暗譜しなくてもいいの? 演奏会で譜面を置くピアニスト
暗譜で演奏するのが義務のようになっているのはピアノ・ソロくらいかもしれません。
この暗譜演奏、そもそも、18世紀に作曲家でピアニストのフランツ・リストが始めた、と言われています。ただ、リストの場合、即興演奏が主であったため、譜面を見る必要はほとんどありませんでした。
その後、ピアニストたちは、暗譜演奏のために幼い頃からの訓練を強いられることとなります。
ピアニストが模範にすると言われている巨匠リヒテルが譜面を置いた1974年頃。クラッシック界において「あのリヒテルが」という驚きがあったと思います。彼がきっかけを与えてくれたおかげか、近頃ピアノ・ソロのコンサートで、譜面を置くピアニストが増えているような気がしています。
イーヴォ・ポゴレリチ。
リヒテルばりの真っ暗な舞台での演奏でした。師匠でもある夫人を亡くす前は暗譜だったようですが、最近は譜面を見て弾いていますね。心境の変化でしょうか。
ジャン・マルク・ルイサダ。
「楽譜を見ながら正直に演奏したい」と来日プログラムの中で語っています。
アレクサンドル・タロー。
1998年ミュンヘン国際コンクール第2位のフランスのピアニスト。香り高い繊細な演奏。余計なプレッシャーを除くために譜面を置くそうです。
そして、今最も旬で人気がある中国人ピアニスト、ラン・ラン。
2009年来日公演では、他の曲は暗譜でしたが、バルトークのソナタのみ譜面を置いていました。無理に暗譜するより、譜面を置くことでよりベストな演奏にしたい、という彼の明確な意思が感じられました。
日本人では、作曲家でピア二ストの野平一郎さんが譜面を置いて演奏していますが、彼の一つのスタイルを確立したという感じを受けます。
「本番で怖い思いをして暗譜するくらいなら、ソロを弾かないほうがマシ」と言って、音大を卒業してからは、譜面を置いて許される室内楽や伴奏にシフトしている人も多いのは確か。「ソロなんて音大の試験以来弾いてない」とい人も結構いたりします。
これはサボっているということではなく、その人のパーソナリティや個性で、どちらかというとアンサンブル向きであったり、どうしても暗譜だと実力が発揮できない、という傾向は必ずあるのです。
ただ、最近は国際的なピアニストでも譜面を置いている現状を見ますと、今後譜面を置くことが普通に受け入れられるようになってくる予感がしています。
あの「リヒテルでも置いていた」のです。
同じように語れないとは思いますが、リヒテルのおかげで、素晴らしい才能が世の中からなくならないですんでいるかもしれません。一般の聴衆は、良い演奏ならば譜面が置いてあったとしても、聴きたいものは聴きたいのです。
私自身はというと、記憶力が続くうちはなんとか暗譜したいと思っているのですが・・・。
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