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株式会社インフラコモンズ代表取締役の今泉大輔が、現在進行形で取り組んでいるコンシューマ向けITサービス、バイオマス燃料取引の他、これまで関わってきたデータ経営、海外起業、イノベーション、再エネなどの話題について書いて行きます。

決断しないことがはらむリスク

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楽天のTBSに対する姿勢には、当初かなり無理を強いるところがあったことは確かです。しかしあれはもう1年半も前。この間、TBSは楽天からの働きかけに関して、誠意のある対応をしてきたのでしょうかね?新聞報道からは、そういう風は伺えません。社内で色んな議論はしてきたのでしょうけれども、結局のところ、「決断をしないこと」を決めて、時間を引き延ばしてきたようにしか思えません。

戦略的な意思決定の世界で「状況の変化を待つ」ということは、リアルオプションで言う「学習オプション」に相当します。れっきとした戦略的な意味があり、それが企業価値に与える好影響も数理的に説明されています。
けれどもTBSがこの1年半行ってきたことは、学習オプションの積極的な行使というのには当らないように思います。何のオプションも行使せずに、判断を保留したまま、のらりくらりとやりすごしてきたという印象が強いです。これはTBSの株主にとってよいことでしょうか?

株主の視点で見るならば、よい経営陣とは、事あるごとに戦略的あるいは戦術的なオプションを設定し、的確な意思決定を下して、継続的に企業価値を上げていくことができる人たちのことを言います。常に意思決定の主導権を握ることができる”土俵”を設定し、そこで自分が主体的に意思決定をしていくのがよい経営陣なのです。意思決定の主導権が握れなかったり、勝負の”土俵”がよそさまの設定するがままになっていたりするのは、よい経営陣とは言えません。何が企業価値を上げるオプションなのか皆目わからず、意思決定できないのでは、経営陣失格です。

たとえ当初の態度が強引であったにせよ、楽天はこの1年半の間、様々な戦略的あるいは戦術的なオプションをTBSとの交渉において設定し、そこで主体的な意思決定をする姿勢を維持してきました。これは経営陣としては立派な態度です。株主からするならば、これこそがよい経営陣です。

企業価値を上げるためには、まずは何がなくとも自社で意思決定をすることが意味を持つ”土俵”(=オプションの束)を設定することが不可欠であり、楽天はそれをやりました。迎え撃つTBSでは、楽天が設定した”土俵”に対して、それを上回る”土俵”(TBSの企業価値にとって意味があるオプションの束)を設定し、徹底的にやるべきだったのです。
たぶん様々な専門家やコンサルタントに助言を仰ぐなかで、そのようなオプションの束を形作ることを進言した人が少なからずいたと思います。株主の価値を根幹に置く経営の常道だからです。ビジネススクールでファイナンスをまともに学んだ人なら誰でもそうした進言をしたことでしょう。まぁこれは推測ですから脇に置きます。

いずれにしてもTBSの経営陣は、戦略的・戦術的なオプションを連続的に駆使できる土俵というものを設定しないままに、ずるずる時間を引き延ばして現在まできました。

まもなく三角合併が解禁になり、相対的に多くの資産を持ちながら、相対的に時価総額が低く、経営のやり方を変えることによって時価総額を大きく高めることができる可能性のある企業に対して、敵対的な買収を含めたアプローチがしやすくなります。そういう時期になりました。ここまで何も積極的な決断をせずにきたということは、TBSの株主にとってよいことなのかどうか。

HOYAとの合併を撤回したペンタックスの経営陣にも、自分としては同じような疑問を感じます。「決断しないことのリスク」を増大させていないかと?

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