なぜヒット曲に「ソドレミ」が多いのか? その秘密とは
ホルンという楽器をご存知ですか?
カタツムリのような形をした金管楽器といえば思い出す方も多いのではないでしょうか。
皆さんがオーケストラの演奏会などで見るホルンは、バルブという切換えがついたフレンチ・ホルンが主流です。
しかし、19世紀前半まで、ヨーロッパでは自然倍音のみで発音するバルブなしのナチュラル・ホルンが使われていました。角笛が原型と言われています。
ナチュラル・ホルンはあまり複雑な音程は演奏できません。
この時代までのホルンは、単純な音形が多いのはそのためです。
しかし、いたずら好きのモーツァルト(1756~1791)は、わざと難しいパッセージを入れて、友人のホルン奏者のためにホルン協奏曲を作曲しました。
自筆の楽譜には、「それ行けロバくん」「ああっ、ああっ」「何という調子っぱずれ」「だめなブタ公」「かわいそうなやつ」「やれやれこれでおしまい」などという書き込みが余白の部分に残されています。
実は、演奏するのが難しいナチュラル・ホルンが最も出しやすかった音形が「ソドレミ」なのです。
この話、以前に東混の秋島先生もお話されていましたが、作曲家の萩原英彦さんがおっしゃるには「最近のヒット曲のために特に用いられているわけではない、昔からある音形」なのだそう。
古来ヨーロッパでは、角笛やナチュラル・ホルンが出しやすく、かつ歌いやすく印象的な「ソドレミ」は、ごく普通のポピュラーな旋律だったというわけです。
ブラームス(1833~1897)は、当時のヨーロッパはすでにバルブホルンに代わっていたにもかかわらず、ナチュラル・ホルンにこだわった作曲家です。
ブラームスは、何事にも慎重な性格で、またその作風も古典的な美しさを尊重しています。推敲に推敲を重ねて作曲された交響曲第一番はなんと19年もかかって完成されているほどなのです。
そんなブラームスの交響曲第一番の第4楽章の冒頭2分ほどのところ、ホルンで演奏される伸びやかで印象的なテーマは「ミ~~~レドーソー」で「ソドレミ」の逆行した形になっています。
きっとナチュラルホルンをイメージして作られた旋律なのでしょう。
また、ブラームスのホルントリオ。ホルン、バイオリン、ピアノで演奏される曲です。
この曲の第4楽章の最初は「ソドドレミミソ」(原調は♭シ♭ミ♭ミファソソ♭シ)になっています。
こちらもホルンが演奏しやすいようによく考えられて作られています。
このあたり、モーツァルトとの性格の違いが感じられて面白いですね。
ブラームスよりちょっと後輩になりますが、リヒャルト・シュトラウス(1864~1949)の「ティルオイレンシュピーゲルの愉快な悪戯」の最初でホルンが奏でる主題も「ソドレミ」音形です。
日本の歌でもとても多い「ソドレミ」音形ですが、ヨーロッパの音楽に影響を受けたことを考えれば、納得できる話だと思います。
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