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ベラルーシの放射性物質基準、NHKが撒いた神話と現実

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「ベラルーシの基準だと、3歳までの乳幼児食品は放射性セシウムについて1㎏あたり37ベクレル。30Bq/kgの粉ミルクはぎりぎりセーフじゃん。」などとNHKのブログを元にした意見を聞きます。
http://www.nhk.or.jp/kaisetsu-blog/450/91326.html

a110804_00.jpg

しかし、これは時間的にどうなってきたかともっと細かい基準があるのをテレビ向けにデフォルメされた一面的情報です。また、このフリップはどうも致命的な間違いがあるようです。(後述)

実は、事故が起きた最初の年のベラルーシの粉ミルクの放射性セシウム基準は37Bq/kgとはかけ離れた、18500Bq/kgでした。

食品名 TAL-86 TAL-88 TAL-91 RCL-90

日本

ニホン

2011

基準

日本

回収

された

最大値

粉ミルク 18,500 1,850 1,850 740 500 32

ウクライナ、ベラルーシ、ソ連に北欧などチェルノブイリの事故は広範囲に非常に深刻な被害を及ぼしたため、その事故後の放射性物質基準は非常に高い値が設定され、それでもなお基準超えの食品が地産地消で飲食されたと研究されています。このため粉ミルクの基準でも日本は3桁低い基準を初年度から設定でき、実際今回問題になった粉ミルクはさらに低いものです。どれくらい差があるのかグラフにしてみました。

Milkchart

粉ミルクだから安全な基準に、という一方で、流通が未整備のなかで一番悪いことは欠品して乳児の栄養・健康状態が直接的に悪くなることです。詳しい事情はわかりませんが苦渋の決断だったのかもしれません。このグラフの元になった数字は、今人気の小出助教の同僚である、京都大学原子炉実験所 今中哲二助教がまとめられたものを使用しています。

http://www.rri.kyoto-u.ac.jp/NSRG/Chernobyl/saigai/Mtk95-J.html

食品,飲料水,空気中の放射能レベルに関する規制

旧ソ連時代,緊急措置として設定された被曝限度(事故の1年目10レム,1987年5レム,1988年3レム,1989年3レム,1990年0.5レム:うち外部被曝と内部被曝が50%ずつ)に基づいてソ連保健省は,1986年,1988年,1991年に食品と飲料水中のセシウム137に関する暫定許容濃度(TAL)を設定した.TAL-88は,その年にソ連保健省が採用した生涯35レムのいわゆる“安全生活概念”に基づくものであった.

1990年ベラルーシでは,法律「チェルノブイリ原発事故被災者に対する社会的保護について」が立案され,ベラルーシ政府は,1990年8月1日から食品と飲料水の許容濃度に関する共和国管理レベル(RCL-90)を施行した.RCL-90は,1992年6月まで約2年間実施された.RCL-90の基本は,そのレベルの食品を日常的に摂取し続けても,もっとも被曝が大きいグループでも年間の内部被曝量が0.17レムを越えない,という考え方である.RCL-90ではストロンチウム90に関する規制が初めて盛り込まれた.一方,ソ連保健省は1991年の始め,セシウム137とストロンチウム90に関するTAL-91を設定した.TAL-86,TAL-88,TAL-91およびRCL-90の値を表1にまとめた.

表1 食品中のセシウム137とストロンチウム90に関する暫定許容濃度(TAL)と共和国管理レベル(RCL)

食品名 TAL-86 TAL-88 TAL-91 RCL-90
  Bq/kg,l Bq/kg.l Bq/kg,l Bq/kg,l
セシウム137        
飲料水 370 18.5 18.5 18.5
ミルク 370 370 370 185
酪農製品,生クリーム,凝乳 3700 370 370 185
粉ミルク 18500 1850 1850 740
バター,コンデンスミルク 7400 1100 1100 370
豚肉,羊肉,鶏肉,魚,卵とそれらの製品 3700 1850 740 592
牛肉と牛肉製品 3700 2960 740 592
植物油,動物脂肪,マーガリン 7400 370 185 185
ジャガイモ 3700 740 600 592
野菜,果物,イチゴ 3700 740 600 185
パンとパン製品,穀類,カラス麦,小麦粉,砂糖 - 370 370 370
(果物,野菜,ジュース,ハチ蜜)缶詰 - 740 600 185
幼児食品 - 1850 185 37
生のイチゴ - - 1480 185
生のキノコ - - 1480 370
乾燥した,果物,キノコ,イチゴ - 11100 7400 3700
薬草,お茶 - - 7400 1850
他の食品,および添加物 - - - 592
ストロンチウム90        
飲料水 - - 3.7 0.37
ミルクとミルク製品 - - 37 3.7
粉ミルク - - 185 18.5
コンデンスミルク - - 111 3.7
凝乳,バター - - - 3.7
肉,魚,卵,植物油,動物脂肪,マーガリン - - - 18.5
ジャガイモ - - 37 -
(調理済みの)幼児用食品 - - 3.7 1.85
パンとパン製品,穀類,カラス麦,小麦粉,砂糖 - - 37 3.7

現在ベラルーシにおいては,1992年10月21日ベラルーシ国家衛生総監が承認した共和国許容レベル(RAL-92)が,食品と飲料水中のセシウム137とストロンチウム90の規制のために用いられている(表2).RAL-92の値は,そのレベルの放射能の取り込みにともなう内部被曝が年間1ミリシーベルトを越えないように設定されている.

1 Sv = 100 remなので、10レムは100m Sv 、えらく高いようではあるけど、疫学的にこれ以下では発がんリスク上昇が検出されないレベルであり、実際はこれよりはるかに高い外部被曝、内部被曝があったとされています。

そういう大変な状況で実効的に被曝を下げる、避けるためにできた、細かい基準は乾物なら食べる状態で害が無いように設計されています。そして、このベラルーシの知見からすると、日本の状況は心配にはあまり及ばないことがわかるかと思います。

NHKのフリップへの疑問

さて、NHKのフリップの問題ですが、乳幼児食品の例として哺乳瓶に入ったミルクが描かれています。これを元に、粉ミルクの基準が37Bq/kgだと思われている方は大勢いらっしゃると思います。しかし、実は粉ミルクの基準は別途あって、少なくとも90年頃の基準では20倍高い、740Bq/kgが本当の数字でした。

ベラルーシ基準は乾物やお茶の基準が高いように粉ミルクのような希釈して飲食するものについては高い基準を許容しています。逆に言うと製造過程で濃縮されるため高い数字になりやすいからでもあります。

テレビ放送というある程度情報を整理し単純化しないと伝わらない媒体の制約はわかりますが、これだけ製品回収や不安視する方が増えている以上、事実を最検証し、正しいベラルーシの粉ミルクの基準は何なのか、報告するべきではないでしょうか?

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