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モバイルシフトとソーシャル化によって変化するネットの世界を、読者と一緒に探検するBlogです。

The 1st entry - Ajaxにみる、実践的なメソッドの効用

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皆様、初めまして。
ITmediaオルタナティブブログ事務局のご厚意により、本日からこの場所でBlogを書かせていただけることになりました小川です。
これまでにも自分自身のパーソナルなBlogや、本業に直結したオフィシャルなBlogを書き続けてきましたが、より多くの読者の目に触れるチャンスを得られたことは、情報の発信者としては比類なき幸せなことであり、光栄に思っています。こうした機会をいただけた人間の責務として、週に最低でも2回以上のエントリーを自らに課していきますので、どうぞ宜しくお願いいたします。

自己紹介・・・・


今年(2005年)2月に、自身もブロガーとして活躍されている>マーケティングカンパニーのカレンの四家さんを含む3人で『ビジネスブログブック』という本を出版したのですが、それが僕に大きな転機をもたらすことになりました。同書はいわゆるビジネスブログを企業向けに書き上げた日本で最初の本であり、エポッキメイキングな一冊になったと自負しています。個人的にも、この出版を機に、様々な講演や雑誌、Webサイトへの寄稿のチャンスをいただくようになったし、個人的に取材を受けることが多くなったのです。このITmediaオルタナティブブログでのチャンスも、そうした流れでいただいたものと思っています。

さて。
僕は現在、サイボウズ株式会社というWeb型グループウェアで知られるベンチャー(とは言っても既に東証二部にリストされる上場企業ですが)に席を置かせていただいています。創業者の一人であり現CEOの青野さんと昨年末にあるきっかけで出会い、その後何度かお会いするうちに彼の持つ熱意とヴィジョンに共感して、いつの間にか前職を辞すことになってしまいました。大まじめで世界一を口にする人は、なかなかいませんから(笑)。
Blogは人と人、知識と知識を結びつける素晴らしいコミュニケーションツールですが、それは機会の創出に過ぎず、本当のコミュニケーションとはやはり人物そのものとふれあうことです。ヴァーチャルで全てが分かると思うのは幻想に過ぎないと思います。僕は青野さんの夢に乗ることにより、自己実現を目指す途を選択したわけです。

その方向性を、近々皆様にご紹介させていただくことになりますが、ここではそれに直接は触れず、インターネットビジネスにおいて最近僕が考えている一つのメソッドについて述べたいと思います。

Ajax - 組み合わせの妙


僕は最近流行のAjaxという技術にはとても興味があります。Ajaxとは、Asynchronous JavaScript(非同期JavaScript) + XMLの略称で、ブラウザ上で非常にリッチなインターフェイスを提供するための技術のことで、命名者はAdaptive pathというWebコンサル会社です。Ajaxとして知られる前は、JavaScriptとCSS(カスケードスタイルシート)の組み合わせであるDHTML(ダイナミックHTML)が、同様の技術として割と昔から知られていますが、ブラウザ依存が強く、クロスブラウジング、つまり異なるブラウザでも問題なく動作させることが難しいうえ、作り込みが面倒なので、これまではあまり使われていませんでした。技術というよりも組み合わせというか手法(メソッド)であり、手間のかかる作業ゆえに敬遠されてきたわけです。

ブラウザだけで使えるアプリケーションをWebアプリ、と簡単に言ったりします。皆さんがよく使うYahoo!も当然検索エンジンというWebアプリですし、ホットメール等のWebメールも、その名の通りWebアプリの一種です。(ちなみにサイボウズのグループウェアも全てWebアプリです。)
このWebアプリは、ブラウザがあれば使える手軽さがあるのですが、クライアントソフトと比べるとインターフェイスに制限が多く、いちいち画面全体をリフレッシュしないと使えなかったりして、どうしても遅い、もたもたするという印象があります。Webサイトでリッチな操作感を実現する方法としてFlashを使う企業が多かったのはそのためです。しかし、FlashはSEO/SEM的には検索エンジンにヒットされづらいという問題があり、(逆に検索性がいいサイトとして)Blogが台頭してきたこともあり、もっと他にいい方法がないかという論議がよく行われるようになっていました。

そんなおりに、Googleが発表したGmailがJavaScriptを多用して、メールソフトと比べても全く遜色がないリッチなインターフェイスを実現し、続くGoogle SuggestやGoogle Mapsといった、同様のサービスを発表したことで、この技術が急に注目を浴びることになりました。GmailはIEはもちろんFirefoxにもSafariにも対応しています。古いブラウザはCSSをサポートしていないこともあり、対応することはかないませんが、新しいブラウザであればWindowsでもMacでも、その素晴らしい操作感を楽しむことができます。これは技術的進歩によるというよりは、古くて枯れた技術を徹底的に磨き上げて、検証して応用するという、職人的なメソッドによって実現されたことです。そして前述のAdaptive pathが、新しくクールな名称(Ajax)を与えたことで業界のトレンドになってきたというわけです。
(ブランディング的にいうと、良い名称をつけることは非常に重要なことですね)

野口英雄、もしくはライト兄弟に学ぶ



日本を代表する医学者の一人、野口英雄は、天才的な技術を持った人だったそうです。それは、驚異的に速い実験技術です。さまざまな病原菌の入ったビーカーや試験管の中身を混ぜたり分離したりして、その反応を記録する。当然その組み合わせは無数に近いわけで、それを何度も何度も繰り返すことによって得た結果を検証していく、ひたすら地道に繰り返す。これによって正しい回答を導きだすわけです。

もう一つ例を出しましょう。
ライト兄弟は世界で初めて有人飛行を成し遂げた、航空業界の偉人です。しかし、彼らの本業が自転車屋であったことを知る人は少ないのではないでしょうか。
ライト兄弟が飛行機製作に乗り出した頃は、飛行機を宙に浮かすための理論は完成されていました。浮力を得るための翼の形状と、十分な動力源(エンジン)は既に存在したのですが、ライト兄弟が成功するまで誰も飛ぶことができず、研究者たちは更に優れた翼と強力なエンジンの開発に取り組んでいたのです。しかしライト兄弟は別の方法をとりました。飛ぶための技術、つまりパイロットとしての技術を訓練した。簡単にいえば、ひたすら練習したのです。飛行機は飛ぶことはできる、飛び続けるためにバランスを維持するのはパイロット側の問題があると考えたわけで、その結果彼らは実際に成功しました。その後は、そのバランスの維持の仕方を数値的に検証して飛行機自体の開発に生かしていけば良かったのです。

Ajaxはこれに近いアプローチ、またはメソッドと思います。誰にでもやろうと思えば出来る、でも面倒で退屈な作業です。人間の目や手が入った作業であり、テクノロジーではなく職人芸です。
考えてみればBlogだってCSSやXHTML、RSSといった、手垢のついた技術を組み合わせて作られたものであり、新しいその名称と、誰にでも扱えるような簡単さを与えた、パイオニアたちの努力こそが全てです。無いモノねだりはせず、今あるモノで新しい道を拓く勇気ある人たちが報いられる世界は素晴らしい。
僕は、エンジニアではなく、深い技術論を話すに値しないのですが、それでもこうした努力に対するリスペクトをいつでも忘れません。今回は触れていませんが、このBlogのタイトルであるSpeed Feed には、世界を変えてきた先人たちと、これから世界を変えていくであろう取り組みに対するリスペクトが込められています。その説明はおいおいさせていただくことにして、今回はこれで指を休めさせていただこうと思います。



最初なので、肩に力が入って長いエントリーになってしまいましたが(反省)、これに懲りず、今後ともどうぞ宜しくお願い致します。


- hiro ogawa


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