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COCOA失敗の3教訓:使い、オーナーシップを持ち、育てよ

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厚生労働省による、新型コロナウィルス 接触確認アプリ COCOA。そのAidroid版で2020年9月末より、アプリ利用者との接触通知が到達していないことが判明しました。
様々な混乱や紆余曲折を経て、プライバシーに配慮してリリースしたこのアプリが4ヶ月ほどの間、半数近くのシェアを持つプラットフォームで機能してなかったことは、私自身使ってきただけに非常に残念です。

今回の投稿は、にゃんこそば さんのこちらの投稿を発端とした分析に触発されて考えたことを述べています。改めてお礼を申し上げます。

COCOAアプリで多重下請けの「中抜き」はデマ

ネットでは、「COCOA、元請けのパーソルは2億9448万円で受注 下請けMTIへの委託は1615万円」で中抜きしたという話が出回っています。これは明らかなデマです。3億円弱で委託したのはHER-SYSとCOCOAの両方を含む委託費です。多重下請け構造で手数料を上流がかすめ取るという日本のシステムインテグレーターの構造の問題はよくしてきされますが、本件については、曲解のデマだと断定できます。

Cocoa-mti.jpeg

厚生労働省や楠内閣官房情報化統括責任者補佐官の反省の弁

どういう問題が起きたのかについては、厚生労働省の発表と楠 内閣官房補佐官の弁をまず引用します。

厚生労働省の告知:

このたび、Androidをお使いの方について、9月末より、アプリ利用者との接触通知が到達していないことが判明いたしました。このアプリを御利用いただいている多くの国民の皆様の信頼を損ねることになり深くお詫び申しあげます。厚生労働省としては、2月中旬までに障害を解消すべく取り組むとともに、品質管理を徹底いたします。引き続き国民の皆様に広く安心して本アプリを御利用いただけるよう、しっかり取り組んでまいります。

楠正憲 内閣官房情報化統括責任者補佐官 のTweet:

事実として、長期間ただ、この「品質管理を徹底いたします。」という厚生労働省の反省や「運用保守を軽視したつもりはなかった」という楠補佐官の弁は失敗から学んで成功につながる2つのポイントが欠けています。

1: 作らせたらアプリを活用せよ

今回のアプリでAndroidで通知が4ヶ月来てなかったという問題は、たとえるならば、牛丼とカレーという2つの業態を持つ飲食チェーンで、カレーの売上がゼロになっているのに気づくのに、4ヶ月かかったぐらいの致命的な問題です。大手飲食チェーン店で4ヶ月の間一つの業態で売上データがゼロだったりしたら気づかないことはありえないのですが、今回は発生しました。プライバシー重視で取るデータは最小限にしたかったとか事情があるにせよ、アプリのデータを活用してないから、重大な問題に気づかなかったと考えざるを得ません。

厚生労働省のチャートでは、9月下旬に陽性の報告が特に変化したようには見えません。

cocoa-Koro.png

このチャートの「陽性者登録件数」というのがどういう定義で取られたのか?プラットフォーム毎のデータを取っているのかど詳細の発表をして、どうアプリのデータを活用していて、活用してなかったのか公表が待たれます。

2: 建物の施主と同様に、発注者にオーナーシップがある

今回、問題を起こした関係者を処分するとかいう話が出ています。しかしこれは大きな間違いです。今回は、やるべき仕事をやらなかった個人の問題ではなく、発注側の厚生労働省がオーナーシップを持たなかったことが根本原因だからです。オーナーシップを持ってないことは「品質管理の徹底」という対策の言葉にも現れており、納品されたモノの品質の問題と考えていることでも分かります。

ソフトウェアの製造や保守管理を委託していても、使うべき主体は発注者たる厚生労働省です。使うべき発注者が活用して成果を出す責任があるという、オーナーシップに欠けることが今回の事象の根本原因といえるでしょう。

ありものを買ってきたわけではなく特注して作らせて、保守運用をさせているわけであり、厚生労働省がオーナーとして責任を持つという当事者意識があるのか疑問です。

3: リリースしたアプリは育てよ

新型コロナウィルスという未曾有の脅威に対応するべく今回スマホアプリが様々な組織の善意と協力もあって完成してリリース(出荷)されました。しかし、今のクラウドやスマホアプリの時代においては、リリースした日がDay 1であり、終わりではなくスタートだといのが現実です。リリースしても使われなくては意義がないし、ましてやリリース後に通知が来なくなるのを気づかないという今回の失態は論外の事態です。

新型コロナウィルス対策の本アプリCOCOAは、新型コロナ対策をしている人を増やすインセンティブとして、飲食店の割引に使うとかいろいろなアイディアや期待が語られてきまさいた。飲食店や、旅行業界救済策のGoTo EatやGoTo Travelも、このCOCOAを利用条件にして感染対策の意識を持ってもらうことを条件にといった期待がありました。

結局、COCOAと他の対策とはつながらず、COCOAをインストールし、利用し続けて良かったとかいう話も聞こえてきません。

しかし、デジタルの利点を生かした政府や政策という今後のビジョンを元により使いやすく、アプリやサービスを育てて拡充する行政が求められるでしょう。楠補佐官は、誤算だったと述べられていますが、急遽作られてまだまだ安定してないAPIに依拠したアプリだからこそ、継続的に開発して継続的にデリバリーする、そしてその活動継続という必要性をニーズに応え続けて利用範囲を的確に再設計する行政が求められるでしょう。

今回のCOCOAの体制と運用には大きな反省を残しましたが、この反省を活かして、今後の活動の向上に続ける、そんなダブルループ学習ができる政府につながるきっかけとなればこの大きな失敗は成功につながる有意義な失敗となりえます。

最後に、期待の書籍の紹介

失敗に関する書籍は、「失敗学」や「失敗の本質」など多数ありますが、ピンポイントでデジタル政府に関する失敗の書籍が日経BP社 の雑誌 日経コンピュータの編集で2021年2月12日に刊行されます。

「なぜデジタル政府は失敗し続けるのか」~消えた年金からコロナ対策まで~ 価格 1,980円(税込)
ISBN 978-4-296-10880-0 発行日 2021年2月15日、著者名 日経コンピュータ 著、発行元 日経BP

同誌の人気企画「動かないコンピュータ」に20世紀のMicrosoft時代担当製品、システム管理ツール、Microsoft Systems Management Severが動かないという記事を書かれるという憂き目にあったことがわる私としては目を覆いたいような痛ましいテーマの書籍ではあります。しかし、時代がふた周りほどして、クラウドなどのシステムモニタリングツールのマーケティングをして、アメリカ東海岸流の失敗に学ぶDevOpsやデジタル・トランスフォーメーションの世界を知った今、失敗に向き合い成功につなげることが肝要だと腑に落ちるようになりました。

失敗に学んで失敗し続けないようにする という学べる日本や、社会、経営、仕事に変わることに多少なりとも貢献できることを願っています。

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