採用今昔物語「2016年卒向け新採用スケジュール、実は20年前への回帰」
2016年新卒採用が本格的にスタートしました。今年からスタート時期が3か月遅くなり、新聞や就職ナビサイトなどでは「新スケジュール」という表現をよく目にします。
しかし、昔の新卒採用のスケジュールを知っている人は、元に戻ったと感じている方も多いはずです。
そうなのです、就職協定が存在していた約20年前までは、大学4年生の夏にリクルートスーツを着て就職活動をするのはごく普通の姿だったのです。
新卒でリクルートに入社以来、採用業界に身を置き、仕事をしてきたおかげで、色々な面で昔と今の採用状況の違いなども感じるようになりました。
そんな私が、私なりの視点で採用業界の流れを捉え、昔を紐解きながら、今を語ってみたいと思います。
●なぜ、以前のスケジュールに逆戻りすることになったのか。
今回、採用スケジュールを変更するに至ったのは、政治的な動きと学校側の動きという2つの側面があります。
昨年までは、3年生の12月1日にエントリーがスタートし、中堅企業を中心に4年生の4月から6月頃までには内々定が出る、出始める、というのが、基本的な流れでした。
また大手企業も実際には水面下で採用活動を行っているのが実情でした。
その後、計画通りに学生を採用出来ていない企業や、帰国子女等を積極的に採用する企業が、夏採用というスタイルで採用活動を行っていました。
つまり、海外の大学で学んで、日本に帰ってきた学生がいざ就職活動しようと思っても、採用活動は実質ほぼ終了状態だったのです。
こうした不利をなくし、海外で学んできた学生にも門戸を広げる為、海外の大学の卒業時期である7月8月に合わせ、グローバルに対応していくべきという議論が、国会でも取り上げられようになりました。
これが政治的な動きです。
学校側の動きは、当然のことながら、学生の本分である勉強時間の確保です。
3年生の12月から就職活動がスタートしてしまうと後期試験に注力できなくなります。
その上、長らく続いた不況の影響もあり、4年生の夏を過ぎても就職が決まらず、就職活動が長期化することで、卒論等、勉強時間がどんどん削られていくことに学校側が危機感を抱いたのです。
こうした動きによって、今回、採用スケジュールの変更となったのです。
●「青田買い防止」「学生の学業時間の確保」を目的とした就職協定。
また、1996年まで存続した就職協定も「青田買い防止」「学生の学業時間の確保」が大きな目的でした。
戦後の復興期で、大手企業を中心に各企業が優秀な学生を少しでも早く確保しようとした結果、採用活動の早期化が進み、学校側から「学生の学業専念が阻害される」という声が大きくなり、双方の意見を調整してまとめ、1952年に各企業の採用活動開始時期を一斉にしようと決めたのが、就職協定です。
しかし、その後も「青田買い」をする企業は後を絶たず、その都度、注意や勧告などの措置をとってきました。
しかし、それらは罰則のない紳士協定であり「社名公表」以上のペナルティはなく、有名無実化となり、1996年に廃止となりました。
その後は、経団連の「倫理憲章」として形を変えて継続していますが、正直言って形だけの感は否めません。
いつの時代も企業は優秀な人材を少しでも早く確保したいので、あの手この手で学生と接触しようとします。
特に最近は多くの企業がバブル期の反省を踏まえて、「数重視の大量採用」でなく「数より質重視の採用」をしているので、いかに早く優秀な学生を確保するかが、最重要課題なのです。
そうした視点で見れば、変更した今回のスケジュールも守られない可能性が大きいように思います。
まさに「時代は繰り返す」の言葉通りです。
●外資系企業が日本の学生を「青田買い」する時代の新卒採用活動のあり方。
昔と違う点を挙げるとすると外資系企業の台頭です。
もちろん、1980年代にも外資系企業はありましたが、学生の就職先企業としては今ほどの存在感はなかったように思います。
しかし、現在はIT関連企業中心に外資系企業の動きが新卒採用市場にも影響力を持つようになりました。
事実、外資系企業が日本の優秀な学生を高額な報酬で「青田買い」をするといった動きもあります。
そうした環境の中で「倫理憲章」を掲げ、採用スケジュールを決めていくことに意味があるのか、といった声も聞かれますが、「ルールなきところに秩序なし」ですので、ある一定のラインを示すことは必要だと思います。
ただ、一定のラインのあり方についてはもっと検討する必要があるように思います。
今回のスケジュール変更は、海外の大学の卒業時期に合わせ、グローバルに対応していくことが理由の1つですが、時期を変えても会社説明会→面接→内定という日本の採用プロセスは変わっていません。
私がリクルートに入った約30年前からそのプロセスは基本、同じです。
海外ではインターンシップに力を入れ、企業側、学生側双方がしっかりとお互いを理解した上で個々に対応し、採用していきますので、比較的ミスマッチも少ないように思います。
日本でも最近、インターンシップを行う企業が増えてきていますが、海外のそれと比べて圧倒的に期間が短く、お互いを理解するまでには至っていないのが現状です。
時折、見かける1dayインターンシップは、会社説明会とほとんど変わらないところも多く、インターンシップとしてはほとんど意味がありません。
少子高齢化していく日本で、本当に世界で活躍できるグローバルな視野に立った新卒採用を考えると単に採用活動開始時期の変更をし、ただ時代回帰するのではなく、採用プロセスそのものを大きく見直していくことが重要だと思います。
時代や世界状況の変化を振り返りながら改めて考えてみますと、間違いなくそうした時期に来ていると思います。
以上、何かのご参考になれば幸いです。