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ライフワークとしての音楽を考えていきます

「熱狂する魂」 貧困と苦難の中から誕生したヒーロー

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グスタボ・ドゥダメルは、1981年生まれ、ベネズエラ出身の指揮者です。
 
ベネズエラのシモン・ボリバル・ユース・オーケストラを率いて2008年に初来日したときの素晴らしい演奏がまだ記憶に新しいのですが、その後、この若さで2010年には名門ウィーン・フィルとのカーネギーホールでの演奏会。
そして12月31日には、ベルリン・フィルハーモニーホールにおいて、ジルヴェスター・コンサート2010を指揮し、世界最高峰のオーケストラとの共演を重ね、着々と巨匠への道を歩んでいる、現在、若手指揮者ナンバーワンではないかと思います。
 
ドゥダメルは裕福な家庭の出身ではありません。エリート揃いのクラッシック音楽界においては異色に見えます。
 
彼を育てたのは、音楽家、経済学者、国会議員でもあるホセ・アントニオ・アブレウ博士が1975年にスタートさせた「エル・システマ」というプロジェクトでした。
 
無料で貧困層の子どもたちに楽器を与え、音楽の基礎や演奏を教えることによって、健全な成長をサポートするのです。周囲にはびこっている麻薬や犯罪から救うだけではなく、そこからドゥダメルのような世界的な音楽家が誕生することになりました。
 
シモン・ボリバル・ユース・オーケストラは、この「エル・システマ」で育った子どもたちのオーケストラです。年齢は10代から25歳と、とてつもなく若い。
 
このユース・オーケストラ来日のときドゥダメルの指揮で演奏したチャイコフスキーの交響曲第5番。クラッシックの王道をいく大曲です。
 
強弱の差が大きく、クライマックスでの爆発力、熱狂の坩堝です。しかし、何が素晴らしいかというと、音楽がすべて生き生きとしていること。全員が、音楽をするのが楽しくてたまらない、ということが伝わってきます。
 
普通、プロのオーケストラでは考えられないことですが、団員がニコニコしていたり、たえず身体を動かしていたり、なんとも自由なのです。
 
特に、超個性的で度肝を抜かれたのが、レナード・バーンスタイン作曲、ウエストサイド・ストーリーの「マンボ」。
 
細胞がリズムで出来ているかと思うほど。さすがラテン系。まさに水を得た魚で、ドゥダメルの指揮に敏感に反応します。
バイオリン奏者は立ち上がり、管楽器は高々と掲げられ、全員で「マンボ!」と叫び、踊りながらの演奏。
 
コンサートホールは興奮に包まれたました。
 
「エル・システマ」の生みの親、アブレウ博士はこのように語ったといいます。
 
「貧困の中で一番心が痛み悲しいのは、住居や食料がないことより、社会の中で存在が認められないということです。貧しい子供でも、音楽家になるために適切な指導が必要だと思いました」
 
アブレウ博士の情熱が実を結んだのですね。
 
自由な発想が、貧困の中から個性的なヒーローを誕生させました。
私が言うヒーローとは、ドゥダメルだけではない、このユース・オケという集団組織のこと。

システムは現在、中南米、他23カ国で実施されており、さらにロサンゼルスやニューヨーク、ヨーロッパでも導入されようとしているのです。これからの音楽界が変わっていく予感がしています。

音楽家は一部のエリートだけがするものではありません。
ベートーヴェンが言うように、音楽は貧しき者、苦難する者のためにある。
だからこそ、皆に伝わるものがあるのだと信じています。
 
昨日、三宅島から避難した子どもたち のことを書いていてこのユース・オケとドゥダメルのことを思い出しました。
 
さて、今日は、ドゥダメル指揮のユース・オーケストラの「マンボ」を聴いてみることにしましょうか。

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