最近の新卒1人当たりの採用単価事情
3月に就職活動が解禁となりましたが、売り手市場で学生の動きが鈍く、会社説明会等に参加する学生が昨年より減っている企業がかなり多いように思います。
就職ナビサイトに掲載してエントリーを募り、説明会を開催するだけでもそれなりの費用がかかります。
「いったい他社はどの程度の新卒採用予算を割いているのだろうか?」と新卒採用コストで頭を痛めている経営者の方も多いと思います。
可能な限りコストを抑えて優秀な人を採用したいというのが、経営者、採用担当者の本音だと思います。
今回は今時の採用単価を通して、これからの新卒採用を考えてみたいと思います。
●バブルの頃と大きく違う採用単価
ここ最近「お金をかけている(つもり)割にはいい人が採れない」という声をよく聞きます。
マイナビが新卒採用実績のある国内企業に対して行った「2017年卒マイナビ企業新卒内定状況調査」によると2016年度(2017年卒)の入社予定者1人当たりの採用費の平均は46.1万円となっています。
これは1社ごとの採用費の総額を入社予定総人数で割った数値で、同調査では1人当たりの平均採用コストが2015年度は45.9万円、2014年度が45.5万円となっており、この3年だけを見ますとそれほど大きな変化は見られません。
しかし、バブル期には文系1人当たり100万円、理系1人当たり150万円と言われていましたし、理系の優秀な人材を確保するには1人当たり300万円とも言われていました。
「バブルの頃と今では時代が違う」という人もいると思います。
確かに当時は新卒学生の2人に1人が上場企業に就職した時代で、大手、中堅中小問わず、各社がとにかく大量採用をしていたので、今とは単純に比較はできません。
学生への情報掲載もネットではなく、紙でしたので、掲載料も相当な金額で、1媒体掲載するのに外車が1台買えるようなものもありました。
ただ、新卒の求人倍率を見てみますと2017年卒が1.74倍、2018年卒1.78倍(リクルートワークス研究所調べ)とバブル期とほぼ同じレベルで推移しています。
つまり、数字上、今はバブル期と同じ超売り手市場に突入していて、中小企業にとって新卒を採用する環境は相当厳しくなっているのです。
にもかかわらず採用単価はそこまで上昇傾向にはありません。
その理由として「お金をかけている(つもり)割にはいい人が採れない」ので、これ以上お金をかけることについて躊躇しているといった背景もあると思います。
ので、「新卒採用のためにこれ以上、採用単価を上げ続けるべきなのか」「いったいいくらくらいが適正なのか」といった迷い、疑問が生じるのは当然のことだと思います。
そもそも採用コストとは就職ナビなどへの掲載費や合同説明会などのイベントへの参加費、出張費、学生との飲食費などを始め、自社説明会や面接、適性試験等を行うためにかかる費用の総額です。
その総額を採用人数で割ったものが1人当たりの採用単価となりますので、採用人数によって単価が大きく変わってきます。
また(大手・中堅中小)企業規模や(人気・不人気)業種、採用職種などによっても変わってきます。
ネットで検索してみるといろいろな金額が出てきますし、無闇に他社と比較して、自社の採用単価が高い、安いと言うのはあまり意味がありません。
あえて比較するとすれば、同業種、同規模で採用成功している他社の採用単価だと思いますが、そこまでの細かい情報はなかなか世の中に出回りませんので、比較は難しいところです。
自社の採用に掛けた費用に対して、満足のいく人材が採用出来ている(=会社の業績に貢献している)のであれば、その採用単価は適正と考えるべきだろうと思います。
●お金をかけないで応募者を増やすためには
採用がうまくいかないからと闇雲に採用コストを上げてもすぐに効果が出るものではありませんし、前述させていただいたように出来るだけ採用コストを抑えて優秀な人を採りたいというのは当然です。
コストを抑えるためには社内のリソースをいかに有効活用するかが重要です。
特に中堅中小企業の場合、結局、最後は「人対人=社員の魅力」で決まることが多々ありますので、リクルーターを任せる社員の人選やリクルーターをいかに効果的に学生と接触させていくか、こうした点を緻密に考えて、実行するだけでも結果、コストは大きく変わってきます。
また経営者、採用担当者が大学のキャリアセンターを地道に回って、パイプを作っていくことも数年後のコスト削減につながる可能性があります。
就職ナビの利用や自社の採用ホームページの充実ももちろん大切ですが、そこにばかりお金をかけるのではなく、自分たちが行動することも重要です。
キャリアセンターの訪問により、就活の現状を肌で感じることも大切です。
またユニークな選考手法で学生間で注目を集めるといった採用戦略もあります。
マスコミなどで取り上げられたこともあるのでご存じの方もいると思いますが「富士山に一番早く登ったら内定」「焼肉を一番多く食べたら内定」「カラオケを1曲歌ったら内定」「裸の付き合いが大切だから面接を風呂で行う」等々、いろいろなものがあります。
このような選考手法は飲食業界やアミューズメント業界等、自社の業種と関連しているものもありますが、まったく関係ないというものもあります。
ただ、話題に上ることで学生からの注目度、認知度が上がり、応募者が増え、結果的に採用に結びつくといった戦略です。
しかし、自社に無関係の話題取りのための採用はやりたくないといった企業も当然多いと思います。
とすれば、そうした企業は自社の採用上、何が問題なのか、その為の解決策は何かを頭で考え、戦略を立て、あとは自らの手や足を動かしていくしか方法はありません。
●「働き方改革」で新卒採用も変化せざるを得ない?
今時の学生が企業を選ぶ大きなポイントの1つに労働環境や福利厚生があります。
世の中全体がワークライフバランスという言葉の下、「働き方改革」を進めるという流れにあり、フレックスタイム制やテレワークを導入して、残業時間を削減している企業も増えています。
こうした流れは充実した人生を送るためには大変良いことだと思います。
ただ、企業にとっての新卒採用とはポテンシャル採用で会社の文化や仕事の進め方をしっかりと理解して、今はほとんど何も出来ないが、将来活躍してくれるだろうという前提で採用している訳です。
入社時は何もできないのが当たり前で、経験を積み重ねることで一人前になっていくのです。経験値を上げていくには時間を要します。
勤務時間内だけで経験値を上げるとすると、一人前になるのに残業をこなしてきた先輩たちと比べ、より多くの年数がかかるのは目に見えています。
スポーツと一緒にはできませんが、チーム練習で出来ないことがあれば、その後、自分で練習するのは当然で、そうした人がレギュラーとして活躍できることが多いような気がします。
最近の学生を見ていますとまだ試合に出た経験もないうちから、チーム練習しかやりませんと言っている学生が増えてきているように思います。
(勿論、すべての学生がそうだと言うつもりはまったくありません)
とは言いましても今の流れは今後、一層加速することが予想されます。
大手企業に比べ、労働環境、福利厚生が劣っていることが多い中小企業の今後の新卒採用は、前回のブログ(中小企業は将来、経営を任せられそうな人材のみ新卒採用すべき)でも書きましたが、必要最小限の将来の幹部候補のみ採用し、その分、即戦力となる中途採用を強化するというのも1つの方法ではないでしょうか。
壮大なテーマにはなりますが、新卒採用単価を見直すとともに自社の新卒採用そのものの在り方を見直してみることも大切かもしれません。
以上、何かのご参考になれば幸いです。