APPS JAPAN 2023 講演:村井宗明氏「自治体の行政業務専用ChatGPT マサルくんは、なぜ公務員に爆発的に普及したのか?」
6/14(水)~6/16(金)に幕張メッセにて「Interop Tokyo 2030」が開催され、同時開催の「APPS JAPAN 2023」(アプリジャパン2023)にて、生成AI研究会(GAIS)として、3つの講演をコーディネイトさせていただきました。
AIの進化が社会のあらゆる面に大きな影響を与える中で、特に注目を集める分野が行政における生成AIの活用です。
その一環として、AI技術者の村井宗明氏が行政専用ChatGPT「マサル君」の開発を手がけています。この講演では、その開発の現状と今後のビジョンについて語っていただきました。
元々ゲーム開発から出発した村井氏は、衆議院議員として大臣政務官を務め、引退後にはITエンジニアとして活動。現在は、東武トップツアーズのCDOとして、行政専用のAI開発に携わっています。その活動は、政治・行政の知識をもつITエンジニアという特異な立場から、公務員専用のChatGPTの開発・運用に至っています。
マサル君の開発は、AI技術が急速に発展し、社会がデジタル化を求める中での必然性から始まった、といいます。それまではWeb3やNFT、メタバースなどが主流の話題だったところ、ChatGPTの出現とともに行政デジタル化、行政DXが主流に変わりました。
東京都が3月に入札を行った「AI相談事業」では、全国のAI企業、IT企業の中から「東武トップツアーズ」を採択し、注目を集めました。
「マサル君」は、観光AI「東武あい」と政治用AI「ミノル君」とともに開発された3つのAIの一つだ。
しかし、実際には「マサル君」が予想以上の反響を得た。公務員が前例や他の実態の資料を使いたがる傾向に対し、「マサル君」は最新の公務員用データを学習しており、その有用性が認識されている。「マサル君」は、現在、全国の自治体で1万回以上利用されている。毎日300回から400回程度使用され、その利用数は現在も増加傾向にあるそうです。
「マサル君」のバナーはデジタル田園都市国家構想応援団のサイトに埋め込まれており、これをクリックすることで利用することができます。元々は115の自治体の公務員に向けて紹介し、自治体職員セミナーを開催し、さらに活用を呼び掛けてきました。
「マサル君」は3,170個の白書のデータを学習している。これらは公務員が頻繁に利用する白書で、そのデータがマサル君の知識源となっている。また、開発者の一部はかつてLINE社で働いていた経験を持ち、それがマサル君開発に生かされている。しかし、一方で問題もある。例えば、公務員が出力するフォーマットが、兵庫県川西市のフォーマットに近いものが出てしまうことだ。これは開発に用いたデータが川西市のものだった影響で、現在、この問題に対する解決策を模索中である。
「マサル君」が公務員に広く利用されている理由の一つに、ユーザーが入力したデータが学習データとして利用されることがあり、これが公務員にとっては利用の障壁となる。これは、有料APIを使用することで回避できるが、その代わりに費用の問題が出てくる。この問題を解決するため、デジタル田園都市国家構想応援団がこの費用を支払い、公務員は無料で「マサル君」を利用できるようなモデルを考案した。これにより公務員は安心して「マサル君」を利用し、APIの費用は団体が負担することとなった。結果、「マサル君」は予想以上に広く利用されることとなったそうだ。
「マサル君」は、公務員の業務において、挨拶文、メール文、募集書類、督促書類、答弁書、企画書、提案書、アンケート作成の8つの領域に対応している。たとえば、ある自治体の部長が挨拶する場面などで使用すると、それに応じた挨拶の文章を作成する。その際には、行政専用のデータが反映される。
消防団の挨拶の際には、防災白書の特定のページの情報を反映した挨拶文を作成することができる。これは、人間が全部の情報を把握することは不可能だが、ChatGPTとしての「マサル君」ならその全てを暗記しているという点で優れている。
生成AIの利用が公共部門や地方自治体で活用され、日常業務を自動化し、業務効率を向上させる可能性があることは明確だ。特に、文書作成の助けとしての役割に注目が集まっている。具体的な例としては、子育てセミナーや募集書類、答弁書作成、観光促進策の提案など、公務員が日常的に取り組む業務の一部が挙げられている。
この講演では、新たなサービスについても紹介された。それは、住民からの問い合わせに対する新しい対応策として、住民からの直接的な質問への回答という課題があるが、問題点も浮き彫りとなっていて、通常は、公務員が国の白書を見て答えを得られるが、住民にそのまま答えるには白書の言葉が難解すぎるという問題だ。
そのために「紫式部ちゃん」という新しいサービスをリリースした。このシステムは、自治体ごとにエクセルを作成し、住民からのよくある質問400を基に作り、それを別のバージョンでアレンジする。これにより、各自治体は自分の自治体専用のChatGPTを作ることができる。しかし、我々が以前開発したマサル君と紫式部ちゃんには大きな違いがある。マサル君は「わからない」と答えることがないが、紫式部ちゃんは「わからない」とい答えることがある。ポイントは、住民向けに直接使ってもらうことでなので、公務員が間違った回答をすると困るとの意見から、紫式部ちゃんは400の質問に入っていなかったら「わからない」と答える。つまり、紫式部ちゃんの強みは間違いが少ないことだ。その代わり、約2割は「わからない」と答えることになる。しかし、それはChatGPTの弱点―不明瞭な質問に対する回答の精度―を解決する。マサル君は近い言葉を見つけて回答するが、それが間違いを生む。それに対し、紫式部ちゃんはわからない場合はすぐに「わからない」と答える仕組みになっている。「わからない」と答えた問題だけを集めてエクセルに追加し、どんどん質問を埋めていくことで各自治体の対応が便利になる。生成AIを活用して公務員の単純作業を省き、その時間をクリエイティブな作業や住民と向き合うことに割り当てていただく。365日、24時間住民の問い合わせに答えること、これこそが真の行政改革だと、村井氏は主張している。
*上記の記事は、リハーサルを録音し、OpenAIが提供するWisperにて文書起こしを行い、ChatGPT-4にて、文書のまとめを行ったものを修正して作成しました。