「ウ~」苦しい!
2010.2.6リバティスト練習日記
私が指導を努める合唱団コール・リバティストの練習日記です。
今日は秋島先生のご指導でした。
秋島先生は、現在、日本最高峰のプロ合唱団「東京混声合唱団」の現役テノール歌手で、指揮者、指導者としてもご活躍です。
このリバティストという合唱団を立ち上げたとき、人がたくさん集まれば一流の先生がお呼びできる、そこから本物を知ること、学ぶことで、どんなに人生が豊かになるか、皆さんに味わってもらいたい、それを世の中に還元したい、という気持ちでいました。
今はおかげさまで、マエストロの小屋敷先生を始め、たくさんの先生方にご指導いただいて大変充実した練習を行うことができています。
1月23日の練習で、歌は「アエイ系」と「アオウ系」というのがあり、〔e〕〔i〕の発音に関して、日本語は顎の上下によって〔エ〕〔イ〕を発音しますが、イタリア語では舌の前後によって発音する、ということを勉強しました。
今日はもう一つの「アオウ系」についてです。
それでは鏡の前でごく普通に「アーオーウー」と発音してみてください。
唇がだんだんすぼまってきて口の中がせまくなってきますね?
「ウ」に到っては、口をかみ合わせて発音しているのが分かると思います。
この口で歌おうとするとなんだか苦しそうに聴こえませんか?
口の中はコンサートホールや教会と一緒だと思ってください。
空間の天井が高いほど、音は豊かに響きます。
それでは、今度はあくびをするときの口で「アー」と発音したまま、口を変化させずに、少しずつ唇だけをすぼめていってください。
鼻の下やあごの皮膚を伸ばすような感覚です。
唇の開きが500円玉くらいになったところで、自然に「オ」が聞こえてきませんか?
そして、さらにすぼめていき、親指をしゃぶる程度の開きになったところで「ウ」が聞こえてくるはずです。
これが、イタリア語を始めとするラテン系の〔a〕〔o〕〔u〕です。
特に、イタリア語の〔u〕の発音では、口の容積を保ったまま、舌を軟口蓋(口内の上奥にある柔らかい部分)の方へ引き上げて発音されるので、日本語のかみ合わせた「ウ」とは比較にならないほどの豊かな響きとなります。
外国人の方は日本人の「ウ」が気になる方が多く、東京混声合唱団においても、外国人指揮者を招聘して演奏会をする場合、必ず〔u〕の母音についての注意があるそうです。
そいうときは大抵〔0〕に近づけた〔u〕で、という指示があり、プロの技術を持ってしてもいかに「ウ」が難しいか、ということがお分かりいただけたと思います。
ただ、どんなに上手に発音しても〔u〕は倍音が少なく、響きが作りにくい母音でもあります。
オペラのアリアで、曲のクライマックスでは〔e〕や〔i〕の母音が多いことはあっても、〔u〕を使用することがあまりないのは、そのためなのではないでしょうか。
よって、オペラ歌手はことさらに〔u〕の母音に気を遣い、用意周到に歌っているのです。
この日もう一つ、ブストの「アヴェマリア」「オーマニュムミステリウム」において、ほとんど同じ音程で、息のニュアンスを持って、ピアニッシモでしゃべるような、または祈るようなパッセージがありました。
このとき大事なのは息のスピードです。
基本は普段のおしゃべりのときのスピード感。
そして、母音は口の中を広く確保し、響きがやせないようにします。
丁寧な[u]の母音、そしてしゃべるようなパッセージの「レチタティーヴォ」、また、クライマックスでの[e]の発声。
その良い模範例となる、ミレッラ・フレーニによるオペラ『ラ・ボエーム』のアリア「私の名はミミ」を聴いてみることにしましょう。
やはり[u]はそれほど多くはありませんが、「Lucia」「fuori」「quando」「il profumo d'un fior」など丁寧に発音されているのが分かります。
そして曲最後のしゃべるような部分。
いかに早いパッセージでも母音が安定していますね。
曲の中間部分クライマックスにおける高いラでの「e mio!」の[e]の口の開き方は最高だと思います。
曲も演奏も素晴らしいので、勉強しながらぜひお楽しみください。
ちなみに共演しているルチアーノ・パヴァロッティとは同じ乳母で育ったそうで、運命を感じさせますね。
その乳母のお乳は歌が上手になるのでしょうか・・・。ぜひ私も飲んでみたかったと思いました。