欧米でできているサマータイム(夏時間)導入が、日本で絶望的に困難な3つの理由ー偉い人は炊飯器の時計を多分知らない
2020年東京五輪開催期間限定の2時間前倒し、サマータイム導入がけっこう真剣に検討されているということで、ITシステム周りでの猛烈な反対と、そんな欧米でやっているんだから日本でもできるだろう、もしくは試してみたら、という2つの論調を目にします。ここでは省エネとか経済活性化とか体調への影響とかの問題は抜きにして、情報システム的に日本では非常に難しい理由を解説します。
欧米でできている夏時間導入が日本では絶望的に困難な理由1:社会として時差対応の経験が未熟
アメリカと仕事をする経験が長いのですが、打ち合わせの時間を指定する時に、西海岸夏時間で午後7時から( 7 pm PDT)なんて指定をよくしました。時差がある相手との連絡になれていていて元々、太平洋時間のPSTとか中部時間のMSTとか確認しながらら働いてきたわけです。夏時間導入もタイムゾーン指定の一つとして扱えば対応できる素地が元々あったわけです。ヨーロッパもタイムゾーンがいくつかあり、時差を意識した働き方が身についていることでしょう。
一方日本は、国内で完結した仕事が多く、タイムゾーンを意識する人は非常に限られてきました。時差を意識する習慣が薄いのは、夏時間という新たなタイムゾーンに対応するにあたり戸惑いも大きくなるはずです。打ち合わせの時間に 単に 15時とだけ書き、JSTとかのタイムゾーンを書く習慣がない我々が、JDT(日本夏時間)というタイムゾーンにどう接するべきか?まずはタイムゾーンを書くことになれることから始める必要があります。
欧米でできている夏時間導入が日本では絶望的に困難な理由2:標準時UTCを意識した時間処理の習慣やシステムが未整備
社会が、時差を意識していない余波が情報システムにも関係してきます。時差を超えて働くのが常識の世界ではUTC(世界標準時)を基準にローカルの時間を扱うという処理が必要とされ、その仕組が、夏時間の対応にも生きます。一方日本はローカル時間だけで済んでいたので、一度UTCになおしてまたローカル時間に当てはめるなどといった処理に対応しないシステムが膨大にあると想定できます。
そもそも社会が時差に未成熟で時刻表示のシステム上で、タイムゾーンを表して来なかったので、夏時間と、そうでない時間を混在して処理する時にどう表示すべきか?という標準仕様すら存在していません。
欧米でできている夏時間導入が日本では絶望的に困難な理由3:製品寿命が長く、アップデートも困難な組み込み機器が夏時間を考慮していない
そして最後に決定的な困難さが待ち受けています。組み込み系の機器などのアップデートが困難な機器での対応の問題です。金融機関のATMとかレジ端末など組み込み系OSで動いているシステム、そして工場などで使われている機器など、一般のパソコンとは違う形で動いてるシステムが現代は膨大にあります。これらのOSの更新は単純にはできません。
この夏時間対応を考えられてない組み込み系機器は実はもっと広範囲にあります。例えば炊飯器は時間を指定して予約炊飯する機能がありますが、ぱっと見た限り夏時間のスイッチをいれて時間を早めるとか遅くするという機能がありません。こういった時計をもつ機器は膨大で、家庭内でもエアコン、トイレ・シャワー、ビデオレコーダー、などなどいろいろあります。社会で使われている機器で、自動改札機とか自動販売機などなどいろいろなアプライアンスが時刻をデータとして扱っていそうですがその対応の必要度や困難さは見積もりも困難かもしれません。
このあたり、夏時間が先にあって、家電の情報化があとから進んだ欧米とは大きく条件が異なります。
2020年だと性急すぎるからもう少し周知期間をおいておけば恒久的な夏時間制度導入も可能だろう、そんな意見を目にするのですが、夏時間という習慣がなく機器も対応していない中、準備が進むには、システム更新ができないアプライアンスが入れ替わるまでの10年、20年といった時間が望ましいのかもしれません。そしてそこまで時間をかけて準備する夏時間が有意義であるのか?という別の問題も残ります。
もちろん弊害に目をつむりコストをかければ、日本での夏時間対応は不可能ではないでしょう。ただ、1940年代とかの古くからやっている制度を21世紀の日本で今から始める困難さとコストがどれほどのものなのか?偉い人は現場の問題を理解しようとしていないのではないか?そう思わされます。