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日本版LLPはベンチャー促進の「切り札」になるか?

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 先週、経済産業省から日本版LLPに関する資料が公開されました。

 有限責任事業組合(LLP)制度の創設について

 日本版LLPとは、米国、英国などに倣って作られた新しい営利事業組織の形態で、去る4月27日に国会で可決されたばかりの制度です。この制度をはじめ新会社法の制定や商法の改正など、国においては日本の起業家の増加を目指して起業のハードルを下げる努力がなされており、特に、LLPはベンチャー企業創生促進の「切り札」とも言われています。

 LLPとは、どういうものでしょうか?

 LLPはLimited Liability Partnershipの略で、日本語では有限責任事業組合となります。LLPの主な特徴は、以下の4つの「ない」です。

  1. 出資者が出資額までしか責任を負わない
  2. 利益や権限の配分が出資比率に拘束されない
  3. 組合員の所得にのみ課税され組織には課税されない
  4. 取締役会や監査役のような監視機関の設置が必要ない

 これを従来の組織と比較すると次のようになります。

株式会社 民法組合 LLP
有限責任性 ×
損益・権限配分 出資比率に比例 自由に決定 自由に決定
組織への課税 あり
(法人税)
なし
(組合員に直接課税)
なし
(組合員に直接課税)
監視機構 必須 任意 任意

 このように、株式会社と組合の「いいとこどり」をした形態がLLPだということができ、組織運営や税負担などで当事者に大きなメリットがある組織です。

 では、このLLPが日本のベンチャー企業をどんどん生み出す「切り札」になるのかどうか?この点については残念ながら私は疑問符をつけざるを得ません。

 第1に、LLP制度そのものが大きな成長を目指す組織にマッチしないということ、第2にいくらハードルを下げても、そのハードルを飛びたいと思う人が増えなければ状況はあまり変わらないということです。

 まず第1の点ですが、大きな成長を目指すベンチャー企業は、早い段階からエンジェルやベンチャーキャピタルなどの投資家と組んで先行投資を行う必要がありますが、実はLLPは投資家とタッグを組むには難があります。それは、(1)出資のみの組合員は存在できない、(2)株式会社ではないので株式公開は出来ないという2つの制約に因ります。このことから、LLPは、実は大きな成長を目指すベンチャーに向くのではなく、個人集団が行う比較的小規模の事業や、当事者だけで必要な規模の投資が可能な企業同士の共同事業に向くことがわかります。

 第2の点は、言うまでもないことですが、ハードル走に出場したい人=起業したいモティベーションを持った人を増えなければ切り札にはなりえないということです。LLPは米国、英国をモデルにしていますが、そういう国だって「LLPがあるから起業する」人がいったいどれだけいるでしょうか?日本でも「制度ができたから起業する」ような人はほとんどいなくて、もしいたとしてもうまくいかないでしょう。ハードルを下げるだけではなく、一人でも多くの人が「これをやりたいんだ!」というほとばしる情熱を持つような社会を作っていく必要があります。以前、伊藤穣一氏が指摘していたようなLow Risk High Returnの大量のEliteがいる構造を変えていかないと、さまざまなベンチャー政策も「仏作って魂入れず」になってしまいかねません。

 このような理由で、残念ながら私は日本版LLPが「切り札」になるとは考えられないわけですが、いわゆるベンチャー予備軍的な大学の共同研究や研究の事業化には役立つのではないかと考えています。裾野が広がらなければ、山も高くなりません。日本版LLPで山は登れませんが、裾野を広げることでベンチャー推進の一翼を担うことを期待しています。

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