフォローしており、見栄えだけ見ればほとんど差がない。つまり、ファストファッションは、ラグジュアリーファッションと同等のハイファッションを低価格で提供している。
低価格専門の小売業者との違いは逆に、そのハイファッションの保証の有無にある。同じような低価格帯にありながら、H&Mやアバクロらは明らかにブランド性が高い。これが若者が群がる理由だ。

つまり、ファストマーケティング企業と従来の代理店の違いは、価格にある。ファストマーケティング企業は総合代理店と同じ品質をもつマーケティング手法を低価格で提案できなくてはならない。同時に、小規模のクリエイティブブティックにはできない品質と仕組みを提案できなくてはならないのだ。

要するにファストマーケティングとは、従来の広告代理店やPR会社に対する一種のアンチテーゼだ。

大手広告代理店の顧客は大企業中心になるだろう。
小規模のクリエイティブブティックの顧客は中小企業中心になるだろう。
ファストマーケティング企業の顧客は、その双方に分布するだろう。

ファストファッションの顧客は主に十代の若者だが、中高年にも客層があり、富裕層やファッションリーダー的な芸能人にもファンが多い。同じように、ファストマーケティング企業の提案を採用するクライアントもまたハイブリッドになるはずだ。

■ 速い開発力を持ったテクノロジー企業がファストマーケティング企業候補
ファストファッションを実現するには、トレンドをいち早くキャッチするトレンドセッターとしてのセンスと、それらの流行を型紙に落とし込む、速い製造工程が必要だ。さらに多品種少量生産を徹底して、常に売り切ることが重要になる。ハイファッションとリーズナブルプライスを両立するのは非常に難しい。

同じように、ファストマーケティングを(一過性でなく恒常的に)実現するには、マーケティングの在り方を常にウォッチして、それらをパッケージ化していち早く提案するための開発体制がなくてはならない。また、作った開発物をプラットフォームとしてSaaSで提供できるようにしなければ、低価格を担保できない。
つまり、ファストマーケティングには、非常に速く新しいマーケティングテクノロジーを取り入れて製品化していくエンジニアリングチームとクリエイティブチームが不可欠であるといっていいのである。
 
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