企業ツイッター活用における効果測定指標とツールについて
企業でツイッターを活用する場合の効果測定の指標をどうするか,頭を悩ませているご担当者は多いことだろう。
ツイッターに限らず,ソーシャルメディア活用の効果測定が難しいのは,次のような特性からだ。
- 用途・目的が多様で,それによって測定すべき指標も大きく異なる
- 定量効果より定性効果(数字にできない,しにくい効果)の方が大きい
- 短期的な結果ではなく,長期的な相互信頼醸成にこそソーシャルメディア活用の本質がある
ただ,実際に企業がソーシャルメディアを活用する場合,その稟議プロセスで効果測定が求められることは多く,当社においても標準的な効果測定指標は課題となっていた。
以前,経営的な観点からの投資対効果に関して記事(ITmedia: 効果測定を怠らないTwitterこそが勝ち残る)を書いたが,今回は,稟議プロセスでも評価され,かつ現場で実践的に活用効果を把握できる指標を提言したい。
参考にしたのは「グランズウェル」著者シャーリーン・リー氏がCEOを勤めるAltimeterから発表された"Social Mareting Analytics"(詳しくはイケダハヤト氏ブログ記事をご参照ください。下記Slideshareでダウンロード可能です)やザッポスにおける測定指標,eコマースに用いられる一般的指標など。これらのコンセプトをベースにしながら,ツイッターにフォーカスし,現実的に測定可能な効果指標にすることを心がけた。
【Slideshareからダウンロードも可能です】
なお,ツイッター活用目的については,当ブログ 「ツイッター活用事例集」 における4分類を継承している。
・ 企業ツイッター,国内外の活用事例を総まとめ (3/24)
また「ツイッター活用事例集」のプレゼン資料,説明資料ダウンロードは こちら からどうぞ。
1.対話エンゲージメント
主として広報部門が担当する。顧客との対話交流に主眼をおくブランディングツールとしての活用法だ。このタイプの主目的は,顧客とのエンゲージメントを深めることにある。
- エンゲージメント率 = リプライ数 / フォロワー数
- インフルエンス率 = ReTweet数 / ツイート数
- ツイートシェア = 自社ブランドに関するツイート数 / 自社および競合ブランドに関するツイート数
- 好感度スコア(自社) = 自社ブランドに関するポジティブツイート数 / 自社ブランドに関するツイート数
- 好感度スコア(競合) = 競合ブランドに関するポジティブツイート数 / 競合ブランドに関するツイート数
■ 推奨ツール
- Tospy ツイート頻度を基にした検索エンジン機能を持つほか,自社ツイートのRT回数や自社/競合ブランドのツイート数を調査できる無料検索ツールだ。
- TweeFeel Twitrratr TweetSentiments ブランドに関する無料ネガポジチェック・ツール。中でもTweetSentimentsは多国語対応を謳っているが日本語に関しては怪しい。英語であればそれぞれ一定の信用性があるが,日本語のネガポジ判断は目を通す際に人力で行うのが現実的だろう。
■ 該当事例
2.販促プロモーション
主として営業,営業推進,マーケティング部門が担当する。顧客に自社商品やイベントなどを案内し,セールス誘引ツールとして活用する方法だ。このタイプの主目的は,来店,集客,商品サービスの販売だ。ただし単純な告知ツールとしての活用はほぼ失敗に終わる。
- プロモ・ツイート率 = プロモーションツイート数(URLつき販促系ツイート数) / ツイート数
- クリック率 = URLクリック数 / フォロワー数
- コンバージョン率 = コンバージョン数(購入数,DL数,問合せ数等) / URLクリック数
- リピート・コンバージョン率 = リピート・コンバージョン数 / 総コンバージョン数
■ 推奨ツール
- Bit.ly 短縮URLをBit.lyで処理すれば,ツイートごとのRetweet数やクリック数を把握できる。コンバージョン数やリピート数などはコマース集計と連動するのが良いだろう。
■ 該当事例
3.顧客サポート
主としてカスタマーサービス部門が担当する。利用者に自社商品サービスに関係する
サービスを提供し,顧客コミュニケーションツールとして活用する方法だ。問い合わせに応対するパッシブ(受動的)サポートに加え,自ら困っている人を探す
アクティブ(能動的)サポートも増えている。
- ツイッター相談件数 = 特定期間あたりの問い合わせ件数
- 解決率 = 解決した相談数 / 相談数の合計
- 平均レスポンス時間 = 返答に要した時間の合計 / 相談数の合計
- 顧客満足度 = アンケート結果(顧客満足度5段階評価) / アンケート回答数
■ 推奨ツール
- Salesforce.com ツイッターによる顧客サポートではSalesforceがベストだろう。電話やメールなどとともにマルチコンタクトセンターとして活用できる点,Chatter's連係で社内情報共有を図れる点が新しい。ただし有償だ。
- PollDaddy Twitterと連動するアンケートを簡単に作成・修正できる無料ツール。ネットで簡易的に顧客満足度を調査する場合には利用可能だ。
■ 該当事例
4.コラボーレション
目的によってさまざまな部
門が担当する。例えば生活者の声を商品開発に取り入れるアプローチ(アイディア募集やアンケートなど)では商品企画部門が,試作品のテストなどをユーザー
に依頼するアプローチでは製造ないし品質管理部門が担当するなど。ツイッターをユーザーと提供者のコラボレーション・ツールとして活用する方法だ。
- フィードバック件数 = 特定期間あたりの利用者からのフィードバック件数
- 有効フィードバック率 = 参考になったフィードバック数 / 総フィードバック数
- 好感フィードバック率 = ポジティブなフィードバック数 / 総フィードバック数
- リピート・フィードバック率 = リピート・フィードバック数 / 総フィードバック数
■ 推奨ツール
- フィードバック(利用者の意見ツイート)は閲覧の際に手作業にて集計するのが現実的だ。
■ 該当事例
5.総合指標 ... ネット・プロモーター・スコア(NPS)
NPS(Net Promoter Score)は,米国における顧客ロイヤルティ研究の権威,フレデリック・ライクヘルド氏によって提唱された指標だ。顧客ロイヤルティ測定のための究極の質問 「この会社,商品,あるいはサービスを,友人・知人に薦めますか?」 に11段階(0-10)評価してもらうもの。
ソーシャルメディアはクチコミ拡声器である。この指標の意味するところは 「その企業がソーシャルメディアを活用した場合に,どれだけポジティブなクチコミが広がるか」 という企業における本質的目標をあらわしており,いずれの活用目的においても重要視すべき総合指標と言えるだろう。
- 9-10: 推奨者
顧客の事前期待を超える価値を企業が提供した場合。自らすすんで商品を再購入してくれる。80-90%の確率で推奨クチコミもしてくれる -
7-8: 中立者
顧客満足を満たす最低限のサービスしか提供できなかった場合。他により良い商品があればそちらを購入する - 1-6: 批判者
顧客の期待を満たす価値を提供したかった場合。再購入を行う確率は少なく,80-90%の確率でネガティブなクチコミを行う
■ 推奨ツール
- PollDaddy Twitterと連動するアンケートを簡単に作成・修正できる無料ツール。ネットで簡易的に行うNPS調査を行う場合には利用可能だ。
参考まで,実際に発表されているNPS測定結果では,NPSリーダーと呼ばれる最先端企業でも平均8点弱に満たないレベルだが,ザッポスは電話サーベイで9.0点,メール・サーベイで8.3点と群を抜いて高いことで知られている。
以上,目的別に当社が推奨する効果測定指標をご紹介した。
ただしひとつ注意したい事がある。今回は4目的ごとの効果測定指標を提言したが,利用者は必ずしも企業の意図通りに反応しないという点だ。プロモーション利用を目的としたアカウントにも顧客サポートの問い合わせは来るし,それを無視すると企業姿勢を問われることになる。したがって,企業としてツイッターアカウントを開設する以上,この4目的を理解した上で,総合的な効果測定指標で運用することが望ましい。
この指標は当社のTwitterコンサルディング・サービスにおいて活用しているものだが,今後,さらに経験を深め,より効果的で,より必要十分な効果測定指標を開発していく予定だ。またこれらを測定するためのツールを継続的に紹介ないし提供する方針であり,適時ブログにてご紹介したい。
【Twitterビジネス活用】
・ B2B企業のソーシャルメディア活用はIBMに学ぼう (4/13)
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最新の筆者著書です。 『Twitterマーケティング 消費者との絆が深まるつぶやきのルール』