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日本で超過死亡が激増!?で学ぶKPIとアノマリーの本質

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日本で、ワクチン接種による影響で超過死亡が異常に増えているのではないか?という投稿がTwitter界隈で増えている。震源は、日本経済新聞の前村聡氏らによる6月4日付記事、「国内死亡数が急増、1~3月3.8万人増 コロナ感染死の4倍」だ。有料記事部分では以下のような内容のグラフ※が表示されている。確かに例年12月から1月にかけてピークをつけた死者が2月、3月と減る傾向があるが2022年は減らずに多いまま推移している。その意味では「異常値(アナマリー)」だといえる。しかし、その死者が増える要因は思い当たらないので、経新聞で上記の記事の日本経済新聞 社会保障エディター 前村聡氏、スレヴィン大浜華氏らは、

1~3月に国内の死亡数が急増したことが厚生労働省の人口動態調査(速報値)で分かった。前年同期に比べ3万8630人(10.1%)多い、42万2037人に上った。同期間に新型コロナウイルス感染者の死亡は9704人で、増加分を大きく下回る。コロナ以外の要因があるとみられるが詳しい原因は不明だ。行動制限などの影響がないか検証が急務だ。

と主張している。また、Twitter界隈では新型コロナワクチン接種関連ではないか?と憶測がされている。

しかし、筆者は、月次死亡者数推移は時として前年比では外れ値が続いても不思議ではない指標だと考える。

出所:厚労省人口動態調査から奥村 晴彦先生まとめ https://oku.edu.mie-u.ac.jp/~okumura/python/japandeaths.html より。グラフは速報値、概数、確定値を筆者がまとめて作成

FireShot Capture 006 - 日本の超過死亡データ - Google スプレッドシート - docs.google.com.png

そもそも、日本の死亡者数月次推移は、長期トレンドで観るべき

グラフは大きくものをいうし、それ自体は正確なら「正しい」データではある。しかし、どうグラフ化するかには解釈が入り不適切なグラフは現実の事象を見誤る元となりかねない。前村聡氏らが、月次死亡者数というデータの意味合いを誤解し、違ったグラフを作ったと考える。あるべき日本の死亡者数月次推移はグラフは以下の長期間のトレンドグラフだろう。

FireShot Capture 003 - 日本の超過死亡データ - Google スプレッドシート - docs.google.com.png

このグラフから読み取れることは、日本の月次死亡者数は概ね増えているということだ。少子高齢化が進む日本で、世代人数が多い団塊世代などの高齢化が進む中、日本は死者数が増える傾向があるという知識がチャートになったように見える。

変化を見やすくしたのが以下のグラフになる。
FireShot Capture 004 - 日本の超過死亡データ - Google スプレッドシート - docs.google.com.png
月次の青い線は激しく変動するが、12ヶ月累計の赤い線はより変化が緩やかになり、その線形での傾向線を引くと概ね毎年2%死者が増えてい状況にあることが見える。

2020年1月ごろから顕著になった、新型コロナ対策での、高齢者施設での面会抑制や、マスク着用は結果として死者を減らすことにつながり、2019年1月ごろから続く2年ほど超過死亡(平均より多い死者)が減る傾向に寄与したといわれる。それが、2021年の途中から超過死亡が増える傾向にありそうだとは分かる。

月次死亡者数はKPIだが、遅行指標なので問題発見に向かない

月次死亡者数は重要なパフォーマンス指標(KPI)であることは間違いない。しかし、KPIが悪いからなにか原因があるかもしれない、という前村聡らの主張には問題がある。結果として悪いとして原因究明をうったえても結局のところ短期指標で問題があるわけではないので、反ワクチンとかの陰謀論に火を注ぐことしかできていない。

新型コロナ関連でいえば、重症者数とか、救急医療の逼迫状況とかの指標があるがそこは落ち着いている。「社会の木鐸」だから警鐘を鳴らせばいいのだ という考えかもしれないが、そもそも、騒いでもそれらしい原因が分からないまま騒いでは、陰謀論に加勢するだけになるのではないかという弊害も考えるべきだろう。日本経済新聞社は一度出した記事の落とし前として、他の見方をする記事も出すべきではなかろうか?
FireShot Capture 007 - モニタリング項目(5)救急医療の東京ルールの適用件数 - 東京都 新型コロナウイルス感染症対策サイト_ - stopcovid19.metro.tokyo.lg.jp.png

トレンドから外れた数値が、対処すべき原因がある異常値かはグラフだけでは分からない

結局のところ、月次死亡者数が2022年2月と3月は多かったことは分かっても、それが対処すべき原因があっての異常値かどうかはグラフだけでわからない。

今後の分析で、たとえば、「新型コロナ対策で面会抑制を緩めたことで、死者が増えた」とか何かわかる可能性はある。ともあれ、そもそもの数字の理解として、日本の月次死亡者数という数値はここ数年抑制に成功していたから、2022年も同じ傾向で推移すべきとかいう前提が間違っていると理解しておきたい。

ここ何年か死者が減っていたということは長生きする人が増えたということでだが、それは、そのまま寿命が伸びたとは限らないということだ。そして、個別の医療機関や高齢者施設などでは、医療や福祉の専門家、利用者、家族の希望に沿って納得のいく最善の策がとられているということを理解しておきたい。

人類は文明を進化させ、福祉を向上して、文化的な生活ができる人口を増やしてきた。経済成長もまた継続してきた。「成長の限界」が説かれつつも、テクノロジーや情報技術の進化は続き、経済成長は21世紀も続いてきた。人の寿命も伸びて人生100年時代も唱えられている。とはいえ、人の寿命に限界があり死がいつか訪れるということは避けられない。そんな、背景を理解して、月次死亡者数のグラフを見れば、成功している企業の月次売上推移データみたいに、成功を続けられないものだという本質が理解できるだろう。

KPIの持続的な達成は大事だが、それが無理なKPIもある、そんな、ここの数字とグラフの意味するものを理解してグラフを読みたい。

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