データを武器に、絶版本を売れる本として蘇らせる
本は一度絶版になると、蘇らせるのは難しい。そもそも売れ行きが芳しくないために絶版になるので、それを覆す理由が必要だからだ。
しかし、読者は思い出の本を忘れない。
小さいころに読んだ絵本を子どもにも読ませたい。
子どものころに愛読したマンガをまた読みたい。
若い頃に影響を受けた本をまた手元におきたい。
好きだったアイドルグループ解散10周年なので、写真集が欲しい。
10年前、復刊のリクエストデータが100件集まれば絶版本を復刊させる「復刊ドットコム」が登場した。ネットで要望を集めて、本を出版するという本好きにはたまらないサービスだった。ただし、リクエストが集まったからといって、簡単に復刊できるわけではない。出版社や著者の了解を得なければならないからだ。
●一筋縄ではいかない復刊交渉
著者がさまざまな理由で復刊を拒むことがある。特にタレント本は、昔と違うイメージで活躍していると復刊はほぼNGだ。共同で執筆した作品の場合、著者同士の関係性が悪化して復刊が難しいときもある。
出版社の説得もかつては大変だったという。復刊ドットコムが設立された当初は「絶版にした本について考えていられない」と、門前払いされることもあった」。10年間で復刊ドットコムに40万人のユーザが登録し、5万件の復刊リクエストデータが蓄積された今では、むしろそのデータを参考に復刊の判断を積極的にする出版社も増えてきた。
読者がリクエストした理由も書いているので背景も分かりやすい。復刊したSFの名作『たんぽぽ娘』は、『ビブリア古書堂の事件手帖』に登場し、本のヒットとともにリクエストが急増し、復刊が実現した。
今はむしろ、無くなってしまった出版社の本を復刊するほうが難しいという。関わった全ての著作権者を探し出すのが大変だからである。
●"再現"するだけではない復刊
ニーズをとらえて、売れるものだけを出版しているのであれば、復刊ドットコムは常にビジネスが順調ではないかと思われるかもしれないが、出版不況と言われ続けたこの10年間、本で勝負するのはかなり厳しい。試行錯誤の上にビジネスを軌道にのせたのは「マンガ」だった。
手塚治虫の『火の鳥』や『ブラック・ジャック』を中心とした豪華本が売り上げを押し上げた。手塚治虫のマンガはいろいろな形で出版されているが、版型によって収録作品が異なる。マニアはそれを知っているので、出版されたものは全て欲しくなる。ブラック・ジャックには表現の問題で決して掲載されない3作品がある。復刊された本にも、もちろんそれは掲載されていないが、どの本にはどの作品が掲載されているか、掲載されていないか、という一覧を最後に掲載し、マニア心をくすぐる。
復刊ドットコムが関わる復刊本は、読者が喜ぶ要素を加えることもあるし、単行本になっていないものであれば雑誌から本におこすこともある。読者の「また読みたい」というニーズをとらえ、磨きをかけて復刊していく。
(インタビュー先 復刊ドットコム 取締役 岩本利明、文 opnlab 小林利恵子)
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復刊ドットコムは、蓄積されたリクエストデータを「復刊オープンマーケティングプラス(仮)」としてより多くの方に利用できるよう公開します。それを記念して、以下のトークセッションを開催します。
データ分析に関心がある、マーケティングに関心がある、出版にたずさわっている、単に本好き・マンガ好きにおすすめです。
8/26(水)19:00-20:30
opnlabトークセッション