積んで積んで積んで・・・あるときズドンと来る 知らない間に時間の貯蓄はたまっている
仕事をご一緒した声楽家の方と話していました。
話している声がすでに素晴らしいバリトン。その場の空気がビリビリと振動するようで、周囲の人が振り返るほどなのです。
その人は、完全に「響く場所を見つけた」のだと思います。
声楽家はとにかく自分の響く場所を「ひたすら探す」作業が必要。
あのパヴァロッティでさえ、見つけるまで何年もかかったのです。
いくら有名な先生に習っていても、先生はその人の身体の中身までは分かりません。
「方向性が違うよ」とか「いいところに来ているね」とかいうアドバイスは出来ますが、結局のところその人しか分からないのです。
そのバリトン歌手ですが、あまりにすごい声なので、
「いつからそうなりました?」
と訊ねてみました。
「ある日突然なりました。遊園地でバイキングっていう乗り物あるでしょう?その一番はじっこに乗って絶叫してたら、"ズドンっ"てポイントが落ちて。その時分かったのです。」
「つい最近まで本当に"声が小さくて聴こえないよ"って言われ続けてたんです。でもその次の日からは"うるさい、うるさい"(笑)って言われるようになりましたね。」
長い間苦労したのだなあ、と思いました。
ある日突然ご褒美のようですが、あきらめずに積み重ねてきたものがあるからこそ出来たこと。
昨日今日始めた人がすぐに出来るものではないのです。
声楽家の人が行うトレーニングの一つに「ブタバナ」というのがあります。
口を開けながらイビキのような音を立てるのです。
お酒を飲んで気が緩んだとき、しゃべっている途中で、ひょいとブタバナが出てしまう声楽家がいます。
そんなとき「ああ、飲んでいても常に響く場所を意識しているんだな・・・」ということが分かる瞬間です。
12月9日のエントリーでも書きましたが、時間のトリックにだまされて諦めてしまう人がいます。
積んで積んで積んで・・・・諦めかけたときに、予想もしないところで来るかもしれないのを待ちきれずに。
続けていれば時間の貯蓄は貯まっているのです。
心が負けてしまいそうになるときこそ、自分の中では負荷がかかっているのです。かなり積めてきているところなのです。「あれ?もう一息かも」と思ってみるようにしています。
一歩先は真っ暗闇。だからこそ面白いのかもしれません。